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数学弱者の最終定理 ~異能力バトルに数学って厄介すぎるんだが~  作者: 二毛作


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25そしてまた一つ知る事になる

「みなっちゃん?」


 モカさんも驚いたような視線を向けている。僕自身も驚いていない訳ではないけど、其れよりも頭が凄い晴れ渡っている。今なら暗算で大学入試も解けちゃうんじゃないかと思うくらいに思考がクリアになっている。そのおかげかさっきの斬撃飛ばしの式は見事に成功したわけだ。少し惜しいのが燃焼の補助式を入れたつもりが、正しく発動したのは1回のみだったという事。


 まぁ出血させるとゲームで言うところの継続ダメージみたいな感じでこっちのほうが良かったかもしれない。下手に傷口をふさぐよりも、内臓とか深くまで傷つけてからふさいだ方が効果的なんだろうな。


「モカさん、前回のデートでの汚名返上と行きます」


「ヘっ?」


 あっけにとられているモカさんをよそに僕は爆破の式を発動する、補助式として凍結の式を組み込む、足元の温度を下げて凍らせて身動きの制限をする目的で、僕はその爆破式と補助式を投げつける。


「くっ、リコンパイル」


 すぐさま右手をかざす、先ほどのように式を模倣したいんだろうけど、それなら打つ手はもうある。すぐに移動の式を展開し、目算で距離を入力して発動する。式が溶け切って発動するまでの間に次の式を用意。爆破の式を右腕に付与し、左腕に斬撃の式を付与。


 予想通り、爆破式に気を取られている間、こちらの動きに対して干渉したりもう一つの式に対応するということは、あのデバイスには出来ないと見た。そしてタナカ自身が能力を持たない、あるいは何らかの理由で使わないのであれば、この勝負で僕が負けるわけがない、むしろモカさんもSPを呼ぶだけで圧倒できるだろう。一対一には強くとも手数の多い相手や、多人数戦に対してはあまり効力を発揮しない。


 だからこそ査定なんて名目で僕一人を呼び出して、僕の能力が使えるかどうかを判断して、あわよくばそのまま仲間に引き入れる、それが失敗してもあのデバイスに何らかの手法で取り込んでしまえば、僕の関数という能力はあのデバイスに記録されたうえ、関数という脅威も消し去ることができる。


 やつらの目的に同意しない能力者、賛同しない能力者はやつらの敵であり、脅威であり絶対に表に出してはいけない爆弾のようなもの、だからこそ能力をその手中に収めておきたい。管理していたい。その為に能力者が死のうともだ。そんな奴らの掲げた理想の過程で死人が出ないはずがない。信じることなんて到底無理な話なのだ。


「似非能力者が、このラブコメの主人公に勝てると思うなよ!!」


 右腕を爆破式にかざしたタナカがすぐ左にいる。そこで右の爆破式を発動し、右こぶしが当たると同時に発動させる。そのまま吹き飛ぶ方向に目掛けて左手の式を発動し、同様に凍結の補助式も載せる。世みどり、初めに投げた爆破式はすでにタナカに干渉されて不発。再び移動の式でタナカに詰め寄る。


 口内が切れたのか口の端からすでに血が流れていた。似非能力者じゃ体の丈夫さも強化できないってか?よくそれで悪役名乗ったな。


 まだ体勢の立て直しの出来ていないタナカをサッカーボールよろしくな感じで蹴りつける。観客席の壁にまで吹き飛び土埃と共に壁に激突する。これだけのダメージを果たして軽減するような式をあのデバイスには含まれているのだろうか?そしてその式はいったいどこの誰の能力だったのだろうか。


 土埃がはれるまで僕はその場に佇んでいるまま、タナカの出方を伺うつもりだった。もしかしたら気絶しているのかもしれない。即しなんてことはないだろう、なぜなら僕が2度目に接近した時にすでにデバイスから緑色の式が展開されノイズが走っていたからだ。


 その時間を利用してモカさんのほうに視線を向けた、いまだ僕の行動に驚いているのか呆気にとられたように目を見開いていた。先ほどまでの鬼気迫るような、憎悪に包まれて、怨嗟の炎で煮詰められたような眼はもう無かった。


