EP 52
ジェインの伯父フレディと高杉 杏は一度だけ面識があった。それは、ジェインの成人式に出席するために来日した父ハリーとともに、伯父フレディとビデオ通話をしたときだ。
横にいた杏を、幼馴染として紹介した。
「幼馴染の高杉 杏さんです」
ジェインはただ、友人として紹介したまでだったが、フレディはそこで杏をジェインの恋人だと勘違いした。
『なんだ付き合ってはいないのか。それなら良い。ジェイン、以前お前が言っていた、自分のやりたいようにやる人生とやらの話だが、もうそろそろ満足したのではないかな? 日本ほど閉鎖的でつまらない国はないぞ。新しい風など、いつまで待っても吹くことなどない。イギリスへ帰ってこい』
「いえ、私は日本を出るつもりはありません」
日本を、そして日本人を愛していた。人の良さ、親切心、そしてなにより謙虚で慎ましい。
確かに仕事ではそれらが不利になる場合もある。けれど、一度懐に入ってしまえば、とことん尽くし尽くされる。
そして、何よりも自分自身、日本人だと思っている。
「日本もなかなか良いところですよ」
「つまらないジョークはやめろ」
そこで少し口論になりかけたが、父ハリーが口添えをしてくれて、事なきを得た。
その時のことを覚えていたのだろう。
「急に電話が掛かってきたのよ。伯父さまから直接ね。英語が話せるって安堵してたわ。ジェイン、あの子は英語すら喋れないんだってね? 伯父さまが嘆いていらっしゃった。ジェインがなんの取り柄もない日本人と結婚して、由々しき事態になってるって。それで二人を別れさせてくれたら、私とジェインの仲を取り持ってくれるって」
「はは! バカだな!」ジェインが声を上げた。
「杏は、騙されてるよ。まずもって、あの伯父は俺が日本人と結婚すること自体が気に入らないんだからな。杏が俺と結婚するのを取り持つだって?」
「私は、壱花さんと違って、伯父さまに気に入られてるのよ。だから、私たちの結婚なら、大賛成のはずよ。私なら家柄だってそんなに悪くないし、何より私自身、研究職で有意義な成果だって上げているわ。学会で論文を発表したことだってある」
「あのね、杏。俺の伯父は、俺をオモチャか操り人形ぐらいにしか思ってないんだよ。自分が気に入った女性との結婚を強制するのが趣味なんだ。俺もレイラも呆れ返るほどにね。イギリスに結婚報告に行った時だって、俺が妻を紹介しているにも関わらず、他の女性を紹介してくる、そんな冷酷な人なんだよ」
「そ、それは壱花さんがあなたに相応しくないから……」




