22またおかしなフラグが始動する
そういうわけで、僕とは人生において無縁だと思った大学受験の参考書のコーナーに足を運ぶ、分野ごとに分けられていて、なんでこんなに種類があるんですか?というか参考書って選ぶ基準なんなんですか?僕は今まで勉強という勉強をして来なかったので全く分からない。高校もなんか知らないけど受験用に勉強とか参考書とか買わずにへらへら一路と同じ高校を受けたら受かってた。
つまり何をどう勉強するのかわからない。あれれ?僕の義務教育9年間はいったい何だったんだ?義務教育の間に勉強の仕方学んでこないとこの先困るでしょ、何してたんだ義務教育期間の僕、何が感覚でこれが正解っぽいだよ馬鹿が、今そのせいでお前の命が危機にさらされているんだぞ。
そんな昔の自分に文句を言ったところで後の祭り過ぎて意味がないので、とにかく明華の行動を真似していろいろ手にして中身をチラ見してから僕に合いそうなのを探すとしよう、多分簡単すぎても意味ないし難しすぎたらやる気が出なくて終わるから、ちょうどいい難易度の物を選ばなくちゃいけないんだろうけど。
ネットに頼るか、そうすればなんかいい感じにレベル分けしておすすめ参考書を紹介しているニッチなサイトくらいあるでしょ、昔と比べてゴミサイトが増えたって聞くけどきっといいサイトもわずかながら残ってるはずだよ。とりあえず、数学と物理と化学くらいあればいいか。いや、意外と地学もあれば強かったり?
サイトの中でとりあえずどのサイトにもおすすめされていた問題集を各科目2冊ずつ買うことにした。エンコン退治のおかげでそこらの高校生よりはいい経済状況なので、そこまで値段を気にせず買うことができる。すごいな、高校生からこんな生活していたら社会人とかいう地獄に足を踏み入れたら耐えられる自信がないぞ。
会計を終えて、さぁやる気は全然ないけど勉強するかぁ、なんて思っていた矢先だった。本屋を出て駅のほうに向かおうとした時だった。信号を待っている時、何か背中に突き付けられる感覚と首元をつかまれる感覚があった。ん?なんだ?店員さんか?と思ったのだがどうやら違うらしい。
「阿智良湊で間違いないな?」
男の声、声のした方向は後ろからだったが、その位置が僕よりも少し身長が高そうで、ある事しかわからなかった。僕の事をフルネームで知っている、そして何か突き付けられている。なんで?またモカさんの手下とか?
「えっとモカさんのグループの人か何かですか?」
僕の問にその人は答えることは無かったが、もしモカさんのグループというかその手下のSPみたいな人たちならここで接触してくることは無いだろうし、となればマリアさんが言っていたプルコギだかの人たち?その可能性を考えると冷や汗が出てくるのを感じた。手足の先が冷たくなってくるのも感じて、僕は一つ生唾を飲み込んだ。
「えっと、なんの用でしょうか」
その人は返事をする代わりに僕の首元をつかんで信号とは逆向きに僕を歩かせる。ついて来いってことなんだろうけどなんか言えよ口ついてるのはさっきのでわかってるんだから。
駅の方とは逆のほうに歩いてさらに町の中心とも逆のほうに向かう、そっちの方にはちょっと大人な店が立ち並ぶ飲み屋街みたいな場所があるというのは知っているけど、この時間帯から空いているようなお店あるんですか?あと僕未成年なのでまずいですよ?
無言のままその男に操作されるように道を進む、まだ準備中の札がかかっている居酒屋だったり、古びたよくわからない商店、このご時世に珍しい灰皿の設置されたコンビニ、酒屋、煙草や、なんかおしゃれなバー、お高そうなお店も立ち並んでいる。立ち並んでいるのは何店舗もスナックとかコンカフェと呼ばれるようなお店が入っているような雑居ビル。ところどころシャッターはしまっている。
本屋から出て15分くらい歩いただろうか、一つの年季の感じる雑居ビルの地下に案内された、こーれ僕結構やばいんじゃない?上階には飲食店とか知らないカラオケ店がが入っているけど、地下へと続く階段は薄暗くてなんだったらいろいろなものが階段のわきに放置されていた。このあたりから煙草の匂いがきつくなってきた。
本気でこの人の目的がわからない、僕の名前が割れていて、その僕を標的に接触してきたということは十中八九能力関連の人たち問うことで間違いない。しかし、まだ新参者の僕を殺すとかそんなバイオレンスな展開はするとは思わない。そして重要なのは僕のことがどこまでこの人、あるいはこの人たちに知られているのかという事。
明華が言うにはマリアさんはこう言った人たちにも平等に情報を打っているといっていた。そうであるならば、最近僕が売ったストレージの中に何かが含まれていたがカギになるんだけど、僕がそもそも狙われる理由がわからない。
なんだったっけ確かプルコギとかいう人たちの目的ってめっちゃ悪役でーすって言っているような感じだったような、あ、そうそう世界征服だ。マジで昔のRPGの魔王じゃん。もしかしたら世界の半分やるから協力しろとか言われるのかしら。
そしてビルの最上階らしいところまで連れていかれた。ワンフロアぶち抜いているのか、階段を上がりきるとそこの踊り場に奇なりこのビルの外観とは雰囲気の違う扉があった。少し飾り気のある暗めの木製のドア、目線の位置にはなんかのエンブレムが彫られている、半球の中にいろいろな数学の記号が夜空の星のようにランダムに配置されている。なんか絶妙にダサい。これがもしかしてプルコギだかの証なんですかね?
