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嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います  作者: ゆさま


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18/20

来たよ

 いつものように、森で採ってきた素材を仕分けていると、窓の外を眺めていたベネットが、唐突に振り返った。


「ねー、ウィルー、来たよ」


「何が?」


「リーナとヴェザルナ」


「はぁっ!? もう来たの? ……今の俺たちで勝てそうなのか?」


 俺の疑問に、ベネットは小首を傾げた。


「うーん、ヴェザルナは思ったより強くないかも。でも、力を隠してるかもしれないし、私が倒すね。リーナはウィルと同じくらいの強さかな? 油断しなければ勝てるよ。あともう一人いるけど、こっちは全然だねー」


 ベネットの態度は、余裕そうなのでホッとした。だが、油断しなければ勝てるということは負ける可能性もある。腹に力を入れて気合を入れ直した。


「行こうか」


「うん!」


 ベネットに続いて森を駆け抜けると、丘の上で二つの人影が待っていた。赤髪のリーナと、白髪の少女だ。


 俺は彼女たちの前に立つと、愛想よく話し掛けた。


「久しぶりだなリーナ。そっちの白髪の方は初めまして、だよな?」


 リーナは眉間にしわを寄せ「気安く私の名前を呼ばないで」と吐き捨てた。白髪の方も黙って俺を刺すような目つきで睨んでいる。


「おいおい、若い子にそんな目を向けられるのは地味に辛いかな」


 リーナは俺の軽口を完全に無視して、ベネットを指差した。


「ヴェザルナ、あれを抑えなさい」


 その言葉に応えるように、リーナの影が立ち上がり、黒いドレスを着た女の形になった。炎のように揺らめいていて、実体のない幽霊のように見える。


 あれが魔炎妃ヴェザルナなのか。どことなく女王様みたいだ。その威圧感はかなりのもので、Sランクモンスターというだけのことはある。


 ヴェザルナはベネットを見て、ポツリと漏らした。


「あれが、ブラッディマッシュ……?」


 ヴェザルナの声はわずかに震えていた。ベネットを警戒しているのだろう。そんなヴェザルナをリーナは嘲笑う。


「怖いの? 同じSランクモンスターなんでしょ?」


「冗談言わないで。人間みたいな見た目だったから、少し驚いただけよ。すぐに灰にしてみせるわ」


 ヴェザルナが強気で返すと、ベネットも余裕の笑みを浮かべた。


「あなたが私を灰にする? 面白い冗談だね」


 ベネットは跳んで、俺から遠ざかった。俺を巻き込まないために、気を使ってくれたのだろう。


 次いで、ヴェザルナも黒炎を噴き上げながら飛びあがった。二つの強大な力が激突した瞬間、空気が裂け、地面は悲鳴を上げてひび割れる。森の匂いを塗りつぶすように、焦げた匂いが広がった。


 あれがSランクモンスター同士の戦闘か。まさに災害そのものだな。


 ベネットは大丈夫だろう。そもそも、俺が心配すること自体が無意味だ。それよりも、俺は自分の心配をしなくては。


 俺は、リーナと白髪の少女に意識を向けた。

 

「君らみたいな綺麗な子に相手してもらえるなんて、おじさん嬉しいねぇ」


 リーナは鬼のような形相で、剣を抜いて切っ先を俺に向けた。


「減らず口を!!」


 隣にいた白髪の少女が、一歩前に出た。


「こんなおっさんごとき、リーナお姉さまの手を煩わせない。私にやらせてください!」


「待ちなさい! あれは私の獲物よ!」


「私にもリーナお姉さまの復讐のお手伝いをさせてください! 腕の一本くらいは取って見せます!」


 白髪の少女はリーナの制止を聞かずに、剣を抜いて迫ってきた。


「私はシェリー。私のリーナお姉さまを悲しませるあなたを、絶対に許さない」


 俺は直接この子と接点はないはずなのに、なんて目つきで睨んでやがる。


「シェリー、俺とは初対面のはずだが、俺とリーナの間に何があったのか、きちんと聞いているんだよな?」


「バカにしてるの? もちろん聞いているわ。あなたはブラッディマッシュを使って、リーナお姉さまの妹を全員殺したんでしょう?」


 まぁ、それは事実だが、そこに至る経緯を何も聞いていないんじゃないのか? いや、考えるのはやめだ。俺に殺意を込めた刃を向けている以上、自分も殺される覚悟ができているということだ。


 俺が剣を抜くと、シェリーは跳びあがって剣を振り下ろす。彼女の剣から黒炎の刃が飛んできた。俺は剣に闘気を込めて振り、それをかき消した。


 お返しとばかりに、氷の矢を数発撃ち込むと、シェリーは黒い炎で壁を作って防いだ。


 シェリーは空中で加速して、突進してきた。あの黒い炎は防御や加速にも使えるのか。便利そうだな。なんか禍々しいから、使えるようになりたいとは思わんが。


 二人の剣が交錯するたびに、金属音が連続して響く。


 彼女の剣は黒い炎で覆われていて威力が大きい。闘気を込めた剣でなければ、簡単に折られていただろう。


 シェリーの剣技は、年の割には良く鍛えてはいる。黒炎を絡めた技は、そこらの奴じゃあ対応できないとも思う。それに、急所を狙うのを躊躇わないところを見ると、この若さで、何人も殺しているんだろう。


 だが、経験が足りなすぎる。前座に時間を掛けても、体力の無駄だ。さっさと退場願おうか。


 俺はフェイントを絡めてシェリーのペースを乱すと、闘気をより強く込めて、一気に振り抜いた。対応に遅れたシェリーが苦し紛れで剣を出すが、それは悪手だ。


 俺はシェリーの剣の側面に剣を叩きつけ、へし折ってやった。


 シェリーは動揺して、一瞬動きが止まった。俺は足を払って転倒させ、彼女の喉元に剣を突き付けた。


「恨みはないが、命は貰っておく」


 シェリーは目を見開いて瞳を揺らしている。お前の事情は知らんが、他人の復讐に加担するということは、こういうことだ。


 剣を握る手に力を込めようとしたその瞬間、黒炎の弧が俺めがけて飛んできた。


 跳躍してそれを躱すと、リーナはシェリーを抱え、離れた場所へ跳び退いた。リーナはシェリーを地面にそっと下ろした。


「あなたはここで見ていなさい」


「リーナお姉さま……」


 リーナはシェリーに背を向けると、俺に向き直った。彼女の瞳には、今まで以上に怒りの炎が宿っているように見えた。


 さて、ここからが本番だな。


 俺は息を深く吸って、剣を握り直した。

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― 新着の感想 ―
やれやれ。 ホーディみたいな「何も」なタイプになっちまったよ。 即社会復帰は難しいかなぁ。 そして……なんとか逃げ延びたけど、今まで殺してきた男のオンナ達にリンチにされるエンドも面白いかも(ォィ
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