EP 68
「兄さん。今日は私の息子ジェインの結婚祝いに来てくれて、ありがとう」
ジェインの父ハリーが、頭を下げる。そして、それを機に、料理が運ばれてきた。渋々、フレディはナフキンを広げた。
「まんまと騙されたよ。ようやくジェインが離婚を決めて、新しい婚約者候補のお披露目となったのだと思ったのに」
少し落ち着きを取り戻したフレディが、ぎろっと壱花を睨みつけた。
けれど、壱花は真面目な顔を崩さない。その顔は緊張しているようにも見えるし、強い決意を宿しているようにも見える。
「兄さん、壱花さんは素晴らしいお嫁さんだよ。私としてはこのまま婚姻を続けて、ジェインと壱花さんには幸せになって欲しいと考えているよ」
ハリーが言うと、はっと笑ってフレディが両手をテーブルの上に置いた。トントンと指でテーブルを叩く。前菜は無視して、フォークをつけなかった。
「こんな茶番までやりおって! ハリー、おまえの家族はグルになって、私に恥をかかせようとしているのかっ」
「フレディ、落ち着いてちょうだい。あなたに恥をかかせるだなんて、そうではないわ。ただ、ジェインの結婚のお祝いをしたいだけよ」
舞が、微笑みを崩さず、言った。
「そして、フレディ。あなたにももちろん祝福してもらいたいの」
「…………」
それには黙ってしまった。手持ち無沙汰になってしまったのか、手元に置いてあるワイングラスを取り、見事に飲み干した。
「フレディ伯父さん、俺は壱花さんと結婚できてラッキーだったと思っています」
フレディが押し黙ったのを機に、ジェインが話し出す。
「伯父さん、俺、今ね。彼女と一緒に住んでいるんです。もちろん結婚して夫婦になったから、それが当たり前なのかもしれないけど、毎日が新鮮で楽しくて、仕事もはかどってる」
「なにを言ってる。そんなことはその女と結婚しなくとも別に」
「それは違います。壱花のために、仕事を頑張れるんです」
「はは。どうでもいい話だな」
「どうでも良くはないですよ。なぜなら、それが愛の本質だからです。俺の仕事の原動力なんです」
フレディは注がれたワインを再度口にする。
「恋とか愛とかは、それこそどうでもいい! マルリッジ商会の創始者に孫娘が一人いる。その娘を紹介してやるから、今度会ってみろ。彼女は性格も良いし、有名なバイオリン奏者でもある。才能も素晴らしいし、人格者だという噂もある。ジェイン、今からでも遅くない。そのマルリッジの娘と結婚しろ」




