13デートの約束は勢いと協力者の重要性
「知らない天井だ」
次に僕が目が覚めた時、マジで知らない天井だったので、ここぞとばかりにあの有名なセリフを言ってみた。体を起こそうとするが、体中が痛い。筋肉痛とかとも違う。というかあのトカゲにやられたせいなのだろうけど、本当に痛い。死にそうにはなってはいないけど。
気力を振り絞って体を起こすと、どうやらマリアさんの喫茶店のソファ席で寝ていたようだ。日もすっかり暮れていて、店内はレトロな雰囲気の残るライトで照らされていた。ここのアンティーク調の内装とマッチしている気がする。僕そういった感性は無いと思ってたけど、雰囲気にあってると感じるくらいの感性はあったようだ。
「ようやく起きたか」
「……明華?」
テーブルを挟んだ向かいのソファに明華が座っていた。テーブルに頬杖をついて窓の外を見ていたようだ。まぁここから見えるのは向かいの雑貨屋とこれから営業を始めるであろうスナックの看板くらいしか見えないんだけども。
「えっと、なんでここに?」
僕の問いに明華はちらっと僕の方を見たけど、だからと言って僕と目を合わせ続けてくれるなんてことは無かった。さっきのでちょっとは近づけたかなと思ったけど、やはり簡単にはいかないらしい、これがリアルの難易度の高さか。
「お前があのエンコン倒した後にぶっ倒れたから、私がここまで運んだんだよ」
「本当に僕が倒したんだ……」
光芒になったところは見れたはずだけど、それでも倒しきれたのかの判断はつかなかったし、もしかしたら頭痛がして変に目がチカチカしただけの可能性も捨てきれなかったわけだし。
「でも、なんでここなの?」
僕がそう聞くと明華が顎でカウンターの方を示した。そこにはマリアさんとユリスさんがいた。何やら二人して様々なサイズの石を見ているようだけど、あれはいったい何なんだろう、もしかしたら毎回明華とかモカさんが拾っていた石なのではないだろうか。
そこで僕の視線に気が付いたマリアさんが、僕のほうを向くといつもの素敵な笑顔を向けてくれた。
「起きたのね、今飲み物作るから待っててね」
そういっててきぱきと用意するマリアさん、ユリスさんはいろんな紙を見ては何か考えたり、新しい紙に何かを描き始めたりと、さながら締め切り前の漫画家みたいになっている。漫画家の生態は知らないけど、きっと週刊連載とかしている漫画家はあんな感じで忙しいものだと決めつけている。
「そういえば、明華はどうしてまたここに?」
ちょうど明華が紅茶を口に運ぼうとしているところだった。今になってしっかりと明華の事を見たわけだけど、幸いなことに大きなケガとかはなさそうで一安心。多分僕の方がやばかったはず。
「マリアが残って行けって言うから残った、それだけだ」
わかっていたけど、どこかで僕の事心配で残っててくれたのではないかと期待してしまった。けれどそんな考えは物の見事に粉砕されてしまった。
「そんなこと言ってるけど、結構気にしてたのよ?」
マリアさんが僕のために甘いアイスカフェオレを持ってきてくれた、もうここに来たらこれが出てくると思ってもいいかもしれない。っていうかマジですか今の話、ツンデレ?明華はツンデレってことですか?
「何変なこと言って……」
「こいつの能力は?とか、これからどうする?とか、まだ間に合うか、間に合わないかとか、いろいろ気にしてたじゃない」
マリアさんが明華の言葉を遮るようにして言うと、明華は呆れたようにため息を一つついてソファの背もたれに体重を預けた。なんだ、そういう気にするか、多分最後のは僕が死ぬかもしれないとかそんな感じだったんじゃないだろうか、となると僕結構やばかった割にこの程度で済んでるのはなんでだ?
「それに礼香ちゃんが他人のために完全ではないにしろ、回復式を使うの珍しいじゃない、というか初めてかしら?」
「目の前で死なれるのは気分悪いし、仕方ないでしょ」
あ、なんか珍しい今までの明華なら「仕方ないだろ」って言いそうなところだけど「仕方なないでしょ」っていう言葉遣いは明華にしてはトゲの成分が少ないのでは?疲れたらトゲが抜ける使用ですか?
