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なんて素晴らしい日

 今日の俺は浮かれていた。


 昨日たまたま遭遇した、超希少な魔獣のシルバーホーンラビットを倒して手に入れた、銀色に輝く角と毛皮を、目玉がとびでるほどの高値で買い取ってもらえたのだ。


 こんな幸運は20年冒険者をやっているが、初めての経験だった。


 この金を使って、思いっきり遊ぶぞ! そう思って朝からウキウキしていたのだが、街が夜の顔に変わるまでには、まだまだ時間がある。


「さて、どうやって時間をつぶそうか」


 結局、冒険者ギルドに来てしまった。長年の習性とは怖いものだ。今日はクエストをこなす気もないし、用事もないので、ベンチに座ってギルド内にいる人々をぼんやり眺めていた。


 すると、とびきりかわいい女の子四人組が俺に近づいてきた。


「あの、もしかしてあなたは昨日シルバーホーンラビットを狩った、ベテラン冒険者のウィルさんですか?」


 リーダー格っぽい、長い赤髪をなびかせた美少女にそう問われた俺は、緩みそうになる頬をめいっぱい引き締めて返す。


「ああ、そうだが」


 すると隣にいた、紫髪の美少女が目を輝かせる。


「うわー、凄い!! もしよかったら、私たちと一緒に討伐クエストに行きませんか? 私たち、今から畑を荒らすバーバリックボアの討伐に向かうんですよ」


 かわいい女の子にお誘いを受けて舞い上がった俺は、二つ返事で了解し女の子四人パーティーに混じって、バーバリックボアの討伐に出発した。


 なんて素晴らしい日なんだろう。これはワンチャンあるんじゃね? という心の声を押し殺して、38歳独身彼女無素人童貞おじさん冒険者は、彼女たちにのこのこ付いて行くのだった。




 * * *




 バーバリックボアが出たという村に向かって街道を歩いている。


 彼女たちは仲間内で楽しそうに話しているが、俺に話を振ってくることもない。俺が自分からその輪の中に入ろうとするのもなんか違う気がしたので、少し離れて彼女たちの後をついて歩いた。


 しばらく行くと、彼女たちは何故か森の道を外れて、茂みに入っていく。


 俺が「どこに行くんだ?」と問うと、リーダー格の子がニコッと笑って「ひ・み・つ」とウインクした。


 俺はクールなベテラン冒険者だ。小娘ごときにドキドキなんてしないぜ! なんて訳もなく、ドキッとして「おぅ」と目を逸らした。


 もしかして、もしかするのか? ついに俺にも運が回って来たのか!? そんな期待感を抱きつつ、彼女たちの後を追う。


 しばらく進むと、女の子たちが立ち止まった。そして、茶髪ショートの子が振り返り俺を睨む。


「おい、オッサン。脱げよ」


 なんと!? こんなところでヤるのか? 最近の若い子って積極的なのね。いいだろう、受けてとうじゃないか! 俺がズボンを下ろそうとしていると……。


 二人の女の子が俺に手のひらを向けて魔法を放った。


「ミュート」

「バインド」


 えっ……!?  突然のことに、俺は全く対応できずもろに魔法をくらってしまった。身体が魔法で拘束された俺は「お前ら、何をする気だ!」と叫ぼうとするも声が出ない。


「オジサン、なにするつもりだったの?」

「見て、このいやらしい顔。きっと私たちに、いやらしいことをするつもりだよ」

「うわーキモッ」


 彼女たちは俺を見て嘲笑っている。俺はまだ何もしていないぞ! 


「慰謝料として、あり金全部と装備品を全部貰ってあげるわね」


 俺は身動きできず、声も出せない。装備品を剝がされるのを、ただ黙って見ていることしかできなかった。


 金も装備も奪われたが、服はどうにか脱がされずに済んだ。せっかくなら、美少女たちに服を脱がして欲し……って違うか。


 俺がしょうもない妄想をしていると、赤髪リーダー格の子は、俺からはぎ取った胸当てを手に取って探る。そこに仕込まれている袋を取り出すと、にやりと笑みを浮かべた。


「こんなところに隠してたのね」


 彼女は袋を開け、中身を手のひらに出した。袋から出てきたのは白金貨三枚と金貨八枚、それに、赤みのかかった光をほのかに放つコインが一枚。


 その袋の中身は、俺がシルバーホーンラビットの素材を売って得た金であり、俺の全財産だ。赤髪のリーダー格の子は、赤いコインをつまんで眺める。


「へーこれが、オリハルコン製のコインかぁ……」


 すると他の子たちもそのコインに注目し、感嘆の声を漏らした。


「初めて見た……。キレイね」 

「白金貨10枚以上の価値があるという古代の遺物」

「美術品としても価値がありそうね」


 しばらくそれを眺めた後、赤髪のリーダー格の子はいい笑顔を俺に向ける。


「あんたみたいなオッサンが持ってても意味ないから、私たちが貰ってあげるね」


 赤髪サイドテールの子が腰から剣を抜き、俺の首に突きつけた。


「お姉ちゃん、こいつ、どうする?」


「もちろん殺すよ。ギルドとかに報告されると面倒だし。でもあなたの剣で斬ってはだめよ。返り血で証拠が残ってしまうから」


 赤髪のリーダー格の子が悪びれる様子もなくそう言うと、紫髪の子が俺に杖の先端を向けた。


「みんな、下がって。私がやる」


 女の子たちが俺から離れたのを見計らって、紫髪の子が魔法を発動した。


「ストーンブラスト」


 次の瞬間黄色の魔法陣が現れ、そこからいくつもの石礫が飛んできた。そして動くことも出来ない棒立ちの俺に次々と命中し、その勢いで弾き飛ばされてしまった。


「バイバイ、オジサン。楽しい妄想出来たでしょ? 良かったね」


 そう言い残すと、女の子たちはケラケラ笑いながら去って行った。

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