みそかまぼこビーム
眼の前に、みそ煮を煮るアザラシ。
「今日もがんばったね」
そう言われて、わたしはアザラシにすがりついた。
「アザラシさん……!」
アザラシは回転しながらみそ煮をまき散らかした。
「これ食べて、元気だしな」
「ありがとう」
プールからこぼれたみそ煮をいただきながら、わたしは泣いた。
「うえーん」
「じゃあ、またよろしくね」
わたしはゲレンデを滑りおりて家に帰った。
「またアザラシにあったの?」
家に帰ると、三メートル級のネコがろうかにしっぽを置いて、リビングを埋め尽くしていた。
「そうだよー」
わたしはネコに抱きついた。
すると黒い毛の内側に、ゆっくりふるえるあたたかさがあった。
そのなかに埋もれながら、わたしはぼんやりしていた。
「……聞いてる?」
ネコは何か言っていたようだが、わたしは首を振った。
「いや……」
風呂に入って横になると、部屋の静かな時間に埋もれた。
アザラシもネコもいない。しかし、満たされていた。
「だれもいない……」
さわがしく追い立て、決めつけ縛り、追い詰めるもの。
そのすべては、そこにはなかった。
「みそかまぼこ、食べようかな」
アザラシがつくったかまぼこのみそ煮。
タッパーに満たされたそれは、外側の包みが少しプールの水でしけっていた。
器を変えて温める。味はしょっぱい。ごはんがあう。
一階の部屋にみちみちた黒猫は、何も言わなかった。