5話 サポーター
「こうやって物に変えると金とは別の充実感があっていいだろ? すみません! 俺とこっちの子の残りの魔石の回収もお願いします。……。さて、この時間になると、1階層から限定でステータス画面に帰還ボタンが出るからそれで帰るんだぞ。そう、こんな具合に……」
「え、あ、消えた……。人の魔石を勝手に使った挙げ句勝手に消えた。……あのおじさんとはもう話すのやめよ。にしても定時刻に合わせた帰還システムって……。これを作った人はうちの会社の人間なのか?じゃあこのダンジョンは?」
『私』、じゃなくて……俺、気になります。
「は、はは……。その、質問は専属の方に聞いて頂けると、その、あの、えっと、た、助かります」
「あ、す、すみません。回収と交換ありがとうございました!」
「は、はいお疲れ様です……」
独り言のつもりが受付の女性にがっつり返事をされてしまった。
すっごい困った顔してたし、最悪ナンパだと思われたかも……。
毎日ここには来ないと行けないんだよな……。
気まず……。折角会話力というかコミュニケーション力が上昇できる環境なのに話したくない人がバンバン増えるのなんなの。
「……帰るか。あの、お疲れ様でした」
『ステータス』
ステータス画面の右端。
追加されていた『帰還』のボタンをタップ。
目の前の景色がグニャリと歪み、視界は真っ暗に。
「もしかしてあのおじさんに騙されて変なところに移動させられた、とかじゃな……。あの光は?」
真っ暗な空間に一抹の不安を感じていると、正面に一筋の光が射し込んだ。
俺は電灯に群れる虫のように、その光の下へ自然と歩き始め、その光の射し込んでいる先に手を伸ばす。
「この感触は……そうか、そういえば俺ここから移動してきたんだった」
木の擦れる音を聴きながら俺はその先に身体を乗り出す。
行きはおじさんに無理矢理、だったから実感が湧かなかったけど、こうやって1人でこの引き出しの出入り口を使うとマジでドラ●もんの気分だな。
「ただいま、我が家。はぁ、なんかどっと疲れが……。あれ?足ガックガクで……」
引き出しから這い出て立ち上がろうとするも、身体が言うことを聞かない。
緊張してたのが一気に緩和されたから? それとも今まではスキルで疲れが誤魔化されていたから?
とにかくこれは布団にダイブ決めて寝るしかなさそうだ。
「彰ぁ! ここにご飯置いとくから、ちゃんと食べて、お母さんが仕事行ってる間でいいから食器は洗いなさいね! それとお母さんと話がしたくないのは分かるけど、ノックで返事だけはしなさいっていつも言ってるでしょ! 生きてるか死んでるかも分からなくなるのは困るわよ!」
「ん? あー、ごめん母さん。了解了解。あ、ちょっと今手が離せないから悪いけど、ドアの中にご飯入れてもらえる?」
「はいはい。まったくあんたはいつまでも親に世話を掛けれ……。え?あんた返事を……。それにいいの? 扉開けても……」
「勝手には困るけ――。……。そういえば俺、普通に話して……」
「お、お父さん! 彰が、彰がぁ!」
「あ、だからご飯は……。はぁ、大袈裟だな。って言いたいけど、そうだよな。俺、それくらい家族と話してなかったんだよな。気を遣わせて、喧嘩して、結果面倒で話さなくなって、だんだんと親なのに話せなくなって……。ダンジョンで最強になって会社で上位に立って……こっちでも変わっていかないと、だな。よいしょっと……。おっ! 晩飯はハンバーグか!」
扉を開けておぼんに乗せられた晩飯を部屋の中に入れる。
濃いデミグラスソースが周りの人参やジャガイモにも染みて見映えはそこまで良くはないが、母さんのこれが絶品なのよ。
「いただきます。……。んーっ! うま! ……母さん、父さん。俺ヤバい会社だけど働くことになったからさ……まずはニート時代の晩飯代分から返してこうと思うよ」
◇
「――もう朝、か……。いつの寝ちまったのか、覚えてないくらい寝た」
カーテンの隙間から漏れる光と鳥のさえずりで目を覚ます。
