8話 嫌な奴
『――ダンジョンで得た魔石は回収後その性質によって分類。国による審査を受け、魔石の購入と利用を許された会社のみに販売されている。またその際も口封じの処理は行っており、情報漏洩のリスクを削いでいる。魔石を購入した会社は国から派遣される監査人立会いの下、それを発電、農業、尋問等に利用を始めており、公にはすることはないが、既に魔石を源にして一定の地域で消費者に対し送電が行われている。社員は自分が社会に大きく貢献していると自覚、そして誇りに思って仕事をこなして欲しい』
「思ったより責任重大な仕事だったんだ、これ。その割に俺たちの扱い悪いのなんで?」
「この会社はその成績によって地位が確定されて、その入れ替わりも激しいの。だから今の自分の地位を守りたいっていう人たちが、下から這い上がってこないようにコントロールしているからですの。国としてはそんなことせずにとにかく魔石を集めて欲しいと思っているらしいのですれど、それを強く言い過ぎると、会社から国に魔石の収集を打ち切ると提案、もっとわかりやすく言えば圧力をかけることができますの」
「国が会社にじゃなくて、会社が国に……」
「ええ。他の会社が参入したところで、新しい大量に魔石を回収できる人材の育成に何年かかるか分からない上、こっちにはそんな大量に魔石を集められる人材を留めておけるだけの資金、それに引き抜きに抵抗できる手段があるから」
「自衛用の魔石を会社は貯めているってことですか?」
「そういうことですわ。……。それにしても……。あなた、今まで辛そうにしていたのは演技だったんですの? 息一つ乱れずに、それどころか冊子を読みながら……もう20キロ達成ですわよ」
「いや、えっとそれは……」
態度の悪いアナウンスに心を攻撃された後ぬるっと始まったマラソンも何とかこなし終われた。
ネタバレしようかな、どうしようかな。いや、どうせならモンスターをずばんと倒すところを見せて驚かせたいって気持ちもあるな。
というか自転車を使っていたからってりょうさんも疲れた様子全然ないじゃん。
自分自身もハードな鍛錬をしているのかな?
だとしたら厳しいの何て当たり前で……《∞スタミナ》なんていう規格外のスキルがなかったら絶対あの鞭でしばかれまくってたわ。
ふぅ。効いたよね、早めの《はぐれもの》
『でもスキルの効果はダンジョン内だけだから、帰ったらしこたま吐くわよ。ふふふ』
「一言多いなぁ。お前はここぞって時に機械的に説明とかしてくれるポジションじゃないのかよ」
「アナウンスと話してる……」
「え、あ、そうですそうです! 別にりょうさんのことを言ってるわけじゃないんで気にしないでください!」
「分かったわ。……不思議なスタミナに、アナウンスと会話ねぇ」
「それよりそろそろ2階層に行きましょう! いやぁ、入場料一人5000円とか本当頭おかしい――」
「あっ……。まさか普通にダンジョンに戻ってくるなんて……」
りょうさんにスキルを疑われるような視線を向けられたから、急いでダンジョンの2階層に入るため泣けなしの一万円を受付の人に手渡しにいこうとした。
すると、視線の先には見覚えのある変態が……。
女の子と2人ってことは昨日の今日でまた連れてきたのか。有名ナンパ師より節操ないな。
「ステータスは貧弱でもメンタルは悪くなかったってこと、か。りょうと一緒に入れて平気そうにしている奴なんざ初めて見たぞ」
「スパルタはやっぱり有名だったか……。にしても、態度が大分違うんじゃないか?」
「そりゃあもう専属ってわけじゃないからな。まぁ雑魚がどれだけ頑張ったところで俺が、俺たちが脅かされるとは思わないが」
「成績を競う敵同士、か。なるほど。まぁそうやって優位に立ったつもりでのんびりやってくれるんならそれでいいや。その間にしれっと上にいくからさ」
「昨日のあの様でよくそんなことを言えるものだな。馬鹿なのか? それとも絶望し過ぎて現実逃避か?」
