2話 意地悪アナウンス
「まずダンジョンの1階層、つまりこの階層にはモンスターはいません。セーフティエリアです。2階層からモンスターが現れて10階層おきにボスがいます」
「よくあるローグライク系みたいな感じか……」
「はい。でも死んだら本当に死にます。ダンジョン内で死んでも会社で責任は負いませんからご注意ください。ちなみに怪我をしても労災はおりません。あ、あとダンジョンでは移動のスクロールが使えるんですけど、これは自費で1つ2万円になってます。高いって思うかもしれませんが、緊急を要する際の時のことを考えて購入しておくといいと思います。ほらあの辺りを見てください。いくつか露店が出てますよね? 基本的なものはあそこで全部揃うので利用してください。引き出しの2番目から会社に移動できるので、社内にある売店なんかも使えますが、それだといちいち面倒でしょ? だからそっちの露店が――」
「待って待って待って待って! さらっと流したけど、スクロール2万円!? ぼったくりじゃん! そんなの常にストックしてたら給料なんてあっという間じゃん!」
「まぁ死ぬよりはいいでしょ?」
「人によっては死ぬよ! 飯が食えなくて!」
「でも強制じゃないので、どうしてもって場合は2階層とか直ぐ帰れる場所コツコツ頑張れば大丈夫ですよ。実際そういう奴……人もいますから」
「めっちゃ虐げられてる……。そういう人たち馬鹿にされてるんじゃん……」
「そんなことないですよ! 全員大事なだーいじな社員さんです! ただ、高下さんのもとには明日から別の人が来ますけど……」
「馬鹿にされる最有力候補じゃん、俺……」
「そんなことないですって! はははっ! それじゃあ実際にモンスターと対面と行きましょうか! 今日は初日なので2階層以降の侵入に料金は会社負担です」
「え、料金……」
「1侵入5000円です。まぁ残業代が月々45時間分出せますので、案外働いていると安く感じてくると思いますよ。あ、そうだ、どうしてもダンジョンから戻れない場合等で残業がかさんでしまうことがあると思うのですが……。安心してください、この稼業に関してはサービス残業を国が黙認していますから」
「……それ、申告制の意味なくない?」
「申告忘れで残業代を支払わなくて済む場合とか、客引きにいいとかそういう――。ま、まぁこれについてはそもそも残業なんてしないように調整して仕事をすればいいだけなので。それにノルマさえ達成してしまえば、早々に帰宅しても構わないんですよ!」
「ノルマ……。なんかこの会社くそヤバい気がしてき――」
「うちはアットホームで社員のためを思う優しい会社です!」
「それヤバい会社のテンプレなんですけど……」
「そ、そんなことよりほら、あれ入口ですよ! すみませーん! 侵入2人で!」
「そんな生2つみたいなテンションで……」
パンイチの変態おじさんが入口、もとい料金所で1万円を手渡した。
マジで侵入5000円か。
年末年始でおせち買わせたり、年賀状買わされたり、もし、その料金所と会社がずぶずぶな関係だとしたらそんなのより遙かにヤバいんだが……。
「明日行くの止めちゃおっかな」
「じゃあ早速行きますよ! ダンジョン! ワクワクですね!」
「ワクワク、だったんだけどなぁ」
無理矢理テンションを上げる変態おじさんこと美杉は俺の反応を見て、また俺との距離を詰める。
抱きかかえられるのはもうこりごりなんだが、加齢臭きついんだが……。
「もう行くから! 大丈夫! ほらもう元気いっぱい! ワクワクが押し寄せ過ぎて大変だから!」
俺はそう言って逃げるようダンジョンへの侵入を始めた。
◇
「この階層にいるのは魔石のドロップ数1のスライム、ベビーグレムリン、ドロップ数2でジャンクゴーレム、スマイルロック。レア個体でレッドスライムがいて、これに関しては魔石の質が特殊で、それは100個分の価値ですね」
「つまり、俺たちの目の前にいるこいつらは全員安いってことか」
「残念ながら」
「ちなみにノルマってどんなもんなの?」
「高下さんはまだ入ったばかりなので週に500個、500個分ですね。大丈夫ですよ、ノルマを達成できなくてもその分ボーナスとか基本給が減るだけなので」
「減るだけなので……じゃないって! 基本給まで減らすとか頭おかし――」
「あ! スライムがこっちに気づきましたよ! しっかり見守っているので頑張ってください!」
「え? おい! おま、戦ってくれないのかよ!」
「残念ながらサポーターはステータスの取得ができなくて……つまりダンジョンにおいて私たちは雑魚! あ、でもお金を払ってもらえば5個までならスクロールをお渡しできま――」
「こんの守銭奴が!!」
2階層に侵入してすぐ10匹のスライムに囲まれた。
《はぐれもの》ってスキルがどんなものかもわからないってのにこの数はヤバすぎる。
それに最悪助けてもらおうって思ってたのに……。美杉の野郎!!
