EP 49
リビングのテーブルの前に二人、向かい合わせに腰かけた。
「壱花ちゃん、まず誤解を解きたいと思う。昨日の夜、確かにオフィスに杏がやってきたのには間違いないよ」
「…………」
「でも、なにもなかった。俺たちは幼馴染ってだけで、そんな関係じゃないんだよ」
壱花の視線はテーブルの上だ。視線が定まらずに彷徨っているというわけでもなく、そこら辺をぼーっと見ている感覚だ。
「お、つき、お付き合いしていたんですか?」
「ううん、付き合ってないよ。でも、杏にアタックは受けていた時期はあった。でもその時は、断ったんだ。SOTでの仕事が忙しかったってのもある。けれど、一番の理由は、俺からしてみれば杏は幼馴染であって、好きとか愛してるとか、そんな気持ちは持てなかったからだよ。それは今も同じなんだ」
「でも杏さんは……」
「うん。昨日も好きだと言われたよ。でも俺はもう既婚者だからね。壱花を愛してるから不倫や浮気なんかはしないし、壱花をこれ以上傷つけたくないって、はっきりと断った」
「こ、これ以上……?」
壱花が視線をあげて、ようやく目が合った。
「うん。君は和田くんの浮気で散々傷ついてきた。だからこれ以上、そんな目に合わせたくない」
「……………」
「防犯カメラ、見てくれていいよ。俺と杏が話しているところしか映ってないと思うけど。確認してくれていい。セキュリティにも話をつけておくから。ねえ壱花、何度でも言うよ。俺は君を愛してるし、絶対に裏切らない。君と結婚できてこんな幸せはないと思っているから、この幸せをぶち壊すようなこともしないし、したくない」
「でも!」
はっとした。壱花は心の底からの反論の気持ちが口から飛び出してしまい、自分でも驚いてしまった。
「なんだい? なにか気になることがあるのかい? なんでも聞いてくれていいんだよ。誠心誠意、答えるから」
ジェインの視線はここに来てからも変わらずに真っ直ぐだ。いや、ここに来る前から、壱花が知る限り、出会ってからずっとなのかもしれない。
燻ったグレーの世界の真っ只中にいる壱花の中で、また違った色合いの感情が芽吹いて爆ぜた。
「夜、わざと遅く帰るようにって……昨日……」




