なんて素晴らしい日
今日の俺は浮かれていた。
昨日、たまたま超希少な魔獣のシルバーホーンラビットに遭遇して、仕留めることができた。その銀色に輝く角と毛皮は、目玉がとびでるほどの高値で買い取ってもらえたのだ。
20年以上は冒険者として生きてきたが、こんな幸運は初めての経験だった。
この金を使って、思いっきり遊ぶぞ! そう決めて朝から胸を躍らせていたのだが、街が夜の顔に変わるまでには、まだ随分と時間がある。
「さて、どうやって時間をつぶそうか」
当てもなく歩いていると、冒険者ギルドに来てしまった。長年の習性とは怖いものだ。
とはいえ、今日はクエストをこなす気もないし、用事があるわけでもない。ただなんとなく、ギルドホールの古びたベンチに腰を下ろし、賑わう人々をぼんやりと眺めていた。
ふと、一際目を引く可憐な少女たちが、こちらへ歩いてくる。その笑い声は、ギルドホールの空気まで明るくするようだった。
長い赤髪を靡かせた美少女を先頭に、同じ赤髪を片側だけまとめたサイドテールの子、肩のあたりで紫髪をすっきり切りそろえた子、そして短い茶髪で落ち着いた雰囲気の子だ。
四人とも、目を奪われるほど整った顔立ちをしている。
やがて、美少女四人組は俺の前で足を止めた。彼女たちのリーダー格らしき長い赤髪の子が、俺に柔らかく微笑む。
「あの、もしかしてあなたは昨日シルバーホーンラビットを仕留めた、ベテラン冒険者のウィルさんですか?」
その清らかな声に、思わず口元が緩みそうになる。だが俺はクールなベテラン冒険者だ。必死に頬の筋肉を引き締めて返した。
「ああ、そうだが」
赤髪リーダー格の隣にいた、紫髪の美少女が目を輝かせて一歩前に出る。
「うわー、凄い!! もしよかったら、私たちと一緒に討伐クエストに行きませんか? 私たち、今から畑を荒らすバーバリックボアの討伐に行くところなんです」
可愛い女の子たちにお誘いを受けたのだ。舞い上がってしまうのは、男ならば仕方のないことだろう。
それでもできる限り平静を装って誘いを受けると、彼女たちは大喜びで拍手を始めた。
なんて素晴らしい日なんだろう。これはワンチャンあるんじゃね?
そんな期待を頭の中で巡らせながら、38歳独身彼女無し素人童貞おじさん冒険者は、美少女四人組のパーティーに混じって、バーバリックボアの討伐に出発するのだった。
* * *
バーバリックボアが出たという村に向かって、街道を歩いている。
前を歩く美少女四人組は、仲間内で楽しそうに身振り手振りを交えて話しているが、俺に話を振ってくることもない。自分からその輪の中に入ろうとするのは、なんか違う気がするので、俺は少し離れて、彼女たちの背中を眺め静かに後を追った。
しばらく進むと、彼女たちは何故か街道を外れ、草木の生い茂る獣道へと足を踏み入れた。
不審に思い「どこに行くんだ?」と問うと、赤髪リーダー格はくるりと振り返り、悪戯っぽい笑顔を浮かべて口元に人差し指をあてた。
「ひ・み・つ」
俺はクールなベテラン冒険者だ。小娘ごときにドキドキなんてしないぜ!
なんてこともなく、彼女の若々しい愛らしさと、滲み出る艶っぽさにあてられて、心臓がドクンと跳ねた。つい目をそらして、喉の奥で「おぅ……」と小さく呻くことしかできなかった。
もしかして、もしかするのか? ついに俺にも運が回ってきたのか!? そんな期待を抱きつつ、彼女たちの後を追う。
しばらく進むと、彼女たちが立ち止まった。そして、茶髪ショートが振り返り俺を睨む。
「おい、オッサン。脱げよ」
なんと!? こんなところでヤるのか? 最近の若い子って積極的なのね。いいだろう、受けて勃とうじゃないか! 俺が逸る気持ちを抑えきれず、慌ててズボンを下ろそうとした、その時。
茶髪ショートと紫髪が、俺に手のひらを向けて魔法を放った。
「ミュート」
「バインド」
えっ……!? 突然の出来事に、俺は全く対応できず、もろに魔法をくらってしまった。身体が魔法で拘束された俺は「お前ら、何をする気だ!」と叫ぼうとするも声が出ない。
「オジサン、なにするつもりだったの?」
「見て、このいやらしい顔。きっと私たちに、いやらしいことをするつもりだったんだわ」
「うわーキモッ」
彼女たちは俺を見て嘲笑っている。俺はまだ何もしていないぞ!
「慰謝料として、あり金全部と装備品を全部貰ってあげるわね」
俺は身動きできず、声も出せない。装備品を剥がされるのを、ただ黙って見ていることしかできなかった。
装備品すべてを奪われたが、服はどうにか脱がされずに済んだ。せっかくなら、美少女たちに服を脱がして欲しかった……って違うか。
俺がしょうもない妄想をしていると、赤髪リーダー格は、俺から剥ぎ取った胸当てを手に取り、内側を丹念に探り始めた。そこに隠されていた小さな袋を見つけると、彼女は口角を吊り上げて笑った。
「こんなところに隠してたのね」
彼女は袋を開け、中身を手のひらに出した。袋から出てきたのは、白金貨三枚と金貨八枚、それと、赤みのかかった光をほのかに放つコインが一枚。
その袋の中身は、シルバーホーンラビットの素材を売って得た金であり、俺の全財産だ。赤髪リーダー格の子は、赤いコインをつまんで眺める。
「へー、これがオリハルコン製のコインかぁ……」
すると他の子たちもそのコインに注目し、感嘆の声を漏らした。
「初めて見た……。キレイね」
「白金貨10枚以上の価値があるという古代の遺物……」
「美術品としても価値がありそうね」
しばらくそれを眺めた後、赤髪リーダー格はいい笑顔を俺に向ける。
「あんたみたいなオッサンが持ってても意味ないから、私たちが貰ってあげるね」
その言葉に続いて、赤髪サイドテールが腰から剣を抜き、俺の首筋に冷たい切っ先を突きつけた。
「お姉ちゃん、こいつ、どうする?」
「もちろん殺すよ。ギルドとかに報告されると面倒だし。でもあなたの剣で斬ってはだめよ。返り血で証拠が残ってしまうから」
赤髪リーダー格が悪びれる様子もなくそう言うと、紫髪が俺に杖の先端を向けた。
「みんな、下がって。私がやる」
彼女たちが俺から離れたのを見計らって、紫髪が魔法を発動した。
「ストーンブラスト」
次の瞬間、黄色の魔法陣が現れ、そこからいくつもの石礫が飛んできた。魔法で拘束されて動けない俺に次々と石礫は命中し、その衝撃で俺は弾き飛ばされてしまった。
「バイバイ、オジサン。楽しい妄想出来たでしょ? 良かったね」
楽しそうな美少女たちの笑い声は、だんだんと遠ざかっていった。




