5そうして僕は何かの始まりを目撃する
一週間ほどして、明華の事やエンコンの事も諦めるというか、うっすらと忘れかけていた。その間にも別にエンコンに遭遇したとか、明華の裏の顔を見てしまったとか、新たなラブコメフラグが建ったとかそんなこともなかった。
これはもうあのルートは無いですよっていう事なんですかねぇ?
学校に来たとしても話しかけようとしてもあらかじめ避けられるか、教室内だとあからさまに無視をされるか睨みつけられる羽目になり、クラス内での僕の立場が明華にアタックを仕掛けるも全然相手にしてもらえない哀れな片思いしている男子阿智良湊君になっている。
冷静に考えるとそんな立ち位置でも悪くないかもなと思っていたけど、これで他の子とフラグでも建てようものなら二股かけるクソ野郎ってことになるからやっぱり何もよくなかった。
下校時間となり、僕らは最近になってよく行くようになった喫茶店に来ていた。どうも晴斗がお気に入りらしくそこを教えてもらったというわけだ。大通りから1本中道に入ったところにあるお店で古いというよりもアンティーク調で揃えましたといった感じのお店だった。
「それにしても湊も難儀な相手を選んだよね」
唐突に晴斗がそんなことを言い始めた。難儀な相手って明華の事ですかね?別にそんなことないっと思ったけど、一週間ほど明華につきまと……関わってみて思ったけど、彼女どうやら学校でも誰とも、それこそ女子とすら話しているところを見たことがない。
「明華のこと?」
「そうそう明華さん、なんか一匹狼っていうか、孤高の人っていう感じがするよね」
おおむね晴斗と同じ意見である。やっぱり他の人もそんな感じに見えるよね、普通に人付き合いが苦手なタイプなのかな?あの見た目で陰キャの可能性があるって現実は不思議だなぁ、そんなこと絶対ないってわかるけど。
「お前も一人に固執するって珍しいよな」
「まって?それまるで僕が女性なら誰彼構わず手を出してるクソ野郎みたいに聞こえるんだけど」
「そういってるんだけど」
「あひぃ~」
ひどい、一番付き合いの長い親友からそんな風に思われていたなんて!!僕はあまりにも心を痛めてしまったので慰謝料を請求します。覚悟の準備をしておいてください。
「湊はそんな人には見えないけどなぁ」
僕が泣きまねをしていたら苦笑気味の声で晴斗がフォローしてくれた。ありがとうお前が一番かわいいよ、どうして男なんだろうか、いや、まだ男って確定したわけじゃないよな、可能性を信じろ阿智良湊。
一路も一路で別に本気でそう思っているわけではないのだろう、けらけらと笑っていた。そういえばこいつ彼女もちじゃん、こいつに聞けば何かわかるかもしれん。
「そういえば、一路はどうやって紗季ちゃんと付き合ったの?」
そういって一路に話を振ると、顎に手を持っていき視線を上の方に向ける、こいつが何か考えたり思い出すときにする癖なのだが、それが何となくカッコついてしまうのが癪だ。
「ぼくも参考までに聞きたいな」
すると晴斗の援護射撃、まさか晴斗も彼女が欲しいってことなのか!?ということはやはり男、この事実がほぼ確定してしまったという事か……。
僕が勝手にダメージを受けていると一路が話し始めた。
「なんていうか、これっていう出来事とかは思いつかないけど、話しているうちにお互いに気が合って、気が付いたら紗季のことばっか考えてたから告ったって感じか?」
「なんで自分の事なのに疑問形なの」
そう返すと、一路はどこか照れ臭そうに笑った。隣の晴斗はなんでか知らんけど目を輝かせてる。うん、その姿を見ればもう君は立派な乙女だよ。多様性の時代だからね、僕はちゃんと受け入れてあげるからね。
「そんなもんなんだって、お前だって明華に固執する理由説明できるのかよ」
