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数学弱者の最終定理 ~異能力バトルに数学って厄介すぎるんだが~  作者: 二毛作


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4追いかけたのはきっとフラグ

 午前の授業なんてものは昨日のことを考えているだけで時が吹っ飛んだかのように過ぎていった。多分僕の机にはずっと古典の教科書が開かれていたことだろう。昼休み前の授業は物理だったのに古典の教科書とノートが開かれていたが、ノートに変な線がいっぱいあるだけでまるでなんの意味もない。


 一路に声をかけられて昼休みに気が付いたわけだけれども、それまで一体僕はどんな感じだったんだろうか。多分だけど物思いにふけるイケメンだったに違いない。そう思うことで自己肯定感を上げておく。


 あれ?そういえば明華は?


 そう思ってあたりを見渡してみたが、どこにも姿は見えなかった。多分この時間だし、購買か学食にでも行っているのだろうか。僕もいま一路といつの間にか一路が仲良くした人と一緒に弁当を食っているわけだ。


「それで、阿智良くんは球技と音楽が趣味なんだっけ?」


 そう今まさに僕に話しかけてきたのがその人なわけだが、名前を戸上トガミ晴斗ハルト僕よりも少し背が小さくてふわっとしたくせ毛?猫毛?つまるところ緩いパーマがかかったような見た目に華奢であるがゆえに僕は男子の制服を着た女子に見えてしまった。これが男の娘ってやつですかね!?


「ごめんあれ嘘、噓ってほどでもないけど、こう答えたらラブコメチックになるかなって思って」


「えぇ?……」


 あれ、なんかかわいそうな人を見る目というか、「コイツまじか?」みたいな視線を感じるのはなぜだ?高校2年生だぞ?恋愛求めずしてどうするんだ、それでも玉ついてんのか?あれ?いや待てよ?ついてないとそれはそれでありだな。


「気にするな戸上、こいつ昔からこんな残念なやつなんだ、だからサンタの事も信じてるから夢を壊しちゃいけないぞ」


「あ、そうなんだね!」


 一路のフォローとも言えない一言で戸上君の顔は明るくなったが、代わりに僕の評価がおかしなことになりそうなんだけど、その件についてはどうお考えですか一路さん。それから昨日からこいつ僕にサンタ信じてるキャラ付けしようとしてない?



「いやいや、嘘は言ってないし悪い事じゃないだろ。家に帰ったら音楽くらい聞くし、たまに体動かしたくなったらボール蹴ったり投げたりしてるし」


「俺がフォローしたのは嘘の部分じゃなくてラブコメ云々のところだったんだけどな」


「これが孔明の罠か」


「阿智良くんの自爆かな」


 よかったそんなやり取りでも笑ってくれる。これは受け入れてくれたとみて間違いない。ありがとう戸上君が一番かわいいよ。


「そういえば今日はいつにもまして変だったな、というかその腕どうしたんだよ」


 失礼な言い方だったが一路は僕の手首当たりのアザを見てそういった。昨日のエンコンとのやりあいでできたアザだった。1日で治るわけがなかったが、隠すものも何もなく、かといって包帯巻くとなおさら一路に馬鹿にされそうだったのでそのまま登校したのだった。


「異形の者との戦いの証」


「湊、ぼくの家の近くの脳外科紹介しようか?」


 戸上、返しがすでに一路みたいになってるし、名前呼びありがとう。ご褒美かな?ご褒美だね。一路もまた変なこと言ってるくらいにしか思ってないんだろう。とが……晴斗のツッコミでげらげら笑ってやがる。本当の事なんだけどなぁ


――――――


 昼食を食べ終えたので、僕はすこし校内をぶらついていた、何か当てがあったわけではないが何となく図書館に向かおうかなくらいに思っていた。二人には「ラブコメフラグ探しに行く」と伝えたらまた変な奴って思われただろうが、少し一人で考えたかったのもあったので好都合だった。


 そんなときである、あの見覚えのある背中、髪、立ち姿。明華だ。


 明華の背中が見えた瞬間、僕の中の何かがスイッチ入った。いや、別に恋とかじゃない。たぶん。きっと。おそらく、ただ、昨日のあれは夢じゃないってことを確認したかっただけで、それに、あんなにボコボコにされたのに、なんか気になってしまうのは仕方ないと思うんだよね。これはもう、ラブコメ的な意味での“気になる”ってことでいいんじゃないかな?うん、そういうことにしておこう。


「おーい、明華さん!昨日のことなんだけどさー!」


廊下の向こうを歩いていく彼女に向かって声をかける。当然のように無視された。まぁ、想定内。ラブコメってのは、最初は冷たいくらいがちょうどいいって相場が決まってる。知らんけど。でも、ちょっと待って、彼女、曲がり角を曲がったよね?これはもう、追いかけるしかないじゃん。曲がり角って、ラブコメの聖地だよ?


