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数学弱者の最終定理 ~異能力バトルに数学って厄介すぎるんだが~  作者: 二毛作


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20/27

19これは好感度が上がったとみていいのだろうか?

「知らない天井だ」


 次に目が覚めた時もうすでに言ったことがあったけれどやはりこういった場面になると、つい口にしたくなる。そうして目にしたのはやはり知らない天井。なんてことは無く薄暗い天気の空だった。それどころか上体を持ち上げてみると、それは先ほどの操り人形とやりあった時の場所そのままだった。


「寝るのが得意だな、毎度エンコンとやるたびにそうなってたらいつか死ぬぞ」


 声のする方を見ると明華ががれきの山の上に腰かけて持っているエンコンを退治したことを示す石、ストレージでお手玉のように遊んでいるようなところだった。やはりというか、傷一つなく、涼しい顔をしていた。


 どんな方法で対峙したのか拝めなかったのは残念だし、何ならデートの時に意識なくす男ってどう思います?絶対なしですよね。自分でもわかります。


「毎回はならないけど、今回みたいなやつとかだとどうも演算容量使いすぎちゃうんだよね」


 初めて能力を自覚した時のカメレオンみたいなエンコンといい、今日のエンコンと言い大きさに圧倒されるからなのか、それとも単にビビッて力を入れすぎているのか、はたまたそもそも論で僕が弱すぎるのか、弱すぎる場合僕の演算容量を増やす特訓とかないんですか?それやらないと、明華の言う通り使いすぎてぶっ倒れてそのまま無様に死んでしまうのが明白である。


「まぁ、慣れていけばそのうちぶっ倒れる回数も減るだろ、今日はここまでだな」


 そういって明華はすでに異空間の原因を見つけていたのか、その言葉の後に立ち上がる。空が=0で覆いつくされていくと、徐々にそれが青に変化していく。すべてが青になるのにはそう時間はかからなかった。すると瞬きも必要ないくらいのわずかな時間で、先ほどいた空間からあのゴミ箱の並ぶ細い路地に立っていた。これ他の人たちからしたら、いきなりここに人が現れるように見えたりするのだろうか?


 そんなくだらないことを考えていたが時刻としてもうすでに公務員なら定時退社している時間を過ぎていた。思いもよらぬ形で眺めのデートとなってしまったようだけれど、以外にも明華の方からエンコン退治の提案をしてきたのは一歩前進とみていいし、明華の方から能力のことを教えてもらえたというのも、これは関係性を深めたといってもいいのではないか?つまり今回の初回デートは大成功という事。


 そのまま大きな通りのほうへと出る中で、倒したエンコンの内僕が倒した分のストレージを受け取った。明華が先導する形となっているが、このルートならおそらくマリアさんのところに向かっているんだろう。僕もついでにストレージ売ってマリアさんに今回の結果でも話して次のアドバイスでも貰おうかななんて考えていた。


「明華は毎回どんな事考えて戦ってるの?」


「知らん」


「え?」


 明華がテンプレートを作れって言ったのに、まさかの当の本人は何も考えていないという結果。どういうことですか?理論系に見えて実はパワーでゴリ押す力こそパワーみたいな人なんですかね。


「考えてた時期もあっただろうけど、今はそこまで考えて戦う事のほうが少ないな」


 どこか遠い目をしているが、きっと今の発言ができるくらいになるまでに何度も何度もトライ&エラーを繰り返してそうしてようやく体に染みついたという過程を経ているんだろう。そんなことは聞かずとも、今までの明華の戦い方を見ていれば、この結論に至るのに時間はかからなかった。


「そういえば明華はいつからその力を自覚したの?」


 どれほどの時間をかければ明華のような戦い方、冷静にただ息するように簡単に戦うことができるんだろう。もはや反射ともいえるような、定石が組みあがっているようにも思える。