へらへらとした笑いに切り替わった一路、でも残念なことに僕は説明できてしまうんだなこれが、でも話したところで信じてもらえないし「はいはい、おじいちゃん夕飯は昨日食べたでしょ」とか言われるにきまってる。いや夕飯は毎日食わせろよ。
僕が黙り込んだのを見て反論できないと受け取ったのか一路は一つ息を吐いてから続けた。
「結局さぁ、感情の問題なんだし理論的に言葉では説明できんよ、できたら今頃コンピューターが感情もってターミネータの世界になる。そして湊は死ぬ」
「クソ効果禁止カードやめろ」
「そうはいっても納得はいかないみたいだね湊」
晴斗がそんなことを言ったが、当たり前のように納得なんかできない。だってフラグどこにあったんだよって話だし、そんな小説とか漫画が販売されてみろ「これなにがおもろいん?」って言われて終わる発行部数は57、そうあまりにも有名なグロタンディーク素数だね。ネタにされすぎてきっとみんな知ってると思ってる。
グロタンディーク先生があまりにもかわいそうすぎる一生こすられるネタを提供してしまうなんて、しかもネットの発達によってそれがもっと広まってる気がする。高校生の僕が知ってるくらいだし。
「まぁ、自分でいつかピーンときたらってことなんじゃねぇかな」
一路自身も言語化が難しいようで少し苦しそうな顔をしながらそう言った。
あまり納得のいく回答はもらえなかった鬱憤を晴らすというよりも、飲み込むために注文したコーヒー(角砂糖5個ミルク入り)を一気に飲み干した。うーんカッコつけてコーヒー頼むんじゃなくて素直にカフェオレとかにしておけばよかった。
すると一路のスマホが鳴る。画面を見て顔が明るくなるのを見るに彼女なんだろうなぁ。
「そしたら俺行くわ」
予想通り紗季ちゃんからのようで、一路もコーヒーを飲みほした。それを合図に晴斗も飲み干したところで、ぼくらはそろって会計を済ませて店を後にした。
一路を見送りさぁ帰りますかなぁとなっていた時だった。視界の端に見覚えのある金髪。え?明華?と思いそちらに目をやると。どうやら他にも人がいるらしくその人から手渡しで現金というよりお札をもらっていた。その人物の姿は見えなかったけれど、そのままその人について行くのか路地裏のほうへと向かっていった。
え?は?……ん?????
これはつまりで詰まるところのアレですか?Pから始まって”つ”で終わるあれですか?いや、まさか明華がそんなことに手を染めるわけ……え?どうしたらいいの?
「はははっは、晴斗今のみた?」
「え?なにが?」
かなりの冷静さを装って晴斗に聞いてみたところ、晴斗はスマホをいじっていたらしくその現場は見ていないらしい。よかったのか悪かったのかわからないけど、とりあえず誤魔化しておくことにした。
「いや……なんでもない、それでは戸上氏、我々も帰りますか」
「なんで古のオタクみたいになってるの?」
「そういう気分の日もあるでござろうにます」
「めちゃくちゃになってるけど、まぁ湊だししょうがないか、また明日ね」
僕ってことで納得されるのはいささか遺憾の意ではあるけれど、晴斗は良い笑顔で手を振って去っていった。僕もそれに手を振り返したが。晴斗の姿が見えなくなるとそのまま立ち尽くしてしまった。
ええええ気になりすぎるんですけど、何荒れ、絶対やばいやつじゃん、こういうときって警察?それとも救急車?先生?まっじで訳が分からん。それに金髪ってだけでまだ明華と確定したわけではないけど、あの後ろ姿はあまりにも明華すぎるし、何ならあれはうちの制服だったわけで。
悶々とした気持ちで、そうしたらいいかわからないままでいると、先ほどまでいた喫茶店のドアが開く音がした。
「ちょっといいかしら」
僕にそう声をかけてきたのは、その喫茶店で働いているお店の人だった。暗めの茶髪、飲食店な事もあってか髪はまとめられていて黒のエプロンを着ている。赤いフレームの眼鏡をかけて優しそうな眼が最高にオギャれそうな圧倒的バブみを持ったご婦人だった。




