狼は走る
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「殺るつもりかよっ……!」
牙禅は後ろにのけ反りながら身体を器用に捻らせ避け続ける。しかしその内の一閃が喉元をかすめた。牙禅は脚に力を入ればねのように少し高く飛び後方に一回転し刺客と距離を取る。
しかし距離を取るのと同時に別の刺客から牙禅に向かい再び矢が放たれた。矢が空を切る音を察知した牙禅は、半月状に構える姿勢で右手で素早く腰の刀を抜刀し、飛んで来た鏃を当てる。
「……はぁっ……」
連続して仕掛けられる攻撃に徐々に息が上がる。
どうやって切り抜けようか思考を巡らせていると、遠くから草木を素早くかき分ける音が聞こえ、目の前に黒い影が飛び出した。
牙禅は突然の来訪に驚き目を開く。
――狼だ。
黒い毛を逆立たせるように唸り声をあげ威嚇しながらも牙禅に背を向けている。二尺(約60cm)ほどの体格も威嚇していると我が子を守る母親のように感じ大きく見えた。
疑問が生じている間に狼は地面を蹴り上げ矢が飛んできた刺客の方へと素早く移動した。
ほんの少しの後、男のうめき声が聞こえ木の上から1人刺客が地面に落ちる。その喉元は食い千切られて血にまみれている。
狼が軽く地面をひと蹴りするような気配を感じた。
更にもう1人、同じく声をあげどさりと地面に落ちてくる。
「ギャウゥゥ!!」
突然狼の声が森に鳴り響く。牙禅が音の方を見ると、狼の胴体に小刀が2本左右から刺さっていた。しかし狼が怯んだ隙に残りの刺客はすぐに退却したらしい。次の一手は来なかった。
狼が脚を引きずるような動きでひょこひょことゆっくりこちらに戻ってくる。
狼の目は澄み切った水色で、目元には赤く逆三角形の彫りのようなものが見えた。
「……助けて……くれたのか?」
目の前の狼――化獣に牙禅は問いかける。
狼の化獣は反応を示さない。
『にんげん去った』
『あっというま』
いつの間にか鳥の化獣が二羽とも戻ってきており、頭上の枝にとまり話かけてくる。
『本当に八十の気配を持つとはな』
急に低くどすの聞いたような声が牙禅の頭の中に響く。
牙禅は一瞬止まり目線だけ狼の獣に移した。
『想像よりもはるかに濃いぞ……何をすればこれほどまでになる』
また声が牙禅の頭に響いた。
「……その、俺の頭に直接響く話し方やめてくれないか」
牙禅は帯刀しながら眉を潜めて言った。
『……この小僧我の声が聞こえているのか?どうなんだ』
どうなんだ、というのは鳥の化獣に言ったようだ。二羽の化獣は頭を傾けている。
「さっきとやり取りが同じだが……聞こえている」
狼の化獣は鳥の化獣から牙禅に目線を移動する。
『あぁ、あぁ理解したぞ。小僧八十に触れたな。人ならざる者、しかし我らとは似て異なる異人』
(この狼何を言っている……というより)
「お前身体大丈夫なのか……?」
牙禅は狼の化獣の両脇に刺さった小刀を指差して言う。
『わしらは獣とは異なるものだ。こんなもの時間が経てば抜け落ち治る』
狼がそう言うと小刀は刺さった部分が肉に押し戻されるように外側に抜けていき、地面にかさりと音をたてて落ちる。小刀が抜けた皮膚は赤くなってはいたが血はすでに止まっていた。
『まだ傷が癒え切っておらぬというのに面倒が増える』
「傷……?」
狼の化獣がそう言うので牙禅は狼を観察すると、後ろ脚から白く飛び出した骨が毛の隙間から垣間見えた。
「少し待て……どういうことだ?俺は……今何してる?なんで化獣とこんな……」
『なかよし!』
『かいわ!かいわ!』
「……少し静かにしてくれ。頭が……理解し難いぞ……」
『しずかする!』
牙禅は少し落ち着きを取り戻すと同時に現実に理解が追いつかない様子だった。
『小僧、少しは賢いようだな。我らに刃を向けないのは正しい選択だ。我らは定めに従っただけ。小僧を助けたつもりはない』
「待て待て待て」
狼の化獣は牙禅に近づき、くん、とにおいを嗅ぐ仕草をする。
『懐かしき匂いも纏っておるとは。小僧は……何者だ?』
「……それは俺の台詞だろう……」
(とりあえず化獣達は俺を襲うつもりはないらしい……。くそっ。化獣は化物なんじゃねぇのか?会話ができるなんて……ましてや人を助けるなんて聞いたことがない。形が違うのに意思が通じるのも初めて知った……それよりなんで言葉が急に分かるようになった?なんで助けた?定めってなんだ?)
