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EP 42

『地獄』

地獄と言ったのか?

結婚を?

(どういうことなんだ、地獄ってどういう意味なんだ?)

胸がずきっと痛んだ。ふと見ると、壱花の目から涙が溢れていたから。

その涙と、ジェインの言葉のあまりの衝撃に、弥一は壱花の腕を取り、引っ張った。

ずんずんと壱花を連れて、廊下を進んでいく。

そして、ビルの外に出ると、道路を向かいへと渡り、少し行ったところの路地へと入る。

「壱花、大丈夫か?」

当の壱花はもう泣いてはいないが、ぷるぷると震えている。

「だ、だいじょぶ。大丈夫、大丈夫」

自分に言い聞かせているのだろう、その弱々しさに、身体をぎゅっと抱き締めた。

頭の中は、「どういうことだ」の一点のみ。けれど、くらりと目眩がした。先程の接近により心と身体はもう壱花を抱き締めたくて抱き締めたくて仕方がなかったから。

ジェインの言葉がショックだったのか、壱花は呆然とし、弥一に抱き締められるがままだ。

「なあ壱花。あの人、なんであんなこと言うの? 壱花たち、うまくいってないの?」

「わ、わから、」

「あの人、明らかに夜、家に帰る前に時間潰しているよね。地獄だとかなんとか言って、帰りたくないみたいだったけど、いつも何時に帰ってくるの?」

「い、いつも? ……えっと、12時くらい、かな」

「くらいって……」

「私……先に寝ちゃってるから、」

昼間に杏と話していた内容が蘇ってきて、その壱花の話と合致した。合致してしまったのだ。

抱き締めていた腕にぐっと力が入った。

(壱花はまだ、あの人のものじゃないんだ……)

さらに身体が熱くなり、頬も唇も耳もすべて、燃え上がっていく。自分の手に負えないほどの愛しさが、身体中を駆け巡っていった。

「壱花、壱花、いちか、いちか」

大切にその名を呼んだ。

「好きだよ、好きなんだ。愛してる。俺、こんなにも壱花を忘れられない。忘れられないんだ。お願い、俺を見てくれ。こんな辛い思い、もう二度とさせないから」

「つ、つらいおもい?」

その言葉で我に返ったのか、壱花は弥一の腕の中でごそっと動き、離れていこうとした。腕に力を込めて、それを阻止するように弥一は壱花を抱き寄せる。けれどもう、壱花は自分を取り戻したようで、そのまま離れていった。

「ごめ、ごめんね。やっちゃんとはもう……」

「……いや、俺の方こそ……ごめん」

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