EP 55
「ジェインが振り回しているね。杏ちゃんの恋心については、これは誰も悪くないっていうか、仕方ないとは思うけど。あの子、本当に小さい頃からジェインのこと、好きでね。私も側にいて、それはわかってて、ジェインも薄々は知ってたんだけど、避けて通ってきたからさ。それで今こんなことになっちゃってて」
「……はい」
「あの子、弥一くん? あの子も必死だったね。なんかうまくいかないもんねぇ」
野菜炒めをひとくち口に入れた。シャリシャリと野菜をはむと、じゅわと甘味が口の中に溢れた。
「美味しいです」
「でもね、まあ私はジェインの姉だから、ジェインの味方しちゃうけど」
箸を茶碗に置いた。レイラの話を真っ直ぐに聞かなくてはいけない気がして、背筋を伸ばした。
「あの子、そうは見えないかもしれないけど、家族や温かい家庭ってやつに、並々ならぬ憧れを持っていてね。うちって、母親のシングルみたいなもんだったからね」
「お母さんは日本で、お父さんはイギリスでと聞いてます」
「愛し合ってるのにだよ? だから好きな人とは一緒にいたいと思っていると思うし、たぶん絵に描いたような家庭を欲しているんだろうね」
「寂しかったんですね」
「ね! そりゃ学校の運動会も母親ひとりだし、もっとお父さんとも色々と話したかったんだと思うよ」
ほら食べな食べな冷めちゃうじゃない! とレイラが言うので、再度箸を取る。
「杏ちゃんとはなにもなかったと思うよ」
「はい」
「壱花ちゃんにそう伝えてくれって必死だったもん」
「か、帰ってからですか?」
「そうそう。前にさ、壱花ちゃんがジェインの家に来たことがあったじゃない? あの時も私の存在のこと、誤解されたくないから、ちゃんと姉だって説明するようにって強く言われたけど、今回は違う。あんな情けないジェイン初めてだったな。ジェインはさ、見つけたんだよ、壱花ちゃんを。今までずっと、女性とは距離を置いた付き合いしかしてこなかったジェインが、ようやく側にいてくっついて眠ることができる人を見つけたんだよ。それって、壱花ちゃんの側なら安心できるからじゃないかな。壱花ちゃんとなら、憧れていた温かい家庭ってやつが手に入れられると思ったんじゃないかな。だから……」
「だから?」
「ジェインは絶対に離さないよ。壱花ちゃんのこと」
どくっと胸が鳴った。