 すると、唐突に明華があの時のような悲しそうな、辛そうな目をしたのを見逃さなかった。何かまずい事でも聞いてしまったんだろうかと思ったがすぐに戻りそれから感情の乗っていない声で答えた。


「知らない」


 この答え方がきっと明華の明華なりの拒否というのがわかってきた。しかもまるでそこに触れる、そこについて知る権利はお前にはないという、きっぱりとした拒絶を感じられる。以前の明華が僕との接触を拒んできたときも相当な拒絶だったと思うが、これはそのさらに上を行っている。


「そっか」


 僕はそれ以上聞くことはできないし、聞いたところでおそらく今の関係性だと、無暗に距離をとられてしまうと思った。いつか話してくれるのかもしれないしそうでなくとも、僕はそれでもいいと思った。いや思うようにした。


 無言のままマリアさんの喫茶店に着くと扉を開けたとたんにマリアさんが驚いたような目で僕たちを見た。相変わらずカウンターの中で椅子に座って煙草をふかしているところで、煙草の先の赤がかすかにふるえているようにも見えた。


 そして急に立ったかと思うと、キッチンのある方へ向かって叫んだ。


「ユリスちゃん!!ユリスちゃん!!!」


 まるで何か事件でも起こったかのような声、幸い他にお客さんが居ないから良いものの、他の人が聞いたら間違いなく何か事件が起こったと思うくらいには、焦っているような叫び声に近いものだった。


「なにをそんなに慌てて……」


 そういってキッチンの方から出てきたのはユリスさん、いつものようなジャケット姿ではなく、工房で働く人のような、Tシャツに分厚い前掛けを付けていて、顔には少し黒ずんだ汚れも確認できた。なんか日本刀とか作る人ってこんな感じなんだろうなと漠然と思った。


 ユリスさんは僕たちを確認すると、眼鏡をはずしてガラスを拭きなおし、それから目頭を何度か抑えて、さらにこめかみあたりを数秒ほど押して、立ったままでいろいろなストレッチして、それから深呼吸を一つしてから眼鏡をかけた。


「……そうか、そうか……」


「だから言ったでしょ」


 そういって唐突に二人ともなき始める。マリアさんは煙草を消して口を覆っているし、ユリスさんに至っては男泣きで拍手までしている。なんだこの状況。もしかして僕のデート成功を喜んでくれている?なんとも僕の味方がこんな近くにいて、こんなに喜んでくれるとは思いもしなかった。


 隣の明華を見ると面倒くさそうな顔で、いつものスラっと立ち姿ではなく、どんよりとした雰囲気で猫背になっている。


 するとマリアさんとユリスさんがこちらに向かってきて、涙を流したまま明華に抱き着いた。あれ?僕に来るかと思ったんだけど明華に?


「ようやくそのかわいい服着てくれたのね!!」


「お前も大きくなったな、いつ以来だろうかお前が誰かと遊びに行くなんて」


 そういってまるで娘の成長を感じた両親のように明華をなでたりしている。その当の本人と言えば、飼い主の可愛がりに抵抗することを諦めた猫のような状態で、めんどくさそうな顔をしたままもうどうにでもなれと言わんばかりに無抵抗のままだった。


 その状態を眺めたまま、僕は近くのソファ席に座った。明華がこちらを見て恨めしそうな顔をしていたが、今の僕には何もできそうにないので笑顔を返した。そうするとより一層面倒くさそうな絶望したような顔になった。


――――


「…………」


「お、お疲れさま?」


 ようやく解放された明華は、髪がぼさぼさになっており顔も先ほどよりも疲れの色が見えた。何となくだけど、その様子は風呂に入れられた犬のような元気の無さだ。そのまま僕の向かいに座ると一つ大きな息を吐いて天井を見上げた。


「私は犬かなんかなのか……」


 明華も自分を客観的に見てそう思ったのか、確かにあれはペットを愛でているようなところもあった。娘兼ペット、明華めっちゃ可愛がられているじゃん。なんだ実は親戚とかそういった関係なの?


