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EP 61

もう二人は言葉を発しなかった。

「そんなジェインさんの頼みだし、もし上手くいかなくなってバツがついたとしても別にいいって思うし、それに」

息を整えた。

「どんな形であろうとも、私がジェインさんの側に居たいなって思ったから」

壱花は頭を下げた。

「だから、離婚はしません。杏さん、ジェインさんが私が良いと言ってくれる限り、ジェインさんは渡しません」

そう言い切って、壱花はカフェオレのカップに手を伸ばした。その指がぷるぷると小刻みに震えている。けれど、瞳は真っ直ぐだった。

「やっちゃん、やっちゃんはすごく真面目で真っ直ぐな人だから、大学の時もたくさん友達がいて、素敵な人だなってとても眩しかったんだ。あの頃、陰キャな私なんかと付き合ってくれてすごく嬉しかったし、幸せだった。その時はね、そう思ってたんだ。でも、ジェインさんは違うの。私なんかがって言うと、いつも悲しい顔をしてくれる。自分は、『たかが壱花』だなんてこれっぽっちも思っていない、壱花が『壱花』だから一緒にいるんだよって」

震える指でカップに口をつける。ごくっと一口飲むと、壱花はにこっと笑って言った。

「だから契約結婚、上等です!」

そして、二人とは別れて、壱花は帰っていく。

杏と二人並んで、壱花を見送る。その後ろ姿を。

「あーあ。帰っちゃいましたね」

隣で杏が呟いた。

「……そうだな」

弥一はどんよりした雰囲気を明るくしようと、声を張った。

「それにしても、杏は俺が壱花の元カレだって知ってて近づいたわけ?」

「まあそういうことになりますね。ジェインの伯父さまからある程度の情報はいただいていましたから」

「女スパイか! じゃあ杏はずっとジェインさんを?」

沈黙。

「結構一途なんだ。自由恋愛主義なんて言ってたから、そうは見えなかったけど」

「ふふ、鎧を脱いじゃえば、こんなもんですよ」

「……苦しいな。お互いに」

「私は別に……」

「怖えな、恋愛って。こうも簡単に人を変えちまう」

「……そうですね」

弥一がポケットに両手を入れた。中で紙がガサッと音を立てた。そう、入っているのは昔、壱花に描いてもらった自分の似顔絵。

「いつまでも大事にしてたってダメなもんはダメなんだ……もういい加減、捨てなきゃな」

「何言ってんですか、捨てられたくせに」

その言葉に、ははと力なく笑う。

「……でも壱花、変わったよ。すごく強くなった」

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