その異変に明華も気が付いたのか、気まずそうな顔をして目を見開いて僕の方を見た。そのあとすぐにキッっと目がきつくなるが、その目が「お前は何も見ていないし聞いていない、いいな?」と言っているように思えたので僕は2回頷いておいた。
「阿智良君、これから大切なことを伝えるわ、礼香ちゃんもいいわね?」
マリアさんの問いに明華は頷いた。聞かなくても分かる、きっと僕の能力と明華やモカさんの事それからエンコンの事とかもいろいろ聞けるんだろうし、いろいろ知らされることになるんだと思う。
「結論から、あなたは関数の能力を持っています」
「関数、割と僕の得意分野だ」
式なのかと思ってたけど関数かぁ、え?どういう事グラフがきれいに書ける能力とか?いらねぇし、なんだったらそれでどうやって爆発したり切ったりしてたんだっていう話になる。
「この能力っていうのは分析した結果でしかないの、だからあなたの発想とセンス、それから知識と解釈によっては強くもなるし弱くもなる。そんな能力、礼香ちゃんみたいな能力とはちょっと別物ね、モカちゃんと似ているかしら」
「なるほどわからん」
なるほどわからん、要は僕の努力次第ってことでOK?ってことは修行とかするんですか?あれぇ?僕が望んだのはラブコメなのに順調にファンタジー路線を走って行ってる。分岐点はどこだ、路線の切り替えスイッチはどこなんだ!!
「それから、これからも阿智良君にはエンコンの討伐に参加してほしいの、参加するというよりは多分それに気が付いてしまうと思うの。だから前にユリスちゃんが言ったように、覚悟を決めてほしいの。前はまだ選択肢がわずかにあったけれど、今はもうほとんどゼロだと思っていい」
それについてはその時点で覚悟はついていたんだと思う。僕がなんで明華について回ったのか、どうして放っておけなかったのかは、僕の完全な自己満足で、憧れを求める過程で明華がいた。どちらかと言えば、僕の願望のために明華を巻き込んだし、僕が進んで巻き込まれに行ったというのが正しいだろう。
「それから、これ」
そういって渡されたのは一万円札が10枚ほどあった。ん?本当に全部一万円札?本物の一万円札?子供銀行券とか書いてあったりしない?やば本物じゃん!!
「なんですかこれ!!やめて怖い怖い怖い!!」
突然出された一万円札って恐怖感じるんだ、僕初めて知ったよ、マジで怖い、これからなんか起きるんじゃないかとか、これから殺されるんじゃないかとか考えてしまう。
「あら?礼香ちゃん話してないの?」
「話すも何も、そんな仲じゃない」
そう返した明華に少し怒ったような表情をしたマリアさん、それからあきらめとも似たようなため息をついた後に僕に向かって話してくれた。
「私はここの喫茶店のオーナーだけど、それと同時にいわゆる情報屋っていうのをやっているの」
ほほう、情報屋ですと、何の?あ、そういえばユリスさんが例の奴か?みたいなこと言って僕の名前も知っていたんだった。つまりマリアさんが僕の事を調べていたCIAの工作員であったと?
「それで、私はエンコンが落とす情報の詰まった石を買い取っているの」
「石?……あの明華が拾ってたようなやつですか?」
「そうよ、あれにはいろいろな情報が詰まってるの、この世界の事やエンコンの事とかね、私はそこから集めた情報をあなた達みたいな能力を持つ人に売ってるの、ほとんどは組織化しているから大体毎回同じような人が買いに来るけど」
ええ、つまりあの石売るだけでこんな大金手に入るんですか?そりゃ明華も戦い続けるわけだ、明華みたいに簡単に倒せる人ならこんな割のいいバイト他にないもんね。
「もちろん入っている情報によって買い取る金額は変わるけど、今日阿智良が倒したエンコンはこの値段に値するほどの情報を持っていたってわけ」
なるほど、なんかそうなると殆ど明華がダメージ与えてたのに本当に文字通りおいしいとこ取りしちゃったみたいじゃんか、申し訳ない。というわけでそのもらった一万円札を全部明華の方に差し出した。
「何してんだ」
「いや、確かにとどめは僕かもしれないけど、ほとんど明華が倒したようなものだからさ、これは明華のかなって思って」
「いらん、私はそんな金にがめつくない」
「いやでも、それはなんかほら成果主義的になんか違うといいますか」
「言い方を変える。確定申告面倒だからいらない」
「ぜってぇしてないだろ!!こんな現ナマで貰ってするはずないだろそんなこと!!」
「私が脱税してるって言いたいのか」
