EP 63
あの夜。酷く怒り狂ったジェインをおぼろげに覚えている。気を失ったように弥一の腕の中にいたが、言い争いは嵐のようだった。
(私がしっかりしなければ……ジェインさんを傷つけてしまう)
これからもたくさん、ジェインの伯父率いる親戚と、そしてジェイン狙いの煌びやかで優秀な女性たちと対峙しなければならないだろう。
強くならなきゃいけない。いつまでも、へしょげてしまっていてはいけない。
レイラの家に滞在中は、壱花はこれまでのジェインとの想い出を手繰ってみたりもした。そこにはいつも、柔らかく笑うジェインがいて。そして、その視線の先にはいつも、自分。
洋服をばばばっと脱いで、浴槽へと身を沈めた。温かい湯が身体中に沁み入り、心もほぐれていく。気持ちがいいし、幸せな気分になる。そしてその幸せを、共有したいと思うのは、ジェインただ一人。
風呂場のドアを少し開けると、開けっ放しの洗面所の外から、ジェインの独り言が聞こえてきた。
「夜ごはんは準備よし! ビールよし! お酒は……飲むかな。いや別に飲まなくてもいい。そうだ! お茶! お茶買ったんだった!」
ガサゴソという音がしたかと思うと、ガタンッと大きな音がした。
「痛あああぁ! なんでこんなところにこんなでかいペットボトルがあるの!」
笑えてきてしまった。イケメンで背が高く、優秀で頭も良い、そして何よりCEOで御曹司、それなのにドジっ子なところもあって、子イヌのようにキャンキャン言うし、ウジウジして可愛いところもあって。
(私しか知らないジェインさん)
嬉しさがじわる。心から、大好きなのだ。
「ジェインさーん」
呼ぶと、ナニナニナニナニ? と飛んでくる。
開けっ放しのドアから洗面所に入ると、お風呂場のドアまで開いていて、「うおっっ」と仰け反った。
「どどどどうしたの、壱花ちゃん? お湯が熱すぎた? シャンプーが切れてるの?」
湯気が漂っているからか、頬が紅潮している。
「ううん、違、そうじゃないんですけど……いいい一緒に、お風呂入りませんか?」
時間が止まった。いや、正確には壱花のその言葉は、ジェインの息の根を止めた。
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