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EP 43

沈黙が重かった。

「いや、アレだよ。たぶん、聞き間違いだよ。ジェインCEOも、疲れてんじゃねえの?」

「ん」

「家に帰るのが嫌ってわけじゃないと思うよ」

「ん」

「……ちゃんと話した方が良いよ」

言葉とは裏腹に、猛烈な怒りが湧いていた。

(あの野郎、壱花を幸せにするって、あんだけ豪語してやがったのに)

唇を噛んだ。

そっと、壱花から腕を離し、「大丈夫? ひとりで家に帰れる?」と訊いた。

「うん。帰れるから大丈夫。やっちゃんこそ、ここになにか用だったの?」

ジェインになぜ壱花を抱かないのかを訊きにきたとは到底言うことはできない。

「あ、や、それが……その……」

言葉を濁して顔を上げた瞬間、あっと小さな声を出してしまった。

(しまっ……た)

その声に、壱花が弥一の視線を辿ってしまった。その視線の先には、杏の姿。さっそうと薄手のロングコートをなびかせながら、ビルのエントランスへと入っていった。

「あ、杏……」

すべてを察したと言ってもいい。弥一もそう思ったし、壱花もそう思っただろう。

「壱花、行ってみよう。杏とはただの幼馴染だって言ってただろ? 久しぶりに会って、思い出話をしているだけかも知んねえし」

「あ、あ、あ」

「壱、花?」

見ると、壱花の顔色が、この暗がりでもわかるほど蒼白になっていった。ぶるぶると身体が震え出し、その震えでカチカチと歯が擦り合わさって、鳴った。

「う、うそ、う、う、う」

嗚咽が戻ってきた。喉がぐうっと鳴った。

「壱花、大丈夫か!」

思い余って、肩を支えた。すると、壱花は口元を手で覆い、身体を折り曲げてしまった。弥一の手を振りほどき、もう少しで路地裏のビルの壁に吐いてしまうところだった。

「お、おえ、ごほごほっ、ごほ、」

「壱花! 大丈夫か?」

その姿を見て、慌てて持っていたペットボトルを取り出し、キャップのフタを開けた。

「これ飲める?」

「ご、ごめ」

身体を折ったまま、壱花は少しだけ水を口に含んだ。

「壱花、少し横になって」

地べたに座り、弥一は自分の背をビルの壁にもたせかけた。そして壱花を自分に寄りかかるようにさせて、後ろから抱いた。

「少し落ち着くまでこうしていよう」

「う、ううぅ、うう」

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