EP 58
そしてさらに数時間、どうしようもないくらい長い時間を待った。
「迎えに行こう」
心を決め、ソファから立ち上がり、カバンを持つ。スマホとサイフ、家のカギを入れ肩にかけると、玄関へと向かう。ドアを開けると、そこに壱花が立っていて、驚いてしまった。
「壱花ちゃんっ!!」
肩から滑り落ちたカバンもカギも全て床に落ちた。けれどそんなことは意に介せずに、ジェインは壱花を抱き締めた。
「壱花ちゃん、帰ってきてくれたんだね」
そっと首筋にキスしながら身体を離すと、壱花の顔を見つめながら、額にもキスをする。そして髪に、頬に、唇に。
途端に。
身体の底からマグマが盛り上がってくるような、熱いものを感じた。嬉しさとも違う、熱情のようなものがせり上がってくる。その熱に後押しされるまま、両腕でぎゅっと抱き寄せ、そして。
「壱花、愛してるよ。こんなにも愛してるのは、壱花しかいないんだ。どこへも行かないでくれ。お願いだから、俺の側にいて欲しい」
壱花の頭の上から、誠心誠意そう伝えた。
そして、思い出したように、苦笑いで言った。
「おかえり、壱花」
壱花もそろっと両腕をジェインの背中に回すと、「ただいま帰りました」
その力加減に、ジェインはほっと胸を撫で下ろし、そして壱花を促し、家へと入った。
✳︎
駅へと向かって歩いていく壱花の姿を、弥一はずっと見つめていた。
「あーあ。帰っちゃいましたね」
隣で杏が呟いた。
「ああ。そうだな」
ふうっと息をついた。
『やっちゃん、ちょっと話せるかな』
LINEで連絡が来たのは、日曜日のお昼。修羅場となったあの夜から何度もLINEは送っていたし、電話も数回掛けた。けれど、既読にもならず、そして電話にも出なかった。ジェインの姉の家にいるとわかっていたので、こちらの分が悪いということもわかっていた。
LINEでは、よりが戻せないか、離婚するなら俺が支えるから、そんなようなことを送っていた。
後から読んでみれば暴走気味だとわかるが、説得に必死だった。
(会って話したい。壱花に会いたい、会いたい……)
そこに壱花からのLINE。心が踊った。けれど、気になることが書いてある。
『できれば杏さんも一緒に会いたいんだけど、やっちゃん連絡って取れるかな?』
『わかった』
そう返信したはいいが、ということは、ジェインも交えて4人での話し合いだと思い込んでいた。
けれど。
壱花は1人でやってきた。
個室のあるカフェ。カフェオレを注文した。
「壱花、カフェオレ好きだったもんな」
「ふふ。いつも同じの頼んじゃってる」