「開けろ」
後ろの男からそういわれたので、ドアノブを回して引っ張る。開かない。押戸なのかな?と思って押してみるも開かない。
「開かないんですけど」
「え?……あ!」
僕がそういうと後ろの人が変な声を上げて何か後ろでごそごそしていた。するとその人がエンブレムのある位置にカードキーのようなものを充てると、機械音がなりそれから僕の横から手を伸ばしてドアを押し開けた。ふざけんな、なんで鍵かかってる扉僕に開けさせようとしてるんだよ、一気にシリアスな雰囲気どっか行っただろ。
なんかこの雰囲気ならどうにか無事に帰れそうだなとか思っていたら、部屋の中を見ると、いかにも闇の組織ですよっていう雰囲気ではなく、どことなく高級レストランとか、ホテルのロビーとかそんな感じの内装をしていた。これがこんな雑居ビルに入ってていいのか?
ベージュと金の織り模様が入った厚手の絨毯が、足音を吸収して空間に静寂をもたらす。もうすんごいフカフカしてる気がする。防音室とかに使われてそう。ラウンジチェアが絨毯の上に整然と並び、どことなく“監視のための待機席”のようにも見える、古代ギリシャのなんちゃらポリスとかに使われてそうな柱が空間を区切り、天井の間接照明が絨毯の模様を柔らかく浮かび上がらせる。豪華なのにどこか“異質な静けさ”が漂う。ここ、豪華すぎて逆に怖い……。
そして扉の真向かいにはまるで私がボスですよと言わんばかりの雰囲気を醸し出す机とソファに座っている人物は、なにやらガリガリとペンを走らせて唸っていた。それも結構お高そうなスーツに身を包んでいて、さながらこの雰囲気だけだとマフィアの幹部かなにかと勘違いしてしまいそうになる。長い髪を結んでいて左右を刈上げて反りこみが入っていて一目で厳つい人物だとわかる。なんだったら葉巻とウィスキーとか近くに置いておいてほしかったまである。そこまで徹底してくれた方がいい、さっきのダサいカードキーのミスが帳消しにできるくらいには雰囲気を徹底してほしい。
「Sr. Tanaキャ……Sr. Tanaka, he traído a la persona en cuestión(タナキャ……タナカさん例のやつ連れてきました)」
なんなんだこいつ新入りか?僕より緊張してるんじゃねぇの?だめだめじゃねぇか、本屋の前からやり直そうか?いやまて、これ日本語じゃねぇな?何語?というかこいつ僕に何突きつけてたんだろ?そう思ってちらっと後ろを見ると見事なまでのドス、あっぶね突っ込んだりしてたらもれなくサクッといかれてた。恰好だけはキチンと悪者だった。
そのド緊張新入りが声をかけると、がりがりとせわしなく動いていたペンを止めてその人物が顔を上げた。
「Justo cuando las cosas iban bien, tienes un timing terrible.(ちょうどいい感じに進んでいたのにタイミング最悪だなお前)」
うーん全く何言ってるかわからない、何語ですか?サウジアラビア語かな?右から読まなきゃダメなやつ?あ、別に聞くだけなら別に右も左も関係ないか、聞けても意味わからないからなんも関係ないけども。
もしかしてこれ僕英語で話すの?それともこの新人が翻訳してくれるのか?さっきまで日本語使えてたし。でも、これでほぼ確定したといっていいだろう、マリアさんはプルコギとかいうやつらが日本に入ってきたといっていた。どこの国から来たのかはわからないけど、ここで話されているのが日本語でないあたりこいつらがその集団で間違いない。いかにも悪者っぽい雰囲気もそれっぽさを加速させている。
「さて、初めまして阿智良湊さん、私は二コラ・ブルバキという組織に所属しているタナカといいます」
そういって立ち上がった田中、胸ポケットから名刺を取り出して僕に渡す。こういう時の受け取り方の作法とか知らないんだけど、義務教育でマナーとかって習った記憶ないな。とりあえず卒業証書受け取る時のように両手で受け取っておいた。
うんわからん、なんかいろいろ書かれてあるけど全部アルファベットかつ英語とも違う何もヒントになる要素がない。中央にTANAKAと書かれている以外まるで情報がない。そしてそのタナカの笑顔がいやに人当たりのいい感じがして、こんな人が本当に世界征服とかを企んでいる組織の一員なの?
