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勇者の国 ユキトキ篇  作者: 伯鏡
第1章 最後の勇者
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第8回「最後の勇者⑧」

 魔王種は厄介である。この厄介な存在はただの人では対処できない。故に人は鍛える。抗うために、生きぬくために剣を取る。それが騎士であり、聖騎士であり、一国における軍人たち。彼らは民の安全を守ることが最も重要な役目。それでも人間100年生きる中で魔王種に出会う確率は少ない。魔物種の方が圧倒的に多く、人を喰らうモノが多い。そのため、ユーラニカ大陸に安全な旅を送れる地域は限られている。西方は特に少ない。西方で安全なのは都市と聖暦以前からある石の街道である。ただし、完全に安全ではない。比較的安全なのである。いま、街道にいるユキトキらの前に安全はない。

「撃て!」

 リウィアの声にユキトキは反射的に指が動き、引き金を引いていた。魔法具はきちんと作動し、火の玉を放つ。エレナとアウレリアもリウィアの声を合図に引き金を引く。合計で3つの火の玉が優男の頭上を飛ぶ。白い煙をまっすぐ伸ばし、ハイグレード・ゴールデンターキーの喉元に直撃した。火の玉は火球となって魔王を呑み込んでいく。大きな炎の球体。太陽でも創り出しているのではないかと錯覚してしまう。そんな光景であった。

「はぁはぁはぁ…はあ…はあ…」

 優男(やさおとこが火球を見てようやく一息つけると思い立ち止まる。顔からは多量の汗。よほど全力で走って来たのであろう。背には少女。よく見れば腰にサーベルを佩いている。リウィアたちが身に着けている剣とは違って反りがある。鞘の形でよくわかった。目の前の2人を見てユキトキにも直ぐにわかった。この人たち訳ありだ。絶対。

「あぶない!」

 リウィアが叫ぶ。手にはいつの間にか鞘から抜いた剣がある。剣は飛来した小刀を弾き、優男を救う。

「はー、すごいね」

「ご無事で何よりです」

 リウィアはそう言って剣を鞘に納める。褒められてニヤけそうになる口元をキュッと閉じ、飛び跳ねたい思いを隠して、リウィアは優男を見る。

「あなたは何に追われていたのです?」

「全身を黒一色で統一した連中、です。おそらく悪魔教徒あくまきょうとでしょう」

「ふむ………納得できました。ここはかなり治安が悪い」

 リウィアは表情を変えるでもなく言った。優男もリウィアの反応に特段驚いてはいない。あんなに魔物が現れたり、小刀が飛んでくるようなことは日常的に見かける光景なのだろうか。ユキトキは気になった。気になったから聞いた。

「こんなに治安悪いところが他にも?」

「あります。特に西方と中南は魔物が多い」

 リウィアがそう言うと、優男も口を挟む。

「東方は都市部以外だと危険なところが多いと聞きます」

「えっと、あなたは……」

 ユキトキは教えてくれた優男に対して、「おい優男」だの、「やい色男」だのと言えるほど豪胆ではなかった。少したれ目で、右目の下には泣きぼくろ。艶のある唇は妖艶さを醸し出している。そんな優男をどう呼んだらいいのか困っていると察したのか、にっこりと笑って優男は言った。

「カトゥン王国が騎士ケルサス・サンと申します。よろしく、勇者殿?」

「よろしく……ユキトキ………です」

 ケルサスは爽やかな笑顔でユキトキに握手を求める。ユキトキは握手か、と軽く握ろうとして驚いた。ケルサスは力強く握って自分の方へと引っ張ったからだ。

「おわっ⁉︎」

「大丈夫か。勇者殿?」

「だい……じょぶです」

「なにより」

 また煌めくような笑顔。ユキトキの人生で関わりのなかったタイプだ。そう思いながらもたついた足をゆっくりと元の位置に戻して真っ直ぐ立つユキトキ。2人を見ていたリウィアが不思議そうにケルサスに問うた。

「カトゥン王国でサンと名乗れるのは王族のみとか。もしや?」

「ええ、一応、王族ですよ。今は遊学中ですが」

「カトゥン王国は西方の最北にある国の1つ。ここからだとかなりの距離があります。何故わざわざここパーラ王国まで来られたのでしょうか?」

 リウィアは優しい声音を出して聞いているが、内容と距離の詰め方は詰問に近い。

「遊学中と言ったでしょう?次いでに勇者殿の顔を拝んで置こうと来たのです」

「勇者殿が召喚されたのは3日前ですよ?公表されるまで、ち、猊下の話では予定の日まで今日からあと2、3日はあるというのに、よくご存知で」

「うぐっ、それは」

 ケルサスは痛いところを突かれたと、視線を逸らす。このような時、リウィアに躊躇いはない。両手でバチンとケルサスの頬を叩くようにして挟み込み、無理矢理に顔をリウィアに向けさせる。

「痛い⁉︎」

「痛いと言う時は痛くない‼︎」

「暴論が過ぎるぞ。あんた……」

「いいから」

 そう言ってリウィアは早く事情を吐けと促す。なんという荒業であろう。ユキトキは絶句した。左右にいるリウィアの妹たちは目をつむっている。我関せず、といった風だ。これもよくあることなのだろう。ユキトキはそう思うことにした。

「この背にいる子を助ける前に聞いた。悪魔教徒が勇者の話題を出していてな。それで知ったのよ」

 観念したようにケルサスは言った。満足したように柔和な笑みを浮かべると、リウィアはパッと両手をケルサスの頬から離す。赤くなった手の痕がはっきりと見える。ユキトキは思わず言った。

「綺麗な痕だね。もみじの葉っぱみたい!」

「綺麗なではござらん!勇者殿、あのお嬢さんにはよく言ってくれ。あんな優しそうな顔してやる事は暴力的だ。ほら、痛いんだぞ?」

「うーん。言っても無理だと思いますよ。あれは天性のもののようだし、俺には何も出来ないよ」

「え?」

「あきらめて」

 ユキトキはケルサスの右肩をポンと軽く叩く。ユキトキの顔には悟ったような、諦めたような微笑を浮かべていた。仏のような微笑みであった。

「………あー、勇者殿よ。もしや、あの聖騎士のお嬢さん方はカイルス家に連なる人か?」

「カイルスってやっぱ家名なんだね!ヨハネスさんの三姉妹だってさ」

「やはりか……」

 知らないことが解消されて笑顔になるユキトキ。対照的にケルサスは引き攣ったような顔をした。小さく、「うげっ」とユキトキには聞こえたが、もう一人の声でそれは誰の記憶にも残らないものとなった。

「う、ううっ……」

「起きたか!」

 ケルサスに背負われた少女が意識を取り戻したのである。

 


(第9回へ続く)


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