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勇者の国 ユキトキ篇  作者: 伯鏡
第1章 最後の勇者
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第2回「最後の勇者②」

「聖下、連れて参りました」

 ヨハネスの声である。選ばれた聖騎士とやらが来るのだと思うと緊張する。ユキトキは自然と背筋を伸ばすと扉に視線を送る。同じく視線を送っていたユリウス13世が、「入ってきなさい」と言うや扉がガチャリといって開き、廊下で待っていた4人が入ってきた。ヨハネス以外は黒い軍服のような恰好をしている。ユキトキが驚いたのはヨハネスに続いて入って来た3人の聖騎士である。1人も男がいなかったのだ。屈強な戦士が来ると言われてどんな輩が来るものかと緊張しかしていなかった。目の前に現れたのは街中で見たら二度見してしまいそうな美女たちである。スカートではなく、ズボンを履いていた。それでも身体付きや顔立ちからすぐにわかった。歳はユキトキとあまり離れてはいないだろう。

「女の子?」

 ユキトキは頭に浮かんだ事をポロッと口にしていた。思ったことが考えるより先に声に出ている。ユキトキの悪癖と言えよう。この癖にユキトキは後悔した事が何度もあった。今も例外なく後悔する事になったのは言うまでもない。

「女でなぜ悪いか?」

 ジッとユキトキを睨みつけ、見上げるのは3人の聖騎士の中で真ん中に立ち、背丈も両隣の2人の聖騎士の丁度真ん中の女だ。髪は肩に掛からない程度に短く、特に結っているわけでもない。今にも飛び掛かって来て殴り飛ばされそうな荒々しい感じがする。非常にこわい。

「いや悪いとかじゃ」

「女だからと舐めてっと魔物の餌にするぞ。ガキが!!」

「ひえっ!?」

 なぜこれ程までに圧の強い人が多いのだろう。涙目になるユキトキ。ヨハネスは額に右手を当てて天を仰いでいる。ユリウス13世に至ってはニコニコと笑みを浮かべたままこちらを傍観しているだけだ。誰か助けてくれ、と視線を目の前の女から左右の2人に向けた。すると、呆れたように髪を後ろで三つ編みにした1番背の高いのがため息を吐いた。

「エレナ、それでは中北ちゅうほくの野蛮人のようだ。落ち着きなさい」

 そう言って三つ編みの聖騎士は右手でエレナの頭を掴む。掴むやグイッとユキトキに向かって頭を無理矢理下げさせる。この瞬間、助かったと心中で一息ついたが、どうも三つ編みからも圧を感じてビクッとする。ユキトキはここに来てから心臓に悪い事しか起きていない気がした。

「勇者殿、愚妹が失礼を致しました」

「いや、驚いてしまっただけで」

 ユキトキが右手を後頭部に持っていき、少し掻く。それを見ていた一番背の低い聖騎士が両手を合わせて安心したような笑みを浮かべる。

「誤解があったようですね、エレナ姉さま」

「ちっ」

 エレナは小さく舌打ちすると、ユキトキを再び睨みつける。ユキトキはゴクリと唾を飲みこんだ。

「私らを侮辱でもしてみろ。勇者でも五体満足でいられると思うなよ?」

「し、しませんよ!絶対!断じて、しません!!」

 顔を左右に振り、全力で否定するユキトキを暫く睨んでいたエレナは視線を途端にふいっとヨハネスの方を向いてしまった。許されたのかは不明だが、特になにか言ってこないあたり今回は溜飲を下げてくれたのであろう。

「勇者殿、気を悪くさせてしまったようで申し訳ない。彼女たちは私の娘なのだが、未熟な者でして、許してはもらえませんか?」

 ヨハネスが気まずそうに頭を下げた。エレナはヨハネスの行為に目を丸くして声を上げようとしたのを2人に止められて手足をばたつかせ、もがいている。ユキトキには苦笑いを浮かべるしか出来ない。

「ん?娘?」

「そうです。背が高いのからリウィア、エレナ、アウレリア。自慢の娘ではありますが」

 ユキトキの疑問にヨハネスはそう言って答えるとエレナに視線を移して嘆息する。それを見たエレナが顔を真っ赤にして全員に背を向けた時である。ニコニコと傍観していたユリウス13世が口を開いた。ユキトキはもちろん、真っ赤にしてそっぽを向くエレナ以外はユリウス13世に顔を向ける。

「ヨハネス、あの子は?」

「いきなり大人数で行っては勇者殿の負担になると言って馬車の準備を始めました」

「そうか。なら馬車で会ってもらうか」

 ユリウス13世とヨハネスの会話によると、まだ誰かいる。エレナみたいな人でないことを心中で祈っていたら、ユリウス13世がユキトキの方に顔を向けていた。

「勇者殿、君の旅にはここにいる3人の聖騎士と、もう1人騎士が加わる。護衛や案内をしてくれるのだと思っておけばよいから安心なさい」

 ユリウス13世の言葉にユキトキは静かに頷いた。落ち着ける状況ではない。それでも少し状況は分かって来た。確実に日本ではない事と日本より危険な地域に駆り出されるという事、そして、ユキトキには拒否権がないという事である。討伐の旅を拒否しようものなら何をされるか分かったものではない。考えるだけで恐ろしい。漫画やゲームなら楽しめたものも現実となっては笑えない。

「勇者殿、そろそろ靴を履くといい。渡したい物があるから下の階に行こう。実を言うと、ここは高くて私はあまり好きではない」

 ユリウス13世がようやく下に行ける事にホッとしているのがわかった。誰よりも早く扉を開けて廊下に出る。それよりもどれだけユキトキが寝かされていた部屋は高いとこにあるのだろうかと疑問に思っていると、三つ編みのリウィアがそっと耳元で教えてくれた。

「ここは高貴な客人のための部屋で、主に各国の王やそれに準ずる身分の方を泊める部屋です。そのような方々を泊める部屋を地下にはつくれません。ここは、ハーメルン市国で最も高い塔で55mはあります」

「なるほど。あれ?おれ、そんな身分高くないですけど?」

「御冗談を。貴方は勇者です。それは称号だけではなく、ただの人から勇者という存在に格が上がったのだと思ってください」

「そういうものですか?」

「そういうものです」

 リウィアの言葉になんとなくだが分かった気になるユキトキ。最後に廊下に出て、階段を降りようとした時、背後にはエレナがいた。蹴り飛ばされそうな感じがしてまたも緊張感があった。それを察したのか、エレナは吐き捨てるように言う。

「護衛だ。護衛」

そう言ってユキトキの背をつま先で蹴る。「ぐへっ」と情けない声を出すユキトキはエレナに鼻で笑われる。階段を降りるまでに8回は急げと言って蹴られたのは痛い思い出となった。


(第3回へ続く)



・聖騎士三姉妹


【リウィア・カイルス】

ヨハネスの長女。妹はエレナ、アウレリア。聖暦1888年生まれ。聖暦1912年時点では24歳。身長は171㎝。種族は人間。所属はハーメルン聖騎士団。


【エレナ・カイルス】

ヨハネスの次女。姉はリウィア。妹はアウレリア。聖暦1891年生まれ。聖暦1912年時点では21歳。身長は166㎝。種族は人間。気性は荒め。役職は聖騎士。所属はハーメルン聖騎士団。


【アウレリア・カイルス】

ヨハネスの末子。長姉はリウィア。次姉はエレナ。聖暦1894年生まれ。聖暦1912年時点では18歳。身長は155㎝。種族は人間。役職は聖騎士。所属はハーメルン聖騎士団。


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