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■奇襲

本日2話更新します。

 四十あい国、とある場所――某時刻。



 まぐわう男女が一組。

 室内は雰囲気を出すためかほんのり照らす行灯あんどんのみ。前後に伸びる影がゆっくり止まった。


「……どうか……されましたか……?」


 動きが止まる男を心配したのか、情婦であろう女が男に声をかける。

 乱れた髪とじっとり汗ばむ肌が今さっきまで情事が行われていたことを指していた。


「んーー?」


 灯が男の身体を照らしだす。男の身体は鍛え上げられた一兵のようにたくましい。しかし表情はよく見えない。俯く顔にさらりとした白髪はくはつがかかり、目元を覆っている。


 男は女を組み敷く形でいたが、思い切り溜息を吐く。


「わざわざこの瞬間狙ぉとるん?」


 男は身体を起こしながら頭をぼりぼりと掻き、呆れた声で言う。


「むっちゃええ趣味をお持ちやねー」


 男は女に手のひらで退くように合図し、気怠そうに洋袴ズボンを履いた。

 女が退いたと同時に、女の頭があった部分に頭上から黒く太い針がいくつも鋭く刺さる。

 同時に部屋の扉が勢い良く開かれ、同じく黒い針が男の首元に向かって飛んできた。


 しかし黒針は男の元に届くことはない。針そのものの時が止まったかのように男の周囲で空中に留まっている。

 男は扉には目を向けていない。白髪の隙間から瞳が見える。その瞳は紅く、光っているようにも見える。


 その間にも部屋の外から再び黒針がいくつも飛んできていたが、全て最初と同じように男に届く前に空中で停止していた。


 男の紅い瞳がぎらりと扉の外に向けると同時に、浮いていた黒針が向きを変え扉に向かって放たれる。


 扉の外には黒い装束に身を包んだ人物がいたが、黒針が飛んできた刹那身を翻し寸でで針をかわす。

 部屋の中の男を睨みつける顔には深く皺が刻まれていた。


「お前らさぁ」


 白髪の男は寝具に突き刺さった黒針を1本抜き、左右に振って針を観察しながら言う。


「こんなもんで俺を殺れると本気で思っとるんか?」


 男がそう言うのと同時に、天井裏からどさっと何かが倒れるような音がした。


 黒針は扉だけでなく、天井にも数本突き刺さっていた。

 扉の外にいた間者に注意が向けられていた隙に天井裏から再び針が放たれていたのだが、男は先ほどと同様に針を飛ばし返していた。


 小さな針穴に寸分狂わず返された黒針はそのまま天井裏にいる間者に当たったようだ。

 寝具の針の刺さった周辺がじわじわと溶けている。


「毒ねぇ。俺が。これで?」


 扉の近くにいる男は何も言わない。


たぎるこの気持ちどないしてくれんねん」


 白髪の男はゆっくり身体を扉に向け、首を片手で触りこきりと音を慣らしながら言った。


「それともジブンがもっと気持ちええことしてくれんの?」


 目線を扉の男に落としたままにっと口角を上げた。


 白髪の男は肘を軽く曲げたまま、両手の平を軽く身体の外側に向けた。そのまま流れるように背中で手を交差させ、もう1度腕を前に動かしたときには刃先に向け刃が太くなった切れ味の鋭そうな双剣を握っていた。


 瞬きをする間もなく、男の頭部が宙を飛ぶ。


 いつ近付いたのか分からないほどの一瞬で間合いを詰めた白髪の男は、腕を交差し双剣を男の首から横一直線に引いていた。

 切り離された身体からは血飛沫が上がり白髪の男に撥ね、降り掛かる。


「あれま」


 拍子が抜けた声で白髪の男は言うと、顔に跳ねた血痕を手の甲で拭う。

 ごとっと鈍い音と共に頭部が地面に落ち少し転がった後、間者の身体がその場に崩れ落ちた。


 白髪の男は男の屍を足で蹴り転がし、仰向けにした。

 何も変化はない。胴と頭が切り離された死体がそこにあるだけだ。


「おいおいおいもうしまい?なんかあるやろ、蘇るとか実は分身でしたとか」


 話しながら右手の剣を男の頭部近くに勢いよく突き刺す。


「寄生されてました、とか」


 剣は頭部から現れた細長い黒く蠢く何かを貫いていた。

 うねうねと動くそれは血液が付着しており赤黒い。切断された首の隙間から出てきたようだ。動きが止まると同時に塵のように細かく分解され空中に散布する。貫かれていた本体は消え、剣先には何も残っていなかった。


 その様子を見ていた白髪の男は今度は目元を緩めて嬉しそうに再び口角を上げた。


てん様!!」


 少し遠く、扉を抜け廊下の先から声が聞こえてきた。足音は複数のようで、ばたばたと駆け足で甜と呼ばれた男のいる部屋に近付いてくる。そこに体格の良い屈強そうな男が5人ほど現れた。


「なあ――警備どないなっとんの?」


 甜は新たに到着した男達を見ることなく、冷静に低い声で問いかける。


「申し訳ありません!!若手がやられてしまいこの様で……」


「こんな雑魚侵入させて面子丸つぶれやで」


「申し訳ありません!!」


「まぁええ、ちょっと気分もええし許したろ。上のもよろしく~」


「え?は、はい……」


 甜は男の1人から布を受け取り首や身体に付着した血液を拭う。

 他の男達は各々やることが決まっているのか、素早くその場の処理作業に入る。2人は屍となった男を抱え外に運び出し、1人は扉についた血液の処理を、1人は指示を出し床に染みた血液と黒針の処理を素早く行っていた。


(雑魚とは言うてんけど、侵入者の能力が低ぅても操られとったら別や。黒いヒルのようなあれは間違いなく異能によるもの。おおかた自分の意思とは関係無くここまで侵入してきたのやろ)


「脅されて飲まされたんか、意図せんと飲んだのか。どちらにせぇ、異能者に目付けられた時点で終いや。あんた、黒蛭の異能者調べといて。どうせ碌なやつやないだろうけど一応ね」


「はっ!!」


莉里りり――??」


 甜は女と思われる名を明るい声色で呼ぶ。

 部屋の更に奥、寝具近くの影から情婦がおずおずと現れた。若く美しい顔立ちをした女で艶のある長い黒髪を胸から前に垂らしている。


「続きしよ」


 情婦は驚いた表情を一瞬見せる。しかし動揺を隠すようにすぐ元の表情に戻った。


「あの、甜様……寝具が……」


「そんなもんいらへん」


 甜は莉里と呼ばれた情婦に向かい指をちょいちょいと手前に動かして言う。

 清掃作業に入っていた男達は甜が指示を出すまでもなく、手を止め部屋の扉をゆっくりと閉めた。



【作者から読者の皆様へ】


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