「脱税しとけよ!!税務署だってどう処理したらいいかわからんだろ!!」
「仕入れ代金ゼロ、原価ゼロの商品販売として売上勘定で処理されるからこの場合は売り上げがそのまま利益になるから年間20万を超えたら雑所得じゃなくなるから確定申告が必要になる」
「あ、これ確定申告やってるな?」
「ちなみに、能力を使うときに必要な体力を補うための食事を経費として計上したり、その石を運搬するための運送費を売上諸掛として計上すれば粗利からそれを引いて純利益を少し低くすることもできる」
「これは簿記も資格持ってるまであるぞ?」
これ本当に高校生が知っている知識なのか?むしろ現代ではそういったことを教えてくれといった人が多いくらいなのに、明華下手したら屋号とか取って個人事業主としてやっている可能性出てきたな、掃除屋明華みたいな感じで。
そんなやり取りを近くで見ていたマリアさんは小さく笑っていた。それから明華は受け取らないという意思を崩さなかったので、マリアさんがそのお金を僕の手に握らせてきた。これはこれで怖い、もう逃れられませんよみたいな感じがする。
「阿智良君の初めての討伐なんだからちゃんと貰っときなさい」
まるで小さい子に言い聞かせるような言い方で僕に現金を渡す。まぁそういうことにしておくか?と納得いかない感じはするが、ありがたくもらっておく。ひゃっほう!!これで何買おうかな!!そんな高速で手のひら返しをするとマリアさんが小さく言う。
「礼香ちゃんに申し訳なさがあるならデートに誘って奢ってあげればいいのよ」
て、天才か!??その手があった!いやほんとにマリアさん天才か!??
「罰ゲームか何かか?」
「というわけで、明華、ゴールデンウィークのどこかでデートに行きましょう、もちろん全部僕が払うよ」
「え、聞いてた?行かないけど」
「そうしたらお互い連絡先を交換しなくちゃね、ほら礼香ちゃんもスマホ出して」
これは来た、マリアさんが完全に僕の味方になってる。このままマリアさんがナイスなアシストをして僕はあとシュートを決めるだけのイージーシュート。9割マリアさんのおかげになる。明華もそれを悟ってかもう逃れられないといった感じで渋々スマホをテーブルの上に置いた。画面には連絡先を追加する為のQRコードが表示されていた。
ありがとうマリアさん、僕マリアさんの期待に応えるよ、ちゃんと明華とデートするよ。とマリアさんに感謝しつつそのコードを読み取ろうとしたとき、明華のスマホに通知がひょっこりと顔を出した。
『どうだった?』そう言ったメッセージが届いた通知だったわけだが、その相手は僕もよく知る人物で、女の子みたいだし一応これはノーカンで良いのかなとか、これであいつは女の子説が再浮上したとかいろいろ考えてしまうわけで、つまるところそのメッセージの送り主は戸上晴斗だったわけで、は?なんであいつ僕より先に明華の連絡先知ってるわけ?え?は?許せないんだけど。
そういった混乱をよそに明華の連絡先が手に入ったので、僕の方から明華に簡単なメッセージを送る。手が震えて変な文章になってないか心配したけど、無事送れたようで何より。
「それじゃあ、もう少し話でもしたら今日は店終いにしましょう」
そのマリアさんの一言で、明華がすぐに席を立つ。しかしそれをすかさずマリアさんが止める。
「礼香ちゃん?まだでしょ?」
僕の方からマリアさんの顔はうかがえないけど、明華の顔が見たことないような顔をしていた。まるで悪さをしたのを見つかった時の子供のような顔。珍しいそんな顔もするんだなぁ。
「はぁ……」
あきらめのため息は何度も聞いた。多分これからも何度も聞くことになるんだと思う。それを少しでも少なくできればいいな。きっとそれが僕のラブコメの主人公としての成長度合いを測る物差し代わりになってくれることだろう。
ポケットの中でスマホが震えた。相手は見なくても分かった明華だ。というか顔がもうそう言っていた。「お前も早く帰れよ」って言いたいんだろうな。
少し縮まった距離を感じつつ、僕はどこか満たされた様な感情を覚えた、今までの人生でこんな感情は初めてかもしれない。
これにて第一章は終わりのつもりです。後々少し手を加えたり、誤字脱字の報告があればおっしゃっていただければ修正いたします。
この後は少しの間章を挟んで第2章を展開して行けたらいいなと思っています。
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