3話 レッドスライム
「――ぺ、ぺぷぅおっ……」
「はぁはぁはぁ……。どうだおらぁ、ダメージさえなけりゃあお前らなんか怖くもなんともないんだよ」
スライムとの戦闘から約2時間。
二の腕がパンパンになるくらい拳を突き出して、ようやく最後の1匹を倒すことに成功。
何回殴ったか数えてはいないけど、大体40発から50発で1体ってとこで……全部で400発から500発。
もしこの調子で続けながら1日でノルマを達成しようって言うなら、あの有名な正拳突き以上のスピードが欲しくなるという……。
週3で出勤とはいえ、やっぱりノルマ500は異常だって。
レア個体ってのがどのくらいの頻度で出現するのかは分からないけど、それを探したほうが良さそうな気も――
『レベルが2に上がりました。ステータスが上昇しました。反映グレードが1になりました。それに伴い上昇するカテゴリーの選択が可能です』
「スライム10匹でレベルが1つ上昇か。案外レベルは上がりやすいのかもしれないな。これならくそみたいなノルマに悲観し過ぎることもないかも。ま、とにかく確認だよな」
『ステータス』
―――――
名前:高下彰
基本レベル:2
攻撃力:12
防御力:6
魔法威力:11
ユニークスキル:はぐれもの
通常スキル:絶対防御(物理)
魔法:なし
反映グレード:1
反映カテゴリー:未選択
―――――
「折角のレベルアップなのにしょっぺえぇ。あんまり攻撃上がらないし、スキルも魔法もなしかぁ。テンション上がらんなあ、これじゃあ。でも……」
反映グレードとかよくわからんのだけはちょっとわくわくするかも。
カテゴリー選択したいけど、とりあえずタップしてみればいいのかな?
『カテゴリー選択。この中から上昇させたいものを一つを選んでください。《容姿》、《知能》、《運動能力》、《会話》』
「え? なにこれ? もしかしてだけどこれダンジョン内でいじれるの? ……。そんでもって反映グレードで上がったものをダンジョン外でもってこと? えーっ! めちゃくちゃ悩むじゃんこんなの! 全部上げたいわ!」
『《はぐれもの》が発動しました。ダンジョンのルールが適用されないため、全て選択可能に変更されました。現在記載のカテゴリー全てが基本レベルに応じて上昇されます。ちなみに反映グレードは1上昇で10パーセントの反映になり10が最大になります。ただしスキル主は元々全てが低すぎていくら基本レベルを上げてもしれているため、グレードの上限を20にまで拡張しました』
「なんか棘のある言い方なのはなんなの? 運動だけは悪くないつもりなんだけどなぁ」
『ふっ……』
「おま、また……。ま、まあいいや、全部上がるんならそれに越したことはないし……。それよりレベルアップでこのコミュ力の低さが解消されるとか嬉しすぎ――」
『それより顔でしょ』
「……。おま、俺、そろそろ俺動くよ! 運営さん! クレームの電話はどこにかければいいんですか?」
『おもろ……。あ、《はぐれもの》の効果を受けられる項目がまだあります。必要経験値低減、基本レベル上限解放、レアモンスターとの出現率1段階アップ、ドロップ率1段階アップ、ステータスの伸び率1段階アップ。これらを実行します。……。完了しました。ステータスの確認をお願いします』
「あ、って仕事しなさいよあんたは、もう。まぁ愛嬌ってことでいいか。正直今まで人と話さな過ぎて、ツッコミを入れるのが気持ちよかったりするし。そんじゃもっかいステータ――」
「べぼ」
ステータスを確認する前に聞き覚えがあるような、ないような鳴き声が。
これ早速、《はぐれもの》の効果きたんじゃな――
「べぼ」
「べぼぁ」
「べぼぶ」
「べぼが」
「べぼべぼ」
「……。効果発揮し過ぎなんだけど。5匹……。ぐ、へへへへ……。もうノルマ達成とか涎が……。よっしゃ! 早速ぶん殴ってやるよ!」
今週は適当に2回侵入でノルマ達成。
でももし、多く拾った魔石が翌週まで持ち越せるなら、頑張りたいような……。
ってもう俺この会社出働いてくこと前提で進めちゃってるよ。
「まいっか。こんなに簡単にノルマ達成できるならどれだけブラックでもwhiteに塗り替えられ――」
「べぼっ!」
――ぼわっ!