「モカさん、その祈里さんという方、Nullsのメンバーだったんですか?」


 僕の言葉にモカさんははっとしたような表情を挟んでから、陰のある表情をしたまま一度ゆっくりと頷きぽつりぽつりと話し始めた。


「演算干渉、演算遮断式、ディラックのデルタ関数を応用して指定座標、タイミングで相手の発動する式に発動する、対能力者専用といってもいい能力だった。Nullsのメンバーとしてはいわゆるディフェンダーとしての立ち位置が近かったように思うよ」


 そこまで話してモカさんはこの薄暗いコロッセオの天井、吹き抜けの空を見上げた。何もないただ薄暗く曇りの日の日暮れ前のような色をした空。それを空と呼んで正しいのかはわからないがとにかく、あまりにも無機質なくらいグレーが広がっているだけだった。


「祈里はあたしと同い年でさ、ほとんど同じタイミングで自分の能力を自覚した、大学受験が終わったあたりかな、それこそ何かに導かれるようにあのマリアさんの喫茶店に行きついた、そのあとはみなっちゃんも分かる通りユリスさんからの鑑定を受けた後に知らされたよ、当時はすごく焦ったね、能力名だけ言われてもそれが何を意味するかさっぱりだった。特に祈里の場合は大学受験の範囲なんてとうに逸脱して、大学に入って専門的に学ぶ必要があるんじゃないのかっていうくらい、当時のあたしたちに聞き馴染みのない説明をされたんだ」


 遠い目をした岡三はその日の事を思い出しているのだろうか、寂しげな笑顔を浮かべてからため息を一つついた。そして目線でSPたちに何か合図を送った。


「ありがとうみなっちゃん、こっからはあたしにやらせて」


 日本刀を手にし、モカさんの前に現れたΦの文字、あの時と一緒だ。おそらくこれがモカさんなりのリミッター解除の式。モカさんがどこまでやるのかはわからないけど、僕はそのまま一歩引いて、その行動でモカさんへと戦闘の権利を譲った。もともとそんな権利を僕が持っていたつもりもないけれど。


 モカさんのΦが展開された後、SPたちが一斉に警棒と銃を構えた、作戦としては、SPが陽動や援護に回るといった感じで肝心かなめの攻撃はモカさんが担当するとみて間違いないだろう。


 土埃が張れると、タナカが方で息をしながら片膝をついて息を整えているところだった。目に見えて出血や打撲根なんていう大きなダメージは見受けられないが、肩で息をしているあたり、腕輪のデバイスによるものかはわからないが体力の消耗は大きいとみていいだろう。


「はぁ、はぁ、まったくこの試作機では君の能力は扱えないという事か?」


 息も絶え絶えに腕輪のデバイスを睨みつけ、恨めしそうに言葉を漏らす。立ち上がってさらに式を発動しようとしたところをモカさんのSPたちが一気ゴム弾を発射し、タナカの行動を止める。ゴム弾でも十分の痛みはあるのは僕が経験している。籠った悲鳴をあげ、石畳の上でもがいていた。


「人数が増えたところで、買ったつもりかNullsのガキめ!!」


 そういってタナカは右手の腕輪から新たに式を発動する、あの式、おそらくモカさんの式を模倣したものだろう。祖伊豆が走り消えると、そこには8体のお世辞にもヒト型とは程遠い類人猿が無理やりスーツを着せられたような姿で現れた。サーカスなんかで無理やり働かされているのような哀れな存在にしか見えない。


「そのガキの力借りないと何もできないおじさんは一体何なのさ」


 モカさんが挑発をしながらタナカに突っ込む、SPたちもそれぞれタナカの良い出した出来損ないの手下たちに向かって日本刀を握りしめて応戦する。その最中にタナカは僕の下位互換の爆発式を発動して、おそらく次に展開したのは僕の移動の式だろう。ただ、あれだと無茶苦茶だ。


「アガッ!!」


 おそらく慣性系の制御式を入れていないからだ、首でもむち打ちになっていてもおかしくない。それも大した距離も移動できずに結果的にモカさんに対してすきを与えるだけとなっている。


「インポート!!」


 モカさんの声と主に表れた式は「W∉A」先ほどの日本刀の出現させる式と同じだが、少し違ったのは左手に握多れていたのが、アメリカなどで使われているテーザーガンだったこと、ためらいもなくそのトリガーを引くと、電極が発射される。


 タナカの右太もものあたりに突き刺さり、そのままトリガーを弾き続けていると、スタンガンのような音を立てながらタナカが地面に伏せる。よほど痛いのか今までよりも大きめの声で叫んでいた。