「ささ、こちらへどうぞ」
そういって腰の低いタナカはソファのほうへ僕を促して、目線で僕を連れてきたおそらく新人であろう人に合図を送るとその人がお辞儀をしてからその部屋を出ていった。一対一はそれはそれで怖いんですけど。
「さて、阿智良君、私たちは君に非常に興味がある。なんとも新しく能力者が出たと思いきや「関数」というじゃないか、いやはや珍しいと思ってね」
関数っていう僕の能力の名前まで割れているとすると、何ができるとかも把握されているのか、戦闘で使用した式なんかも向こうに知られていると思った方がいいだろうな。
「ええ、まぁそうですねただ僕自身全然使いこなせないというか、数学の出来が悪いというか」
ここは下手に嘘をつくより正直に話したほうがいいかもおしれない。あんな新人のような人間にも銃刀法を気にせずに刃物を持たせるような奴らなら、僕の事なんか簡単に銃弾一発で屠る事すらいとわないだろう。
「そうかそうか、ということはやはり君が自覚したのは極々最近の事というのはどうやら本当のようだ」
この言い方、手に入っている情報すべてをうのみにしている訳ではないということは、どこかでブラフを張れる可能性もあるか?いやこの人たちにブラフ張ってどうするんだ?今のところマリアさんが危険な集団で世界征服を望んでいるっていう事しか知らないわけで、どうやって世界征服するつもりなのかがわからない分下手に敵を作る動きをするのもまずいか?
「まだ高校生なんでそれにまじめな学生でもないので、何をどうしたら何が起きるのか分からないというか、ほとんど感覚でやってるようなものが、たまたまうまくいったものを使っているって感じでしょうか」
「フム」
タナカの緑の目が僕を見て細める。何かを探るような感覚、ユリスさんとは違う別の見られ方、見られる感じだ。品定めのような、僕自身の価値を鑑定されているような感じがした。そこでタナカはかけていた金縁の眼鏡をはずしてピシッとしていたワインレッドのネクタイを少し緩めた。それからジャケットを脱いで背もたれにかけて横の棚からロックグラスと高そうな瓶に入った茶色の液体を取り出した。多分ウィスキーかブランデーとかのそれ、洋画でよく見るようなあれだ。ちょっと感動した。僕も大人になったら一回やってみたいことの一つ。
丸い氷を入れてからそのお酒を注ぎこむ。そしてそのコップを僕のほうに差出、自分の方にも置いた。ん?飲めってこと?僕未成年なんだけど、もしかして今のうちに酒付けにして脳の発達を阻害して僕の演算が上手く働かないようにして僕を弱体化させる計画か?
「いや、あの僕未成年でして」
「ばれなきゃ問題ない、私の国ではそうだ」
そんなこと言われてもここ日本ですしお寿司。そういいながら酒をあおるタナカ。うーんすごい似合う悔しいがかっこいいずるい。というかやっぱり世界だとそういうバレなきゃ犯罪じゃないんですよってことなのかな?実際これくらい飲んだところで誰に怒られるわけでもない。これがゲームとか漫画とかアニメだったら未成年に飲酒描写があるのは良くないとかで怒られるんだろうけどここは現実なのでやはりバレなければ問題ないのではないか?
なんて一人葛藤しているとタナカが話しかけてくる。
「それで、おそらく君は私たちの事を聞いているとは思うんだが」
一気にタナカの雰囲気が変わる。挑発的な顔をして何かいやらしい笑みを浮かべて、前のめりになって顔の前で手を組み、口元が若干隠れていた。
「えっと、二コラ・ブルバキでしたっけ?確かに聞きました最近日本に入ってきたとか、世界征服ねらってるとか」
「アッハハハハハ!!」
そう言っている途中でタナカが顔を覆いながら大笑いする。おなかも抑えて相当ツボに入ったのかとにかく豪快に笑っている。何がそんなに面白いのだろうか、僕にはさっぱりわからないがここで僕の方から仕掛けてみる。
「あと、明華を監視対象としているとか」
「……ほう」
奥の言葉を聞くとそこでタナカの笑いがぴたりと止まり、僕を射抜くような目線を向けてきた。