……。あれ? こいつ、レッドスライムが火を吹いたんだけど。髪の先が焦げたんだけど。
《絶対防御》が働いてない? あはは、そんな馬鹿なぁ!
「べぼっ!」
「べぼあっ!」
――ぼわっ! ぼわっ!
「あはははっ! やっばぁい! 全然まあったく、《絶対防御》機能してないや! ……。おいおいおいおいどうなってんだよアナウンス!」
『ふ、ふふ……。《絶対防御》は働いてますよ。でもそれ、ふふ、物理のみですから……。ふふっ』
「わ、笑ってないで魔法、魔法の《絶対防御》も頼むってえ!」
『残念ながら防御に関してはクールタイムがないとですね……』
「なんだよ! ルールに縛られないスキルじゃないのかよ! ヤバいって、お気に入りのTシャツが……折角勇気出して買いに行った退●忍Tシャツが燃え、燃え……」
『そのTシャツ着てる人も大概へんた――。……スキルの仕様上干渉できるのはダンジョンシステムのルールのみで、《はぐれもの》の存在自体がそのルールの範疇から外れてしまったのでデメリットを消すことはできないです。ですので、この状況を打開したいのであれば防御以外の項目でスキルを追加されるのがいいと思います』
「他の項目……。でもそんなに簡単に言われても追加の方法が分からな――。あっ! そこならいける!」
火を噴くレッドスライムが1匹攻撃の射程距離に入った。
ずっと遠くから攻撃してればいいものを……やっぱモンスターは馬鹿だ!
「喰らえ! これが俺の全力だあっ!! ……あいってぇえええぇぇえぇぇえぇ!!」
『《絶対防御》があるとはいえ、自分から攻撃をした際の反動やダメージを無効できるわけではありません。自分より硬いもの、今回でいえばレッドスライムを殴れば当然痛いですよ。レッドスライムはああ見えて鉄以上の硬度なんですよ』
「先言ってよ! そういうのは! くそぉ……。あれを突破する攻撃力……。できれば一撃必殺の最強スキルをくれよ!」
『《はぐれもの》の効果が発動されました。無条件で攻撃スキル《破壊の化身》を取得しました。これで攻撃の項目もクールタイムが必要になりました』
「なんか凄そうな名前のスキルきたあっ!! これでお前らの装甲をバッリバリのガッタガタにしてやるよ!」
レッドスライムの火が身体を掠めるのはもう無視!
きっと2、3回その身体を殴ってやれば俺の勝ちだろ!
「よっしゃ、喰らえ! これが俺の新スキル、《破壊の化身》だ――」
――パンッ!
……。2、3回どころじゃありませんでした。ワンパンです。多分二●の極み超えました。
レッドスライムもビビってるけど、俺が一番ビビってます。
「えっと……。すまん、これ形勢逆転だわ。いや、謝っても言葉分かんないか。例え分かってても……そんなにビビってちゃ、聞く暇もなさそう。いやぁ、あはは。一気に弱いもの虐めみたいになっちまったよ」
動きを止め、震えるレッドスライムを順番に攻撃。
レッドスライムたちは真っ赤な魔石をその場にドロップさせて、粉々になった肉片は地面に帰るようにして消えていった。
ノルマ達成。
いや、もう急に楽しくなってきたな。
あ、またレッドスライム……なんならあと5匹くらいやっちゃおうか――
『レベルが30になりました。スキルを複数、基本となる初級魔法を3つ覚えました。反映グレードが10に到達しました』
レッドスライムの元々の経験値が高かったのか、それともレベルが上がりやすい状況だからなのか……。
これあっという間に最強になれるんじゃないか、俺。
「ふふふ……。辞めたいってマジで思ってたけど、全部撤回。あの美杉とかいう、名前の割に下品なおじさんをあっと言わせて……初のカースト上位の人間になってやるぜ! 待ってろよ、俺のリア充ライフ!」
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