EP 45
よくよく耳を澄ませば、車のクラクションの音やエンジン音が聴こえてくる。その騒々しさからいって外にいるのか。けれど壱花が出ないとなると、眠っているのか、眠らされているのか。
『壱花はここに居ます』
「迎えにいく。どこにいるの、どこにいるんだ!」
口調が激怒で変わっていく。心はまるで嵐だ。落ち着いてなどいられなかった。けれど、それに反して弥一の声は弱々しい。
『……ジェインさん、お願いです。俺に……俺に、壱花をください』
「君はなにを言ってるんだ! 俺たちはもう結婚しているんだぞ! こんなストーカーまがいなことをして、強引に壱花を奪おうとするつもりなら、今度こそ法的手段に出させてもらうからな」
『はは! なにを言ってるんですか! 正義ヅラしやがって! あんたも俺と同じクソ野郎じゃねえか!』
「なんだと!」
カバンから家のカギを探し当てようとしていた手が止まった。激昂。わなわなと震えがくるほどに、怒りが満ちてくる。
『どーせ愛してないんでしょ。結婚なんて形だけ、嘘っぱちもいいところだ! ……壱花を騙して捨てるんなら、俺にくださいよ。俺が幸せにしてみせますから。そんであんたは杏とヨロシクやってろよ。あんたたち、お似合いだよ、自由恋愛ってやつだろ? でも壱花はそうじゃない。壱花は一途な女なんだよ! 今度こそ……今度こそ俺が幸せにしてみせる!』
「は? なにを言ってるんだ君は! 杏の名前がなぜここに出てくるんだ! いったいなんの関係がある? とにかく壱花を迎えに行く。壱花にちょっとでも触れてみろ、絶対に許さないからな! 」
クソっ!! と、ブチギレて最後には探り当てた家のカギを壁へと投げつけた。ガチャンっと音がして、壁に掛けてあったポートレートが落ちた。ガラスが砕け散って、そこら中に散らばる。
「なんでこんなにも邪魔ばっかりされるんだっっ」
ただただ、壱花と幸せな日々を過ごしたいだけだというのに。
ジェインは直ぐに立ち上がると、サイフとカギをひっ掴み、そして玄関のドアを乱暴に開け、家を出た。胸ポケットからスマホを出してタップし、まずはひととこに掛ける。そして、その電話を切ってからすぐに、ある番号を呼び出した。
✳︎
「なるほど、そういうことか」
怒りのジェインが見た光景は、自社が入る向かいの路地、その間で弥一に抱き締められて眠っている壱花の姿。そして、そんな壱花を大切そうに抱えている弥一の、今にも吠えて噛みつきそうな、そんな顔だった。
「どうしてこんなことになってるかはわからないが……杏が会社に入って行くのをここから目撃したということなんだな」
1を知れば10を悟ってしまうジェインは、恐ろしい表情を浮かべている弥一に負けじと、二人に近づいていく。
「壱花を離せ」
手を伸ばす。けれど、弥一はその手をバシッと払った。
「汚ねえ手で触るんじゃねえ」
「俺と杏はそんな関係じゃない。ちゃんと壱花にも説明する。だから壱花を、」