 ぶつかるか、すれ違うか、何かが起こるかの三択しかない。よし、行くぞ僕。ラブコメの神よ、今こそ力を貸してくれ!


 勢いよく角を曲がった瞬間だった。


「うわっ!?」


 足元が、いや空間がなんか変だった。視界がぐにゃりと歪んで、床が一瞬だけ遠くなった気がした。そのままバランスを崩して盛大にすっ転ぶ。気のせいかもしれないが、手をついた床がパキッと音を立てて、まるでガラスでも割れたかのような感触があった。


「いってぇ……って、え?今の何?」


 起き上がって周囲を見渡すと、足元に何かがあったわけでもない。何かを踏んずけたり、壊してしまったようなものもない、破片どころかほこり一つない綺麗な廊下があるだけだった。でも、あの“割れる音”は確かに聞こえたし、床の一部が一瞬だけ光った気もする。


「お前……今の、何した?」


 振り返ると、明華が立っていた。さっきまでそこに存在していないかのように無視してたというのに、今は僕のことをじっと見てる。その目がちょっとだけ、ほんのちょっとだけ驚いてるように見えた。


「え?いや、ただ転んだだけといいますか、何かに躓いたといいますか……」


「……そうか。なら、いい」


 そう言って、また歩き出す明華。でも、さっきの目は見逃さなかった。あれは、僕に対して“何か”を感じた目だった。晴斗みたいな残念なものを見るようなものとはもっと別の何か、それを表現する言葉は見つからないし、その言葉を知っていても確信をもってそれとは言えないだろう。そんな曖昧な何かが確かにあった。


 これはもう、ラブコメ的に言えば“フラグが立った”ってことでいいんじゃないかな?いや、違うかもしれないけど、そう思っておいた方がなんか得な気がする。


 じゃあ、あとは僕が行動するだけ、僕の理想に向かって、そして昨日の事を、明華の事を、エンコンの事を聞きたい、知りたい。知ってどうするかはきっとまたその時に悩んで決めたらいいしね。


 僕は立ち上がって、再び彼女の背中を追いかける。ラブコメは、逃げるヒロインを追いかけるところから始まるんだよね。


 そう自分に言い聞かせて明華の肩に手を置いた、少し緊張している気もするけどかまわない。


「お願い、昨日の事、明華のこと聞かせてよ」


 明華は足を止め肩に置かれた僕の手をちらっと一瞥する。軽くその手を振り払うとうっとおしいとでも言いたげな表情で何も言わずにまた歩き始める。


「今までもあんな奴らと戦ってたの?僕はこれからどうしたらいい?何か力になれるなら僕にも」


 「手伝わせて」と言おうとしたのか何と言おうとしたのかわからないが、言い終わる前に明華が振り返った。その目は圧倒的な拒絶を示していて、ただそれだけではないような、何か言えないことを秘めていてもどかしそうな表情もしていた。


「お前が踏み込んでいい領域じゃない」


 私に関わるな有無を言わせないといった隠された意図に気付くには十分すぎる圧だった。


「で、でも、昨日みたいに踏み込みたくなくても、勝手に入っちゃうことだってあり得るって事だろ?」


 だが僕はそこで引き下がるわけにはいかなかった。なんでだろうか、なんで、あれはラブコメとは関係ないのに。


「そんなことあり得ないからだよ」


「でも昨日は確かに――」


「あれは私が近くにいたからたまたま巻き込まれただけだ」


 またしても言い切る前に明華が言う。そして、ため息を一つついてから続けた。


「今後もしまた巻き込まれたとして、お前に何ができるんだ?」


「ッ!!」


 何も言えない、昨日は僕はただしりもちをついて、場を眺めただけで明華を助けるどころかただ邪魔をしていただけじゃないのか?僕がパイプで殴りかかってもびくともしないどころか、かえってこっちのほうにダメージが来そうだった。


 手伝う?何を?どうやって?


 何も言えない僕を見て、明華は再び踵を返して歩き始めてしまった。


 いや、待てよ一つだけ……一つだけあったはずだ。


「僕なら明華を助けられると思うんだ」


 帰ってきたのは舌打ち一つ。


「あの空間が無くなる前!!僕は確かに何かの操作をした!!あれも僕には関係ない事なの?踏み込む領域じゃないの?」


 最後の言葉が明華に伝わったのかはわからないが、あの時たしかに僕はレジの前で何か気持ちの悪いものを治すかのように、何かをしたんだ、あの時の明華の反応は確かに何かが起きたって言っているようなものだった。


 ただ、明華がちらっと顔をこちらに向けて、掲げた右手には昨日見た赤い靄のようなものがまとわりついていた。


 それが彼女なりの返事なのだと悟った。

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