12話 最悪【美杉視点】
「ぐがぁ……」
「た、助けて……」
「あいつ、モンスターのくせに……。ボスともなると知能も高くなるんですか?」
「はい。通常階層にいるモンスターとの一番の差はそこ。場合によっては罠を張っていたり、自害して相手にドロップや経験値付与を許さず、次の個体に賭けるなんてこともあるんです」
「ちっ。無駄に厄介な……。でも……。《タイムド――》」
「待ってください。ここは私が何とかします。」
「突然どうしたんですか? 今まで全くそんな素振り見せなかったですよね?」
「相手との距離はそこまで離れていない。薄刃さんのスピードと今掛かっているバフなら相手が人質に手を出す前にどうにかできるはず。それは自身も分かっている。それなのに、わざわざ別のスキルを使おうとするということは……。薄刃さん、かなり無理してましたね?」
「……。ちょっと疲れただけです。初めてですから、ダンジョンというものは」
「そうです。薄刃さんは今日初めてのダンジョン。疲れて当たり前なんです。だから、ここは私に任せてください。なに、今まで集めた魔石の数を鑑みれば、今から私の使う魔石分の金額なんて大したことないですよ」
「お金の心配がなくなったのは何となく察してた。そんなことより、誰かに頼るというのに抵抗が――」
「そんな意地を張って他の人が死んではその人もたまったものじゃないですよ。いいからここは私に任せてください」
「……」
薄刃の肩を軽く叩いて、タッチ交代の合図を知らせることに成功。
これで条件を1つ達成。
どれだけ強かろうが所詮は人。ちょっと痛いところを突いてやれば触れることなんて簡単簡単。
ふふ。さて、融合の魔石は相手に触れることで行使できるタイプの魔石。
コボルトウォーリアと薄刃をこれで融合させて、それを俺が助けてやるっていうやっすいストーリーを始めるか。
融合の魔石はあくまで身体を融合させるだけのもの。
精神は精神、スキルは共に戦闘力の高い方に準拠し、その命、ダメージはレベルの低い方が受け持つ。
つまり死亡した場合コボルトウォーリアの命と身体だけが失くなり、薄刃は生き残る。
まぁデスペナルティとしてレベルは下がるが……。
とにかく、これを使って何も知らない薄刃を一度絶望の淵に立たせて分からせてやろうじゃないか。
勿論融合の原因はコボルトウォーリアのスキルってことにして……。
それを解除できる特別な魔石を俺だけが持っていたとか嘘ついて、殺してあげて……。
「薄刃さん。私があの女性を助けたのを確認出来たらゆっくりボスの相手をお願いします」
「いいから早くしてください。あの人、苦しそうじゃないですか」
念のため薄刃に邪魔をされないように言葉を掛ける。
鬱陶しそうな態度を見せられるたが、それも今回で終わりだからな。
それにしてもあの女性……。
どこか見覚えがあると思っていたら、上層の女王、というたいそうな呼び名とは裏腹に全プレイヤー中最低の戦闘力と呼び声の高い、ギャル社員の姉山か。
気だるげで、ボスなんかに挑むような人間性は持ち合わせていないと思ったが……なにか心境の変化でもあったか?
最近はギャルメイクさえもしていなかったって聞いていたが……今日はばっちりだな。
……。そんなのはいいか。助けようだなんて実際は思ってもいないからな。
一気に間合いを詰めて……あいつに触れてしまうだけで目的は達成だ。
「――う、が……」
「ステータスを持っていないのに……やっぱり凄い」
全力で駆けた。ただそれだけ。それだけだが、周りの時間が止まったかのように感じた。
多少運動には自信があったが、まさかここまでコボルトウォーリアが反応できないなんて。
「よし! 触れたぞ! あとは魔石を使うだけ。融合の魔石《ダイナミックフュージョ――》」
「《ドレスアップ》! これで、私もあなたと同じ! ここから引っ張り出して!」
俺に意識を奪われたのか、コボルトウォーリアはその手の力を緩めた。
すると、その隙をついて姉山がコボルトウォーリアの腕から半身乗り出して俺に触れてしまった。
融合の魔石の発動はもう止められない。
しまった。これじゃあ、これじゃあ……命を請け負うのは姉山。
状況を説明したところで……薄刃はきっと姉山のことを思って俺に殺されることはしない。
それどころかそのスキルを駆使して俺の攻撃を全力で阻止、場合によっては嫌悪感を抱かれている俺は……殺されるかもしれない。
「……最悪、だ」
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