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EP 50

少し考えて、あーしまったあと声を上げながら、片手を額につけた。

「聞いちゃったんだね? 俺の独り言」

「……はい」

「俺、声でかいよね」

ははと力なく笑う。

「それはね、ちょっと言いにくいんだけど……いや言わなきゃいけないね」

ジェインは本心を話した。契約結婚だというのに、本物の夫婦のように壱花を抱いてしまってもいいのかと逡巡していること、そして壱花を抱くことによって、壱花が負った傷を、さらにえぐることになるのではないかと心配しているということ。

「君を失いたくないんだ」

テーブルの上に投げ出されていた手を握った。その指には結婚指輪が光っている。その指輪を愛しそうに、ジェインが触れた。そして突然、ジェインの表情が苦痛へと変わった。

「やばい、やばいよ。本当にやばい」

「え?」

「自分のものにしたい。壱花は物じゃないなんて言いながら……俺、ほんとヘタレだな……安直な考えだし滑稽かもしれないけど、壱花を抱いて、俺だけのものにしたいよ」

「ジェイン、さ、ん」

ぐっと握っていた手に力が込められた。

「抱きたくて仕方がなかったんだよ。本当はね。だから、帰宅を遅くして、なんとか我慢していたっていうのに。それなのに、まじでやばいよ。このままじゃ、和田くんに取られちゃうよ。壱花ちゃん、和田くんのこと大好きだったもんね。和田くんも壱花のこと、あんなにも必死に愛してるって」

「ジェインさん」

「この指輪をはめた時、ああもう安心だって。あとは幸せな結婚生活が待ってるだけだって、ゆっくり壱花ちゃんに好きになってもらえば良いって思ってたのに……こんな、こんなことになるなんて」

泣きそうな顔でジェインは壱花を見つめている。その苦悩に触れて、壱花は。

(ジェインさんも私と同じようなことで悩んでいたんだな……)

杏がオフィスに入っていく時、以前弥一に浮気された場面が蘇ってきてフラッシュバックに襲われて、吐き気をもよおした。意識も朦朧としてしまった。それほどショックだったのだ。

杏は美人でスタイルも申し分なく、気が利いて、多分頭も良いしスマートだ。

イギリスで出会った煌びやかな女性たちに匹敵するほどの、逸材。その女性が、ジェインのことを今もなお想い続けている。

「わ、私なんかじゃジェインさんには……釣り合わない」

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