四季候委員1
よろしくお願いします。
「後輩くんや。四季候委員、というものがあるらしい。君は知らないだろうけど」
先輩はお得意の『知らないだろうけど』を発した。
「しっこういいん?ですか」
そうして僕はいつものように復唱して返す。
「Yes」
分厚い黒縁メガネをドヤ顔でクイックイしている先輩は、不相応なほどにクソでかいパフェを今や完食しようとしているところだ。
我が学び舎から徒歩十分、一人だったら決して入ることがないであろうお洒落なカフェで僕と先輩は机を挟んで向かい合っている。
いわゆるティータイム。
中世ヨーロッパをモチーフに作られたこのカフェはカウンター席にズラリとサイフォンが並び、天井が高くとても薄暗い。店員たちもそれ相応の制服に身を包んでいて、まるで異世界に迷い込んでしまったような気さえする。
僕はここにつれてここに初めて連れてこられたときに、「これこそカフェのイデア」なんて感想を持った。
五~六あるテーブル席の一つではマダムたちがケーキスタンドを囲んでお喋り中、他には店の端っこのカウンター席に客が一人だけ。平日昼間に珍妙な話をするには持って来いの雰囲気だった。
「さっきの鳩女みたいなのは嫌ですよ」
「大丈夫だよ後輩くん。さっきのエクスタシー鳩女とは違う、と思う。多分、きっと、そんな気がする、勘だけど」
「信頼できねえなあ...」
「あれは私も恥ずかしかったから」
『お二人ぃもぉ...♡混ざってきますか!まざ...ッッッッ!混ざれよ!まざッ、お"ぉ"!ハト目ハト科!ハト目ハト科の右大臣や...!あぁ...偉いッ!偉すぎぃ!......左は♡ねぇ左はどこなの右大臣!我慢出来ないよ!右だけじゃ♡右だけじゃッッッダメィ!右大臣~右大臣阿倍御主人~!どこで手に入れたの~?その火鼠の皮衣何処から持ってきたの~♡この唐変木♡』
先程であった鳩ぐるい女、忘端 志音音のことを思い出す。
寝転んで鳩に囲まれ恍惚を感じる人間を、僕はこの先見ることはないだろう。
「もう一生関わりたくないなと思いましたね」
「辛辣ぅ~。でもまあ、人が少ない時期で助かったね」
「平時にやられちゃたまったもんじゃないですよ」
「ま、あれはあれで満足だよ。私としては」
満足、ねえ...。
「じゃあ先輩は、今日はよく眠れそうですね」
「君はどうだね、後輩くん」
最後の一口のチョコクリームを飲み込んだ先輩は、細長いスプーンを僕にずいっと突き立てた。
「...まだ、もう少し、ですかね」
ー四季候委員ー
ありがとうございました。