EP 5
手元を見ると、キャベツの千切り。コンロには肉じゃがの入った鍋。豚バラ肉がフライパンに。その醤油色と匂いから、生姜焼きの味付けだとわかる。
「お味噌汁は間に合わなかったんでインスタントですけど」
「なにそれ完璧な定食じゃん。すげー! 俺、食べていいの?」
抱き締めたまま盛り付けが終わるのを大人しく待つ。
「もちろんです! っと、お口に合うかわかりませんが」
テレテレ照れながら、千切りキャベツと豚の生姜焼きを合わせる。白米を盛って、インスタントのお味噌汁にお湯を注いだ。
「うわうまそう」
いただきますをして、がっついた。寝てしまったせいか、お腹は空いていた。
「んーーすごく美味しいよ。壱花ちゃんは料理も上手なんだね」
「ネット動画のおかげです」
「ああ動画で壱花ちゃんに料理を教えてくれた人、感謝します。ありがとう」
笑い合う。大したことのない話題でも、得られるのはなんとも言えない満足感。心があっという間に満たされていった。相変わらず壱花は、大きな口を開けて白米を口に詰め込み、ほっぺを膨らませながらもぐもぐしている。美味しそうに食べる顔。じっと見つめると、恥ずかしそうに俯いてしまう、その表情。そして、すぐにも次の一口を箸で詰め込んで、また頬を膨らまし、んーと顔を上げて生姜焼き最高! とでもいうかのような表情を浮かべる。
そんな様子の壱花を見ているだけで、ジェインにも自然と笑みがこぼれた。
心で実感する。
(ああ。これが家庭の温かみってやつか。俺、ほんとにこういうの、知らずに生きてきたんだな)
しみじみと。心は決まった。
食べ終わった後に箸を置き、そしてカバンから出したのは記入済みの婚姻届。
「このことはもう話してあるけど、改めて。壱花ちゃん、俺と結婚してください」
食器を下げ、食後のコーヒーのマグカップ以外に何もないこたつの上に、そっと置く。
「本当はお付き合いしてから結婚するのが一般的だとは思うんだけど……まずはどうしてこんなことをお願いするのか、説明させてくれる?」
真正面に座る壱花が、崩していた足を直し、正座をする。ジェインも同じように居住まいを正した。