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しらかわよふね  作者: 諧謔亭ごちそうたべたべ
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四季候委員2

よろしくお願いします。



        ー四季候委員ー



あのあとすぐにカフェを出て約三十分ほど、あまり人気のない学校周りを抜け、駅の周りの住宅街まで僕らは足を運んだ。

今回の目的地は大学の学生寮に併設された小さな市民ホールのロビー。

そこには観葉植物と自動販売機、ちょっとした4人がけのテーブルだけが狭い空間にぎゅっと収まっている。


「では、本日は体験入部ということでよろしいですね」


「はい、勿論。よろしくお願いします」



椅子にかけた僕ら二人は『しっこういいんかい』なる活動をしている二名と向かい合っていた。


「承知いたしました。うちは四季候委員会長の叙情ヶ(じょじょうがさき)と申します。どうぞよしなに」


僕の左側、先輩の目の前に座った色素の薄い女性はそう挨拶して深くお辞儀をした。

続けざまに僕の眼の前に座る似たような女性も挨拶をする。


「わ、わたくしは二束旅(ふたたばた)と申します。よろしく。四季候委員副会長です」

二束旅と名乗る女性も色素が薄い白い肌。


二人、叙情ヶ崎さんも二束旅さんも似た者同士、気が合う同士で作ったサークルなのだろうか、偶然同じ年に生まれ、偶然同じ学校で出会い、偶然同じ珍妙な集まりに興味を持ちそこに収まっているなんて、でなければ雰囲気も服装の感じも髪型もアクセサリーも何もかも似通いすぎている。

顔をジロジロ見つめすぎたのか、二人は同時に「なにか?」と言いたげに頭を傾けた。


「叙情ヶ崎さんと二束旅さんね、どうぞよろしく。で、四季候委員って何をやっているところなの?」


「は、はい。わたくしたちの活動内容は四季を愛でることですネ」

副委員長の二束旅さんが答えた。


愛でる...。

先程のハト女が一瞬頭をよぎる。

それを遮るように先輩が疑問をぶつける。


「つまり?具体的には?」


「...二十四節気というものをご存知でしょうか?」


「二十四節気?」


「はい。ダイナミックに言えば春夏秋冬をもっと細分化したものですね。聞いたことあると思いますよお二人も。例えば『夏至』とか『冬至』とか。」


「へ~、あれって季節をもっと細分化したものなんだ」


「他にもまだまだあります。『小寒』『大寒』『立春』『雨水』『啓蟄』...。それがワンシーズン、春夏秋冬でだいたい六つずつ」


「さらにそれを細かくしたものが七十二候になりますネ」


「ここから更に細かくされるんだ」


「今委員長が言ったものを四、五日ずつくらいに分割していきますとですネ、全部で七十二候。この七十二候に関してはあまり聞き慣れない言葉になっていると思います」


「聞き慣れない?」


「ええ、二十四節気のような短い単語でなく、ちょっと洒落た文章で季節を表すんですネ。今の季節で言えば二十四節気が『処暑』、七十二節気が『禾乃登(こくものすなわちのぼる)』っといった感じになりますネ」


「おい後輩、聞いたか」


「聞きましたよ先輩」


「なんかカッケえなあ!」


「そこですか」


「それ以外にあるか?」


「もっとあるでしょ。感性実家に置いてきたんですか?」


「あぁ?なんつったこの無防備バカ。このカッコよさが分かんねえとか、だからモテねえんだよこのバケツ野郎」


「バケツ野郎ってなんだよ。そもそもバケツはモテねえだろ。」


「お前よりバケツの方が便利だから。婚活有利だからバケツ。水も入るし」


「だから何だよ」


 ...フッ


僕らのいつものやり取りに、四季候委員らが小さく笑いを漏らした。

二人は一緒に僕らから背を向けて肩をふるふる震わせている。

少しして同時に深呼吸をするとこちらに向き直って続けた。



「...ッ意味はただ、穀物が実るってことですけど、ネ...」



「いやいや~意味なんてなんでも良いから、良いからさ~!必要なのはかっこよさだと思うのよ私。なんだか語感も良いし、頭まで良くなった感じするわ~!満足満足!」


確かにさっきのハトに比べたら大分知的で、かつまだまともな気がする。

ただ愛でるとは何なのだろうか?

この人たちの興味の先はわかったけれども、それをどう活動としているのかがわからない。

ただただ巡る季節を数日かけて感じるのか?

デジタルに囲まれた現世から少し離れて、ゆっくりとした時間を過ごすサークルなのだろうか?

ずいぶん贅沢な時間の使い方だな、と思ってしまう。

それなら少し前の僕とそこまで変わらないのではないか?いや...


...それともっと気になることが一つある。


叙情ヶ崎さんも二束旅さんも僕と全く目を合わせない。

いや僕だけではない。先輩とも全く目を合わせていない気がする。先輩は気づいていないのかもしれないけれども、この二人話すときに必ず視線をそらす。勿論目を合わせるのが苦手だという人はいるだろうが、何かそういった感じではない。もっと何か隠しているような気がする。


「オイ後輩。何二人のことジロジロ見てんだ。きっしょいな~」


「あ、スンマセん」


「ほら、外行くってよ」


「ああ、ハイハイ」


「ハイは一回だろ。稚児の歩行じゃねえんだから」


「稚児の歩行って。もっと言い方あるだろ」


「...フフッ」


また微かな笑い声が聞こえる。

声の主は二束旅さんのものだ。

彼女は口元を隠しながら僕たちから顔を背けていた。

すると、


スパァン


と思い切りよく委員長、叙情ヶ崎さんが二束旅さんの頭を叩いた。


なんだこれ。



「失礼いたしました...ッ。では行きましょう、か。お二人、二束旅は気にせずどうぞ外まで」


「あ、はい」



二束旅さんを置いて僕らは叙情ヶ崎さんに続く。

少し歩いたあとで、ちらりと後ろ目に二束旅さんの事を見る。

彼女は落ち着きを取り戻すように大きく深呼吸をしていた。



ああ、このふたり隠してるんじゃない。


笑わないように我慢してるんだ。



ありがとうございました。

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