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EP 57

真意はわからないが、壱花のことを、諦めていないのはわかる。

杏に焚きつけられたとしても、あの夜、弥一は完全に冷静さを失っていた。けれど、それは自分もだ。怒りで我を忘れて、騒ぎ立ててしまった。それも自分の会社の前で。

それでも。諦めるわけにはいかない。

ジェインは立ち上がり、寝室へと向かった。壁に掛けてある、似顔絵のイラストの前に立つ。それは壱花に描いてもらったものだ。ステンドグラスから零れ落ちた陽の光を浴びている、ジェインの横顔、そして立ち姿。

それを額から取り外し、リビングへと戻った。

ソファに座り、作品をまじまじと改めて見る。壱花からこの作品を貰った時、自分への愛情が込められていると感じた。

「……きっと帰ってきてくれる。だから、俺は諦めない」

レイラからも壱花からもまだ連絡はない。

ジェインはそのイラストを大事にファイルにしまい、仕事用のカバンへと入れた。そして、スマホを取り出し、ある宛先へと一本の電話を掛けた。

✳︎

壱花が家を出たとレイラより連絡があってから、すでに数時間が経過している。

(壱花ちゃん、どこかに寄っているのかな)

うろうろと部屋を徘徊する。壱花がいつ戻っても良いように、部屋の片付けも終わっているし、食事の下準備も整えてある。

(まさか……まさか和田くんのところじゃないだろうな)

胸が潰されそうに痛んだ。

うろうろするのをやめ、ソファに座り、テレビのリモコンをONにする。ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるバラエティ番組がやっていて、すぐにまた電源を切った。リモコンをソファの上に投げる。そのまま背もたれに頭を乗せて天を仰ぐと、すぐにも壱花の笑顔が蘇ってきた。

(壱花ちゃんと、永遠に一緒にいたい)

あの控えめな笑顔。と思いきや、ころっと変わる向日葵のような満面の笑み。大口を開けて、ごはんを美味しそうにぱくぱくと食べて。赤の他人のおばあさんや赤ちゃん連れの母親の荷物を持ってあげたり、その優しさに心を打たれて惹かれていった。

仕事を頑張ろうとするその姿勢。真っ直ぐで、どこまでも真っ直ぐで。純粋で素直で善良なひと。

(壱花ちゃんと……ずっと一緒にいたい)

ジェインは左手を顔の前へとかざした。薬指には結婚指輪。漠然と、それなりの人がいたら結婚するとは思っていたが、ここまで心から欲した結婚に出会うことができるとは思ってもみなかった。

失ったらどうなるのだろう?

そこまで考えると、もうダメだった。

恐ろしいくらい、考えがまとまらない。壱花と紡いでいく未来は容易に想像できるのに、壱花のいない自分の未来は、黒のマジックでぐちゃぐちゃに塗りつぶされているように思えて苦しくなる。息が上手くできないくらいに。

「……帰ってきて欲しい」

俺の元へ。眉を寄せ、目をぎゅっと瞑った。

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