1日経って昨日のことが嘘のように感じられるけど、全身の筋肉痛が全て現実だったと告げてくる。
こんなにぐっすりと寝つけたのはいつ以来だったかな……。
「さて……。ゲーム、じゃなくて出勤の準備するか」
頭を掻きながら着替えをもって部屋を出た。
髪の焦げた部分は不思議とその箇所だけ切断されているようで、不揃いな髪を掻く手は自然とその形を把握しようと頭全体を撫で始める。
おそらくはダンジョンから部屋に戻るときに、できる限りもとの状態に戻そうという修復機能が働いたのだろう。
ローグライクのゲームなんかだと、ダンジョンから出るだけでHPや状態が万全な状態に戻る仕様が多いから、このシステムを作った人もそれを採用した気がする。
こんなことができるなら常にリジェネ状態とか、もっとダンジョンでの戦闘の際に有利に働くシステムも欲しかったなぁ。
「――はー。気持ち良かった。そろそろ母さんも起きてくるだろうし、久々に一緒に飯でも……。って誰?この鏡に映ってるやつ」
シャワーを浴び終え、全裸のまま洗面所で歯を磨こうとすると、鏡にはいびつな形の髪型をしたなんとなく俺っぽい、でもちょっと若く見えて肌がつるっとしたどっちかといえばイケメンで処理されるレベルの男性が……。
そういえば見た目もレベルに応じて良くなるとか言ってたっけ、あの口悪アナウンス……。
「いや、顔が良くなるのは嬉しいんだけど……これもう俺じゃないじゃん。母さんたちに見せるのめっちゃ怖くなってきた……。やっぱり朝ごはんは別々で――」
「あら、お父さんもう起きてた、の?」
「……。えーと、おはよう母さん。今日は良い天気だね!」
「……。きゃああぁあぁああぁあ、ふ、ふ、不審者ぁあぁあぁぁあぁあぁぁあぁ!!」
いや、そうなるよね。
行きなり知らない人出てきたらさ。
さぁてどうする?俺だって証明するもの何もないぞ。
「お、おい、大丈夫かお母さん!」
父さんまで来ちゃったよ……。
久しぶりの一家集合が悲惨な事故現場になるだなんて誰が思っただろうか。
「あの、その、俺だよ母さん。彰」
「嘘よ! 私の知ってる彰はもっとブサイクで、ハキハキ喋れなくて、下っ腹は中年みたいになる手前で、声ももっと陰気で粘っこくて気持ち悪いのよ!」
「母親の息子への印象悪っ! いやそう言われるのは仕方ないし合ってるけど、気持ち悪いは流石に効きすぎるから! あーもう、俺が彰だって証拠があれば――」
「母さん、あれは彰だよ。間違いない」
「確かにどことなく似てるような気はするけれど……。でもお父さん――」
「あれを見てみろ。子供の時のままじゃないか」
父さんが俺の身体を指差した。
子供の時から変わらないなにかなんてあったっけ?
でもあるとしたら傷跡とかほくろとかかな?
俺の知らないことまで知っているのは流石父親――
「確かに可愛かった子供の時のままあれも可愛いままだわ」
「すっぽりひっそり隠れて……ああ、あれが俺たちの息子だよ母さん」
……。すっぽり? 隠れる? 可愛い?
「え? まさか2人揃ってこれ見て納得したの?」
「「うん」」
「どこに息子の息子が包茎で納得する両親がいるんだよっ!! ホッとしたけど、ゾッともしたわ!!」
「おお! そんな大きな声が出せるようにまで……。父さん嬉しいぞ。その勢いでそっちも顔を出してくれるといいのにな。なんて、あっはっはっはっはっ!」
「いやだわお父さ……あはははは!」
「あなたのお父さん最高、ね……おほほほほほ」
「ええい! やかましいわいっ! まったくどいつもこいつも……。……。……。……。ん? いやいやいやいやいや馴染み過ぎてツッコミ遅れたけど……1人知らない人いるんだけど! 俺知らない女の人に包茎笑われてるんですけど!」
いつの間にか母さんと父さんの間で笑い合っていた女性。
もしかしてだけど……この人が新しいサポーター?
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