EP 51
ぽろっと。
混乱した心の一部分が出てしまった。しまったと思って、口元に手を当てたが、いったん発せられた言葉はもう戻ってはこない。
さっとジェインの顔色が変わった。
「やめてよ、壱花。私なんかって言わないで。壱花はこの世界で唯一無二の存在なのに。まだ疑っているっていうなら、防犯カメラ見てくれていいから。そうだ、今から見に行こう。なにもなかったってわかれば、きっと壱花も安心するだろ?」
「もう良いんです。もう疑ってはいないから」
「だったら、わかってくれるよね? 俺がどれだけ、」
喉がぐ、と鳴った。
「どれだけ、壱花を愛してるか……」
言葉を絞り出した。
壱花は無意識に左薬指のリングをそっと触ろうとした。その手をジェインにぱしっと遮られて、我に返った。
ジェインの顔は、もう真っ青だった。結婚指輪を外さないで、と懇願するような瞳。その瞳は青く、どこまでも綺麗だと思っていたのに、今は曇ってしまってさえいる。
そして。
「ジェインさん、もう少しだけ時間をもらえませんか」
ジェインはその申し出に、うんと弱々しく頷くと、そのまま会社へと戻っていった。玄関のドアを閉めると、涙がまた溢れてきた。泣いても泣いても涙は枯れない。
いつまでもその閉められたドアを見つめていた。
✳︎
「離婚して欲しいの」
時間は少し遡る。
ジェインが夜遅くまでオフィスで時間を潰していた、あの夜のことだった。
「壱花さんと離婚して!」
その激しさに、ジェインは目を見張ってしまった。それは幼馴染の、思いもよらぬ強い言葉だった。
「なんで結婚なんてしちゃったのよ!」
バシンとカウンターを叩く音が響いた。ジェインの独り言もでかいが、杏の絶叫も相当なものだ。誰もいない夜のオフィス。セキュリティの巡回も、この時間はない。
書類に目を通していた。明日やれば間に合うが他にやることもなく、それなら先に先にと仕事を進めていると、驚くことに杏が姿を現した。
嫌な予感がした。
最初のひと言目からもう、このジェインの結婚を真っ向から否定するものだ。
「もしかして、和田くんをけしかけたのは、君か?」
「そうよ、文句ある? だって、あの人、私と同じ立場だもの」
「結婚を邪魔するつもりなんだね」
「もちろん! そう頼まれてもいるしね」
合点がいった。
「フレディ伯父さんか」




