EP 54
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「壱花、ジェインが来たんでしょう?」
メイクを落としながら、レイラは鏡ごしに壱花へと話し掛けた。
「……はい」
「ならなんでまだここにいるのよ」
「……すみません、もう少しだけここに居させてください」
小動物のように、弱々しい。泣き腫らした目の周りは赤くなっていて、見るに耐えない状態だ。
「まあ壱花ちゃんが納得するまで居てもいいけど。明日から土日だし、ね」
ぽつと口から言葉が出てこなくなった。
「ごはん作ってあげるから食べましょ」
エプロンをしキッチンに立つと、レイラはリズミカルに包丁の音をさせた。
「ねえ、壱花ちゃん。スマホ鳴ってる」
ブーブーとバイブ。見れば、弥一の名前。LINEを開くと、たくさんのメッセージが届いている。けれど、読む気にはなれなかった。伝えようとしてくる内容は概ね理解している。
「あの人と付き合ってたの?」
「……はい」
「じゃあ浮気したサイテー男って、アイツのことなのね」
「ジェインさんから聞きました?」
「執着元カレでしょ? 壱花ちゃんはまだ好きなの?」
「いえ、もうやっちゃんとは……私、やっちゃんのことは本当に大好きだったんですけど、浮気のことはほんと辛すぎて。心が追っつかないっていうか」
「うん」
「だからジェインさんと杏さんが二人居るところ見ちゃったら気持ちが悪くなっちゃって。拒否反応っていうか、自分ではどうしようもできなくなっちゃって」
「トラウマってのはねえ、とことん根強いから困るよね」
複雑な声色。もしかしたらレイラもそんなようなトラウマに悩まされているのかもしれない、そう感じた。
醤油の香ばしい香りが漂ってきた。レイラはフライパンを傾け、皿へと料理を移す。炊き立ての白ごはんを茶碗によそうと、テーブルの上に並べていく。
「さあ壱花ちゃん! 腹が減っては戦はできぬ。さあさあ、食べよ食べよ」
のろりと立ち上がると、テーブルに着いた。野菜炒めにごはんと味噌汁。美味しそうな湯気がたちのぼり、お腹がぐうと鳴った。
「ありがとうございます。いただきます」
箸を取ろうとした。その時、今まで微笑みを浮かべていたレイラが真面目な顔で言った。
「ごめんね、壱花ちゃん」
「? なんですか?」