「どっちでもないってことはすぐにわかるさ」
「……。そんな男放っといて私たちは10階層のボスの準備を急ぐわよ。美杉。レアドロップを手に入れられるまでは私の荷物持ち物当番。それが済めば他に行ってもいいから」
「ふふ。分かりました。いや、まさか初日からボスに挑戦できるようなパートナーに巡り合えて私は幸せ者ですよ」
ニヤニヤしながら見せつけるように新しいパートナーと会話をする美杉。
クールな容姿のそのパートナーは見るからにエリートといったクールな振る舞いで、そそくさとダンジョンの入口へ向かう。
本当にダンジョン初日の人間か? あれ。
「美杉……」
「まぁまぁそんな目で見つめるのはやめてくれよ、りょう。いくら何人ものパートナー、しかも優秀な存在を抱えているのが羨ましいからってさ。むしろ感謝してくれよ、最低成績のお前にパートナーをあてがってやったことをさ。ま、そのパートナーもすぐに死にそうではあるが」
「そうならないように私は……」
「中途半端にしか魔石の力を引き出せないような奴は言葉のキレも悪いな。おっと、これ以上会話を楽しんでいるとパートナーに怒られかねん。ふふ、ここいらでおいとまさせていただくとしようか」
挑発的な美杉はそれを無視するパートナーの女性を追ってダンジョンへ。
まだ今日の仕事は始まってないのに、もう最悪な気分だよ。
「はぁ……。まさかあんなに嫌味な奴だったとは思わなかったですよ。思いっきり金的してやりたい気分ですね、りょうさん」
「そ、そうですわね」
「……」
過去のトラウマを思い出したのか、やけに顔色の悪いりょうさん。
うーん……。
とにかく安心させるにはやっぱり俺の雄姿を見せてあげるしかないか。
「となれば……。俺たちも行きましょう。言ってなかったですけど、俺はあいつをぎゃふんと言わせる、というか成り上がり系主人公目指してて……ただ死なないためだけに徹するつもりなんてないですから。よし! 今度こそノルマクリアしてやるか! すいません! 昨日預かってもらったアイテムの引き出しもお願いします!」
「あ、荷物は私が持ちますわ!」
◇
「――お! 見たことないモンスターじゃん!」
「ドロップ2のモンスター!? ジャンクゴーレムがなんでこんなところに!?」
2階層侵入直後、現れたのはジャンクゴーレム。
きっちりと形の整っている想像していたゴーレムとは違ってただ石が集まっただけのゴーレムなのか、やたらとごつごつしている。
目が光ってなければモンスターって気づかないかもしれない。
昨日は一度も見ることがなかったモンスターだけど、ただ見逃してただけか?
「ドロップ2ってことはスライムより強い敵なんだろうけど……。あんまり強そうじゃあないから、一気に攻め立てるか!」
「駄目! そいつはあなたが勝てる相手じゃないわ! さっきの女性のせいで奥のモンスターがこっちまで来てるだけで、あれはレベル20相当の強さが――」
「ぐ、お……。ぶぁぁああぁっぁああっ!!」
俺が意気揚々と近づくとジャンクゴーレムはけたたましく鳴き、その身体にまとわりつく石を勢いよく飛ばす。
投石という古典的な攻撃方法だけど、広範囲で地味に優秀な技だ。
「勿体ないけど、魔石を……」
「あ、それ必要ないのでしまってください」
「え?」
俺はゴーレムの攻撃から自分を守ろうとするりょうさんの正面にあえて立った。
攻撃方法が魔法でないなら、こんなものわけない。
「うそ……。まるでダメージが、ないですって?」
「雑魚雑魚って言ってましたけど、俺優秀な――」
「べぼ!」
うわぁ! あっち!
いつの間にお前、レッドスライムが!
俺の活躍シーン台無しにすんなよこいつ!
「大丈夫!?」
「もう頭きた……。八つ当たりのターゲットはまずお前からにしようかレア個体のレッドスライムさんよぉ」
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