EP 6
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「壱花ちゃん、寒くない?」
壱花の隣の座席に座ったジェインが、何度も訊く。ロンドンへと向かう飛行機の中、ビジネスクラス。高度が高くなるほどに、窓際からひんやりとした空気が流れてき始めた。壱花が風邪でも引いたら大変だということで、冒頭に戻る。
ブランケットと枕はもうゲットしていて、これ以上の快適などはないと言えるほどの、心地よい環境。けれど、壱花を可愛がりたいジェインは我慢できずに他にも、頭痛くない? から始まって、耳キーンってしない? お腹は痛くない? 喉かわいてない? 何かジュースもらう? など、とにかく壱花のお世話を焼いてしまう。
「ジェインさん。私、飛行機なんて今までに一度も乗ったことがありません」と、生まれて初めて取得したパスポートを握り締めながら、ぷるぷると青ざめて立っている。
空港で笑ってしまった。
「もう離陸ですか? あっ、もう飛ぶんですか! えっシートベルトはOK、うっわ浮いたあぁ揺れてます! 揺れてる!」
笑いを噛み締めながらも、そんな壱花を落ち着かせようと、手を握った。すると、やはり不安なのだろうか、両手でぎゅうっと握り返してくる。
そんな壱花の左手の薬指には、ダイヤのついたリング。結婚したい人がいると横浜に住んでいる母親に報告すると、すぐさま郵便で送ってきた母親の婚約指輪だ。それも普通の封筒に入れ、普通郵便で。
「母さん! いくらなんでも日本の郵便システム、信用しすぎ!」
一文送ると『大丈夫よジェイン! ちゃんと割れ物注意ってな感じで、わざわざ緩衝材にも包んだんだから! 結婚おめでとう!祝』とLINEを返してきた。
言いたいことはそこじゃないが、まあ結果オーライか。
そんな指輪が今、壱花の指にはまっている。そう思うと、ニヤニヤが止まらないのだ。
「壱花ちゃん、本当は抱っこしててあげたいけど、このシートベルトが邪魔なんだよなあ。こいつめ!」
「ジェインさん、腕につかまってても良いですか?」
「いいよいいよ全然いいよ! 俺の壱花は、初めての飛行機だからとても怖いんだね。なんならキスでもしててあげようか? そうすれば、あっという間にイギリスだよ」