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2.バンドややろうぜ

なんであいつと再会なんてしてしまったんだろう、しかも同じ高校なんて。

最悪だ、絶対にもう二度と会うことは無いと思っていたのに。

今日はとにかく、6時間目の授業が終わったらサッサと帰ろう。

そう考えていると終業のチャイムが鳴った。

急いで鞄を抱えて教室の入口に向かうと、

綾香が待っていた。

「さあ、行くわよ」

えっ、まだチャイムが鳴ったばかりだよね。なんで待ってるん。

抵抗を試みようとする自分に何の躊躇もなく話しかけてくる。

「どうやって通学してるの」

綾香はせかすように先を歩く。

「普通に自転車で来てるけど」

「あたし歩きだからさあ、後ろ乗せてってよ」

ロングヘヤーを後ろに縛り、既に乗る準備を整えている。

「ええ、二人乗りは良くないよ。捕まるよ」

「捕まりそうになったら下りればいいのよ、こんな美少女が後ろに乗ってあげるんだから

ありがたく思いなさい」

相変わらずのスーパー上から目線は小学校当時のままだ。

仕方なく彼女を後ろに乗せて校門を出て行く。

男子生徒から鋭い氷の矢を受けながら。

そりゃ彼女の本当の性格をを知らなきゃ羨ましいよね。

人は外見だけで判断しちゃいけないよ。

「4年ぶりかしら、あなたの家に来るの。あんまり変わってないわね」

「まあ、ちょっとリフォームとかしたけどね」

両親の帰りはいつも遅いし、大学生の姉の帰りもいつも8時過ぎだ。

だから今家には誰もいない。

思春期を迎えて、女性を意識するようになってから女の子を自分の部屋に入れるのは

初めてだ、緊張感が漂う。もっともそれはラブコメ的な展開への期待ではなく、何かいたずら

されるんじゃないか、はめられたんじゃないかという、緊迫感に近いものだが。

「ちょっと懐かしいわね。昔はよくここでTVゲームをしたわね」

部屋に入るなり綾香はそんなことを言い出した。

「あっ、そうだ、明日から私の家に迎えに来なさい。毎日自転車の後ろに乗せて行って」

「そんなことをしたら益々まずいじゃないか!もう既に変な噂が広まってると思うし、

明日、早々に打ち消した方がいいよ」

「変な噂って?」

綾香は全く理解していない様子だった

「今日さあ、俺の事、名前で呼んで近寄って来たよね。幼馴染の感動的な久しぶりの再開みたいな感じで。

それに自転車の後ろに乗って一緒に帰って、どう見てもこれから付き合いますって雰囲気だったでしょう?」

「ええ、そうなのかなあ?そこまでは考えなくない?」

「いや、いや、いや、周りから見たらそう見えるから、まずいでしょ」

「でもそうかな、確かに午後からは寄ってくる男子生徒の数は減ったわ」

「そうだろう!だから早く誤解を打ち消した方がいい」

「確かにそうかもしれないけど、男子生徒に囲まれて質問攻めに合うのも正直ウザかったんだよね。

逆にこのままみんなに勘違いさせたままの方がいいんじゃない。魔除けみたいになるし」

「人の事魔除けって!?でも付き合ってる風に装うんだったら、それなりに振る舞わないといけないし、

すぐにばれると思うぞ」

「じゃあ、本当に付き合っちゃう?」

「ええっ!付き合っちゃうってそんな簡単に」

綾香は唇だけで笑うあの独特な笑い方をしている。

思い出した、小学生の時自分にイタズラをして楽しんでいる時の顔だ。

「だってさあ、これからまた小学校の時みたいに哲也と仲良くしたいし、

付き合ったことにした方が周りを気にしなくていいじゃない?」

ハハーン、やっぱりそうだ。さては何か企んでるな。

「付き合うってさあ、そんな簡単にもいかんでしょう?たとえばさあ・・・・・・・」

ここまで言ってから耳たぶが熱くなっている事に気づく。

これだから中学、高校とろくに女子と話したことのない奴は困る、俺の事だけど。

「あれぇ何なに!なんか男子高校生的なHな事とか想像しちゃった?」

そんな風に言われると余計にいろいろな妄想が頭の中を駆け巡る。

「いや、そんなわけないだろう!」

平静を装うのでいっぱいいっぱいだ。

「別にいいのよ期待するのは、男の子なんだから。多少なら大目に見てあげる」

なんかいいようにあしらわれて、手なずけられているような感じもするんだが。