「すごいね、なんかまるで我が子の成長を喜んでいるかのような感じだったよ、僕は気まずすぎて空気になる事しかできなかったよ」


 思ったことを素直に伝えてみると、明華は考えているのか、上向いたまま「あぁー」みたいな珍しい声を出した。こんな姿を見せるなんて相当かわいがられて疲れたと見える。確かにはたから見ててもアレはやられた側からすると鬱陶しく思うだろうなと思うほどだ。


「まぁ、似たようなもんではあるかもな」


 明華は前かがみになるように体制を変えると、下を向いたままそんなことを言った。多分小さいころから知り合っているとかそういった仲なんだろう、どこか懐かしむような声、それでも少し寂しそうにも聞こえたけれど、あの時は良かったなぁみたいな遠い目をしているのはきっと先ほどのようなことが少なかったのだと思う。最近になってこんな感じになってしまったのかなマリアさんとユリスさん。


 そこにマリアさんが飲み物を運んでやってきた。いつも通り僕にはアイスカフェオレそして僕のほうにユリスさん、明華のほうにマリアさんが座った。なんか二人とも緊張というか、興奮しているのかどこかせわしなく、気の成果もしれないけど鼻息も荒いように感じた。窓際に押しやられたので、これでは逃げることができない。


「それで、二人はどこまで行ったの?何をしたの?婚姻届けは書いたの?ママに詳しく話しなさい!?」


「ほう君がうちの礼香の……君は一体何ができるのかね?」


「なんで私の両親みたいになってんだよ!!」


「お義母さん、お義父さん、僕は今日お宅の娘さんを前に気絶してしまいました、申し訳ありません」


「なんでお前は適応してんだよ!!結婚どころか付き合いすらぺらぺらだぞ!?」


「礼香ちゃんが似たようなものだっていうから」

「君が似たようなものだというから」

「明華が似たようなものだというから」


「どうして私が悪いみたいになってんだよ!?」


 明華がツッコミに追われてぜぇぜぇと肩で息をしながら声を荒げていた。珍しい明華をまたしても見ることができました。ありがとうマリアさんユリスさん。


 明華は付き合わない方が得と考えたのか、そのままエンコンを退治した時に拾ったストレージをテーブルの上に置いた。それに倣って僕も自分の分のストレージを置いた。これだと大した金額にはならないだろうけど、明華が退治したあれは結構いい金額になりそうだ。


「石の買取ね、これはまた後で鑑定するとしましょう、それよりも詳細を話すのよ、そっちの方が大事なの」


「珍しいのがあるが後のはさほど時間はかからん、それならわが娘の成長を確かめるのが一族の長の務め」


「お前らの性は明華じゃねぇだろ!!なんでそんな嬉々として目を輝かせているんだよ!!」


 そういえば、明華の言う通り、マリアさんとユリスさんの苗字って僕知らないな、明華のいう通り親戚なんて言う立場ではないのだろうけど、この打ち解け具合っていつからなんだろうか、先ほどの嬉しがりようは、二人して泣くくらいだから相当の付き合いがあるというのはなんとなくわかるけれども詳しいことは聞けていない。


 まぁそこらへんは明華が話してくれるようになるまでまだまだ時間がかかるんだろうけどね、諦めずに交流を続けていけばいつの日かそういったことや、悩みなんて言うものも話してくれるかもしれない。ほとんど希望的観測に過ぎないけれども。


「それで、今回のデートはどうだったんだ?」


 ユリスさんが明華の方を見てそう尋ねる。やっぱりなんだかんだ、何歳になっても他人恋愛とは気になるらしく、心なしかユリスさんのテンションも上がっているように見えた。前のめりになっていつになく迫力があった。