『煩い』
「は?」
『先ほどから丸聞こえだ。煩くて敵わん、少し静かにしろ』
「なっ……」
(俺は口を開いてないぞ……)
狼の化獣は冷めた目線を牙禅に移す。
『口を開かずとも心声が丸開きではないか。お前の声は全て聞こえている。しかし人間は相変わらず内側の声ではよくしゃべるのだな』
「……」
聞きなれない言葉が出て疑問だらけの牙禅は更に疑問が増え、その場で少し固まった。
「あーー……手を貸してくれて感謝する。お前達に敵意が無いことも分かった。……だが俺には理解できないことが多すぎる。正直に言うと教えを乞いたい」
頭に響く声に慣れてきた牙禅はゆっくり一言ずつ丁寧に伝える。
『ふむ……。小僧が八十に触れ生きている以上我らもお前を無視するわけにはいかなくなったからな。良いだろう』
狼の化獣はそういうと一声遠吠えを上げた。吠えが森と山に木霊し消えかけたころ、森の奥から数頭の茶色い狼がやってきた。牙禅は反射的に構えるも、狼の化獣がそれを制す。どうやら新たに現れた狼も化獣のようだ。
現れた狼達は目の前の黒い狼の化獣よりも一回り小さかった。鼻ですんすんと吸ったのち、それぞれが首を引きちぎられて息絶えた刺客の元へ行く。そしてちぎれていない逆側の首を咥えて刺客の身体を森の奥へと引きずっていった。
「何をした?」
『森に穢れはいらぬ。不浄なものは取り除くだけだ』
死んだ死体をそのままにしておくつもりは無かったと言うことだろう。
『お前は追われているのだろう?さっさとこの地から去るぞ、ついて来い』
「どこに行くんだ」
『我らの地に。お前と同じ者がいる』
「同じ……?」
『半神半人の忌み子だよ』
「……どこが同じなんだ」
『お前のその黒腕、輝きを灯す翡翠の瞳、心声。どこが人間らしいんだ?それにお前は使役を使うだろう』
牙禅は急に自身の異能について触れられ立ち止まる。化獣に異能を使ったことはない。知っているはずがないのだ。
『我はお前のことを昔から知っている』
「……一体何が……どうなってんだ……」
狼の化獣は後ろ足で地面を蹴り、軽やかに森を駆け抜ける。鳥の化獣は見送るようにこちらを見ていた。牙禅も急ぎついて行く。かなり早い。気を抜けば置いていかれそうだ。
『何が聞きたい』
「お前達は化獣で合ってるっ…よな?いつから会話できるようになったんだ」
『いつからとは不可思議なことを言う。お前達人間が来る遙か昔からだ』
「ずっと昔からっ?」
走りながら会話を続けるのはなかなかに難しい。声がところどころ上ずる。
「俺が狩った化獣はっどいつも言葉なんて使ってなかった」
『眼の濁った奴らのことか。あやつらは知性を忘れたただの獣に近しい存在だ。本来の我らとは異なる方向へ向かった者の末路だよ』
「お前っ……分かりにくい言い回ししてんじゃねぇっ……」
『人間は歳月とともに阿呆にもなったのだな。お前の言う化獣は我らのように会話はできない。人間はおろか我らとも意思の疎通ができないのだ。長い年月と共に自身の存在の意味を忘れ、ただ本能に従う獣に成り下がる。それがお前の知っている化獣だろうよ』
「お前とはそもそもっ……違うってことだな?」
『その認識で良いだろう』
「あとはなんで俺を助けたっ?」
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