頭の中がモヤモヤしてきたので話を変えようと試みる。

「何か温かい物でも飲む?コーヒーでいいかな」

「あれえ、こういう会話はまだついてこれないのかな?まあいいわ、レモンティーにして」

「かしこまりました、お嬢様」

哲也はいつもの調子を早く取り戻したかった。


自分はコーヒー、彼女にはレモンティーを入れて部屋に戻ると、

綾香は洋服ダンスにしまってあったギターを引っ張り出して、弾きまねをしていた。

ああ!俺の大切なIbanez RG350ZGを勝手に触りまくってる!

悪びれる様子もない。

「ギターやってたんだ?」

「う、うん!少しね。中1の頃から」

ムッとしている様子が顔に少し出てしまう。

そんなことお構いなしの綾香。

「このギター高いんでしょう?いくらぐらい?」

「7万ぐらいだったかな」

「へ~、じゃあいっしょにバンドやらない?」

「はあ?」

「私ね、バンドやりたくてこの学校に転校して来たの」

「ええ、そんな理由で!?」

思わぬ発言に、自分がムッとしていたことも忘れてしまう。

「そうよ、まあそれが全部ってわけじゃないけど、理由の一つではあるわ。

アニメのぼっち・ざ・ろっくって知ってる?」

「ああ、知ってるよ」

「あの最終回の文化祭でライブをやるシーンに感動しちゃって、

どうしてもバンドをやりたくなってしまったの」

「へえ~」

「前にいた学校の文化祭って、今時、模造紙に研究発表を載せて貼るだけ、

みたいなやつだったし、文化祭ステージみたいなのはないし、

そもそもバンド活動は暗に禁止されてたしね」

「ふ~ん、結構厳しい学校だったんだね」

「新都心高校ってさあ、文化祭のステージって結構盛り上がるでしょ、

軽音部の活動も盛んだって聞いたわ、それで転校しようと思ったわけ」

「なんか、一大決心を些細な理由でしてしまってるような気もするけど」

綾香が転向した理由は別の事の方が大きかったが、特に哲也に対しては

こういった理由にしておきたかった。

「それでどう?バンドやる?」

「まあ、別にいいけど・・・、ところで楽器はできるの?」

「私はギターボーカルをやりたいの」

「じゃあ、ギターはできるんだ」

「できないわ」

「ええ?」

「あなたが教えてよ」

「ええ、う~ん、まあいいけどさあ」

「それじゃ、明日から教えて、毎日あなたの家に寄るから」

「はあ?それじゃまるで付き合ってるみたいじゃないか」

「あれ、付き合うんじゃなかったの、フフフ」

そう来るか!また、唇だけの笑いを浮かべている、実に楽しそうだ。

「とりあえず、ギターボーカルとリードギターは決まったけど」

「ちょっと待って!リードギターは不思議系美少女女子って決めてるの」

「はあ?何それ、それじゃギターが3人になっちゃうよ」

「あんたはベースでいいじゃない。タンスにベースもあったし」

「あれは前に姉貴からもらったやつで、あんまり弾いたことないし」

「それじゃ、あなたも練習すればいいじゃない、私も練習するんだし」

不思議と理屈は合っている気もするが。

「ええ~、なんだかわからんなあ」

「別にいいじゃない、発案者は私なんだし」

言い出したら人の意見はまったく聞かない。

このあたりも昔と全然変わっていない。

高校生になって、少しは大人になったのかなと思っていたところだが、

本質は全く変わっていない。

急に昔、背中に青虫を入れられたことを思い出して、

背筋がゾクッとした。

「もう7時ね。そろそろお暇するわ。送って行って」

「ええ~送るの、まあ、いいけどさあ」

「それじゃ、ギター借りてくわね」

「ええっ!何それ」

「練習するって言ったでしょ、あんたはベースを練習するんだから必要ないでしょ」

再び理屈だけは合っているんだが。

「俺の大切なRG350Zを貸すって!」

「大丈夫よ、大切にするから」

いやいやそういう事じゃなくて。

俺もうベース決定なの?

綾香はさっさと俺のRG350Zをソフトケースに詰めて、

肩に担いで俺の部屋を出て行った。

あまりの素早さに呆気に取られていると

「早くしてよ、遅くなっちゃうじゃない」

と、綾香が玄関で叫んでいる。

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