11話 クールに陰り【美杉視点】
「りょうと上手い事やってるのは驚いたが、変な髪形になっていてへなちょこ加減に拍車を掛けて……あははっ! 思い出すだけで笑いが込み上げてくる!」
「……。笑っていないで、ドロップした魔石を拾ってください。今日中は付き合ってくれるんですよね?」
「はい! あ、勿論定時までですけど。残業は構いませんけど、あまり深いところにはいかないでくださいよ。もしもの場合の魔石が使えないわけですから――」
「別に今だって使う気ないですよね?」
「それは……」
「まぁいいです。そんなことより次の階層はボスですから邪魔にならないように部屋の隅にでもいてください」
「邪魔って……。分かりました」
……新しい社員でプレイヤーの薄刃葵。
こんな当たりのプレイヤーは初めてと思うくらいに強い。
だけど、この性格だけはどうしても受け付けない。
さっさと10階層のボスのドロップ品を手にしてもらって荷物持ちの役目から離れたいところだ。
そもそもA級の俺が連日わざわざダンジョンに潜ってやるなんて幸運なことだってわからせやりたいんだが。
今他のプレイヤーに使ってる監視の魔石と出勤を促したり口封じするための催眠の魔石、攻撃系の各属性魔石たち。それにまだ使ったことはないが、この魔石……使ってみるか?
「進みます。一応美杉さんにもバフを掛けておきますね。《時間高速移動》」
「おお……。これはこれは……」
薄刃のユニークスキル《タイムバッファー》。
長年この会社に勤めているが、ここまで強力なものが存在することには驚かされたものだ。
なぜなら他よりもこの決められた時間の中早く移動できる《時間高速移動》を含め、時間に関するバフをほぼ行使できるなんていう性能で、あのS級スキル《タイムドア》まで使えるっていうんだから。
あれを使った薄刃のレベルは初日で既に45。
35レベル相当の10階層ボスなんぞ、ただ単純殴り合ってでも勝てる。
もちろん俺の魔石を使ってもレベル60くらいまでのボスであれば簡単に倒せるが。
「それだけのレベル差があればこの魔石を使っても問題はない、か。それにこのバフを掛けてもらっている状態なら、魔石の使用条件も簡単に満たせそうだ……」
「なにをぼそぼそと……。……。いいや、めんどい」
相変わらず冷たい態度で進む薄刃。
これは……その顔が引き攣り、俺に助けを乞う姿が今から楽しみで仕方ないな。
「――きゃああああああああああああああああああああああああああっ!」
「声?」
「誰かがこの先でボスと戦っているのでしょう。相手はコボルトウォーリア。巨体に似合わない手先の器用さで、武器を使って戦ってくる相手ではありますが、この階層まできてあれに勝てないようなプレイヤーということは、ノルマに追われて一か八かボスに挑戦、というような落ちこぼれでしょう。正直なところしんで当然というか、よくここまで生き残っていたと称えるべきか……」
「……急ぎます」
「……」
多少ではあるが、初めて焦りを感じている。
クールで冷酷だと思っていたが、しょせんは新入社員ということか。
同じ人間の死に直面していないプレイヤーは、他人であっても助けようと偽善を振る舞う。
いつもならば、窮地に立たされるかもしれないというリスクを背負ってまでそんな行動を起こすその姿は反吐が出るのだが……。
「今回ばかりはその行動、思考がいい味つけになってくれそうだ。ふふ、さぁて新しい魔石、融合の魔石を使ってみようじゃないか。ふふ、あははは……。おっと、ここで笑ってはいかんな。だが……ふふ、楽しみで仕方がない」
俺は薄刃から少し距離を置いて、そして、口元を隠しながらなんとか笑いを堪え10階層のボスコボルトウォーリアと、既視感のある女性プレイヤーの目の前に立ったのだった。
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