「まぁ、初回ということで少し本屋によってからそのあとお昼を食べて腹ごなし兼、僕の練習に付き合ってもらってました」


 代わりに僕が答える。すると隣のユリスさんがこちらを見た。


「ほう、手ごたえとしてはどうだ?」


「まだまだですね、数回失敗してしまうこともありますし、今回に至っては式が暴走しちゃって」


「暴走?」


 そこでユリスさんの目が厳しくなったのを感じた。やっぱりあの暴走ってやばい状況だったのだろうか?でも確かにあそこで明華が冷静に対処してなきゃ、明華の事を傷つける可能性だってあったわけだし、僕の演算容量も吸われっぱなしだったわけで、結果として気絶に至ったとすれば危険なのは間違いない。


「失礼」


 そう言ってユリスさんが僕の目をじっと見つめる。またあの出会ったばかりの時のような感覚に襲われたが、以前の物よりもまだ軽く思えた。ユリスさんは今回筆記用具は何も用意していないけど、必ず毎回必要というわけではないのかな?


 しばらくすると、深く息をついて腕を組んで目を伏せるユリスさん。なんかまるでガン宣告でもしそうな雰囲気出すのやめてくれない?僕そこまでやばいんですか?


「まだまだ、といったところかこれでは一人で行動するのも芳しくない」


 そういってユリスさんは明華の方を向いた。マリアさんも明華の方を見て明華から見てどう思ったのか聞き出そうとしているようだ。


「私はこいつに術となる式のテンプレートを作れとアドバイスした。それ以外に手の出しようがないだろ」


 二人に向かってそういう明華は、言外に私は私になりに頑張りましたのでこれ以上面倒見るのは嫌ですって言っているように思えた。あれぇ?今日のデートでなんだかんだ少しは距離が縮まったと思ったのに実際にはそんなことなくて割と面倒くさがれてたの?いつもよりは話してくれたと思ったのにあれは社交辞令ってことですか?


「でもそうよね、阿智良君の使用する術っていのがどうも礼香ちゃんとは少し違ったタイプなのよね、こうなると……」


 マリアさんがちらりと僕の方を見てから、明華の方を見る。その視線で明華がマリアさんお次の言葉を察したのか、途端に面倒くさそうな顔をした。あ、多分だけどなんか予想が付いたぞ。明華の面倒くさそうな顔、それにここの情報屋という特性。そして以前ここで出会った人物との共通点があるといっていた。そうなるとおのずと出ててくるのは……。


「モカさんに協力を仰ぐってことですか?」


 僕の言葉に明華を含めた全員が僕の方を見て驚愕の顔をしていた。まるでそこまで頭が回るのかこの残念な男子高校生阿値良湊。みたいなまなざしが僕に向けられていた。


「Nullsのメンバーとしては比較的戦闘に興味があるほうではない。かといって他にいい人がいるかというと……」


 そういった後にマリアさんとユリスさんが明華の方を見る。すると明華は意味を察したのかすぐに反応して見せた。


「私はごめんだぞ」


 見事なまでの即答である。マリアさんもユリスさんもそうだよなぁと言わんばかりのため息をついた。なんか僕の心は痛かった。


「慣れるまでは頑張ってとしか言えないわね、何かいい方法が見つかったら連絡するわね」


 マリアさんは申し訳なさそうにいう。そのあとに明華の方をちらりと見たが明華は面倒くさそうな顔でそっぽを向いた。


「こればかりは私にできそうなことは無いな……」


 そういってユリスさんは目を伏せた後にちらっと明華を見た。多分明華も見ていたのか、それともわざとらしいユリスさんの言い方にイラっと来たのか舌打ちが聞こえた。


「ま、まぁ僕もどうにかかんばってみますので」


 なんとなく僕も流れに乗って明華の方をちらりと見てみた。あ、目が合った。


「あぁ!!うぜえ!!」


 そういって明華は出された紅茶を飲んほして行儀悪くテーブルの上を飛び越えて店を出て行ってしまった。うーん初回デートの終わりがこれってどうなんですか?成功ですか?失敗ですか?


 そう思っていたけれどマリアさんもユリスさんも笑顔でいたのできっと成功だと信じることにした。

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