「アッガアッァア、アアアア!!」


 よだれをたらし名が痛みに耐えて、テーザーガンの放電が終わったのか、顔を上げたタナカは、目の前に迫るモカさんを見て再び僕の爆破式を発動する。


「クソ邪魔だなぁ」


 あとわずかでモカさんがたどり着いたであろうタイミングでの爆破、それにあの位置だとおそらく爆破の影響はタナカも受けていると思われる。


 周りを見渡すと、Spたちは類人猿に相当する生き物に、動きが俊敏で多少てこずっている様子を見せる。だが、向こう側から攻撃をクラ多様なようsもなく、このまま僕が静観していても大して問題はないように思えた。


 そこで僕はこの空間からの脱出を図るのに、このコロッセオに似た場所を見渡してみる。しかし、ここがいつものエンコンの時のように偶発的に作り出されたものではなく、おそらくあのタナカがデバイスを使用して作り出したからなのか、これだと確信を持てるような個所を見つけることが難しかった。


 そこで何か僕の頭の中に違和感を覚えたのだが、それが一体何だったのかわかる前にタナカの叫び声でその考えは中断されることとなった。


「右手の一本位安いでしょ?祈里はもういないんだし、足の一本位もっていっても足りないくらいだよね」


 モカさんの振り下ろされた日本刀の刃には赤い液体が滴っていて、そこのすぐ下にはタナカの物であろう腕が切り落とされていて、あの腕輪のデバイスも一緒に石畳の上に赤い液体を広げていった。


「Hijo de puta!!」


 何語かはわからないが、おそらくタナカの母国の罵倒語ということは分かった。タナカの表情が苦痛と怒りに支配されている。左手で必死に脇の下あたりを圧迫しているあたり、止血をしようとしているのだろう。落ち着こうとしているのか、フーフーと粗い息遣いがこっちまで聞こえてきた。


「首をこのまま刎ねてやりたいよ!!」


 モカさんの叫び声と共にタナカの顔面が蹴られ、口から右腕と同じ色の液体を吐き出した。


「でも……でも!!」


 そこでモカさんの声に悲しみが混じっているのが分かった。祈里さんの事を思っているのか、力なく両手をだらんとさせた。大丈夫だろうかと思ったのもつかの間、振り落とした日本刀は右太ももに太く突き刺さた。そして叫び声をあげる前にタナカの顔面を踏みつけ、まるで叫び声がうるさいから蓋をしたかのように、見事に口元に足を置いたまま話し始める。


「死んで楽になれるなんて思うな、私がいる限りお前ら邪魔はするし、お前らの全員死んだ方がマシって思うような状態で生かしてやる。あたしの祈里を殺してその遺産ともいえるものをつかってるんだ、あんたの言うところのビジネスだ、あたしはお金じゃなくてあんたらの悲鳴と後悔の声を対価に要求する」


 そこまで行ってからモカさんは右太ももに突き刺したままの日本刀をぐりぐりとして、さらにタナカの顔面を地面に押し付けるように体重を載せていく。その様子を見ても僕は止めようとも思わなかった。むしろもっとやれ。殺すところなら止めようと思っていたけど、その心配もなさそうだ。


 そんな時だった、ぐらっと視界がゆがんだと思いきや、黒板を爪でひっかいたような音が空間に響き渡る。たまらず耳をふさいでしまったが、あたりを見渡すと、タナカの出したとも割れる類人猿がノイズ交じりに消えていく。


 そしてモカさんの足元に落ちているタンカの右腕のデバイスが点滅し、画面全体が赤いエラー文のようなものを吐き出した。それはいつぞやのコンビニで明華といたときのレジの画面と少し似ていた。


 そこで僕は直感した。あれだ。


 そしてこのコロッセオに似た空間が徐々に形を保てなくなっているようで、観客席にノイズが走ったり、いびつに景色がゆがんだりし始めた。


「モカさんそのデバイスだ!!」


 僕の声にモカさんはこの高温に耳をやられて顔をゆがめていたが、僕の声に反応してすぐに目線をデバイスに映した。


「面倒なまがい物使ってるからこうなるんだよ!!」


 そのデバイスに向けて手をかざす、演算容量を回すためかそれとももうすでに戦闘が終わったと思ったからなのか、SPたちの姿はその時にはなくなっていた。僕もモカさんのほうに近づいて、その画面を見メルト。どうにも僕には解読不能といってもいい、けれど、どうしてか今の僕には間違っている点が明確ではないにしろ、この辺にある。ということが見て分かった。