「や、やるしかねえ!!」
「ファイトです! ってあれ? もう定時だ……。階段は直ぐ側ですし、スライムならステータス取得者であればそうそう死ぬことはないですし……。お疲れさまでした! 質問があれば明日くる高下さん専属のサポーターに聞いてください! でわでわ!」
「え? もっといろいろ教えてくれんじゃないの? ……こんの人殺しがっぁああああぁああぁああ!!」
定時帰宅する美杉。
襲いかかるスライムたち。
こうなりゃもうやけだ! RPGならスライムなんて雑魚中の雑魚! 新米でもどうにかなるだろ!
「うりゃあっ!」
「ふっ……」
え? 今スライムに鼻で笑われたんですけど。
俺もしかして、スキルだけじゃなくてステータス値も最低だったりする?
「くそ! くそくそくそ! やめろこっちくんな! そんでもってあきらめるな俺! やれるやれるやれる、できるできるできる、お米食べろ!」
「ぺふ」
「ひんぎゅあぁぅうあぁあっ!!」
振り回した拳がスライムに何度もヒット。
なんとなく戦闘っぽくなってきたかと思ったところにスライムの攻撃も俺の身体にヒットしたのだが……なんだよこれ、ちょっと小突かれただけなのにめちゃくちゃ痛いんだが!
「防御力が低すぎるせい、か? 初手からハードモードが過ぎるだろこれ……。攻撃力はまだしも守りくらいは最低限というか、チュートリアルによくありがちな絶対に死なないボーダーにしてくれよ! それかスキル! 絶対防御! みたいな最強のやつプリーズ!」
『――《はぐれもの》の効果解放条件、真のはぐれものになるを満たしたため、ダンジョンのルールから解放、もとい外されました。無条件でS級スキル《絶対防御》を取得しました』
頭にアナウンス……これが漫画とかアニメによくある例の……。
ってそれより、S級スキル? それって絶対チートスキルじゃん! でも……
「真のはぐれもの? はは、俺が? いやいやいやいや、俺だって友達の一人くらい……いないけど。奇跡的に就職できたところでも仕事もらえなくて社内ニートだったけど、学生時代話し掛けられた人数5人だけど、それはないって……。な、いよな?」
『――あります。間違いなく。……ふふ』
「なんでアナウンスが鼻で笑うんだよ! whyジャパンダンジョン! オカシイダロォオッ!!」
「ぺぷっ!!」
「おいスライム……。残念ながらなぁ。そんな攻撃もう効かねぇんだよ。だからさぁ……八つ当たりさせてもらうから。俺さぁ、攻撃力もめちゃくちゃ低いらしいから何回も何回も殴る事になるだろうけど、最後まで付き合ってくれるよなぁ」
「ぺ、ぷ……」
「うらあっ!! はぐれものを舐めんなぁぁああぁああ!! 人間様の世界なら奴隷が皇帝を殺すことだってできるんだよぉお!!」
お読みいただきありがとうございます。
モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。