 これが僕に良く起こる感覚的に答えがこの辺にあるという数学的な直観なのだけど、モカさんの操作に割り込んでそのあたりを探り出し。そこの数値、4か所ほどの違和感、そこに全力で補完に挑む。


「痛った!」


 ジリッと紙で指を切った時のような熱を持った鋭い痛みが右腕に走った。どうやらこの空間のねじれが僕のそばで起きていて、それに対して触れたがために起こったようだ。これは早くしないとまずい。


 一気に式を書き上げる。さながら残り時間わずかの中で正しい回答を見つけて一気に回答を描いていくような感覚に近かった。


 デバイスの画面が青く光ると、その空間の異常な光景が闇、数秒の間の後、体に響くような低音を奏でた後、あのフロアぶち抜きの豪華な部屋に戻っていた。


 それだけだったらよかったんだけど。


「そこから動かないでください」


 僕らを中心として、銃を構えた黒いローブを着た人たちが取り囲んでいた。相変わらずモカさんの足元ではタナカが新井呼吸をしている以外、その空間に音は無かった。


「お疲れさまでした。そちらのデバイスは我々が回収させていただきます」


 そういって僕たちに近づいてきた人は、人当たりのよさそうな笑みを浮かべてどこかの神父さんのような恰好をしていた。左胸のあたりにはコンパスと分度器のようなものがあるエンブレム。なんか都市伝説とかでこんな感じのエンブレム見たことあったなぁなんて思ってた。


「なんで教団がこんなところに?」


「ニコラ・ブルバキは我々も要注意団体として見ておりますゆえ、少し我々のほうが遅かったですが、ここを突き止めたまでですよ」


 教団って確かユリスさんが所属しているとかいう団体だったはず。その団体も危険視している団体がニコラ・ブルバキやっぱりタナカを信じなくて正解だな。モカさんがあの時来てくれてなけりゃ、今頃僕もそんな要注意団体の一員とみなされてたわけで、今以上に命の危険が危ないとかいう状況になっていたわけだ。


「申しわけないが、それは我々の備品だ」


 いつの間にか僕とモカさんの後ろに人が立っていた。そしてあろうことか方にタナカを担ぎ、手にはデバイスを持っていた。すぐさま黒いローブの人たちがその人物に銃口を向けた。なんだこの状況。


「我々から逃げられるとでも?」


「逃げる必要はない」


 その人物はボイスチェンジャーを挟んでいるのか、弾性とも女性とも取れない声を発していて。顔にはガスマスクのようなものを付けていて、昔の貴族がしていたような着物を着ていた。なんともアンバランス。


 そしてその人物が一度床を踏み鳴らすと、そこから式が浮かび上がった。マズイととっさに思い。モカさんの体を覆うようにしてつかむと、移動の式を展開してすぐに近くの窓の方目掛けて演算容量を注ぎ込んだ。


「みなっちゃん!?」


 モカさんの声にこたえる余裕はなかった。わきに抱えるようにして体制を整える。


「お前らがどっかに行くだけだ」


 その声の後、地面が波打った感覚に襲われた、体制を少し崩してしまったが、式の発動にはどうにか間に合ったようだった。幸いにも人がすんなりと通れるほどの大きな窓だったために、右手に付与していた斬撃の式と合わせて窓ガラスを突き破りそのまま空中に補織り出される。


 刹那。後ろで銃声と爆発音が響いた。一斉にそのフロアの窓ガラスが割れて、最上階の外壁までもが大きく歪んだのが見えた。空中に補織り出された僕らだったが、幸い人通りの多い場所でもなければここがにぎわうような時間帯でもなく、飛び出た先の通りを見ると人ひとりいなかった。


 足元に爆破の式を展開して。着地の寸前で発動して、落下の勢いを相殺する。そのままリミッターを外した体でここの通りを脱出し、元の本屋がある大通りへと出たところで、爆発音が聞こえたのだろう、道行く人たちが、さっきのビルの方を見ていた。


 そこでモカさんをおろしてさっきのビルの方を見ると黒煙が上がり、いまだにかすかに銃声が聞こえる。それだというのに、だれもがスマホをかざして動画をとるだけで、警察などもくる様子はなかった。


 ひとまずあの厄介ないざこざに巻き込まれることは無くてホッとしたのだが……


「買ったはずの参考書はきっとボロボロになってるんだろうな」


 幸いにも通学に使っている鞄だけでも回収できたので良しとしよう。

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