EP 41
言葉とは裏腹に、猛烈に怒りが湧いてきていた。
(なんだよ、あいつ! 俺を騙しやがって! なにが幸せな結婚だ、大嘘じゃねえか!)
弥一は仕事の後、杏と別れて自宅に直帰した。けれど、杏の言葉の意味を繰り返し考えているうちにどうしても気になってしまい、真相をジェインに問いただすべく、『J-Planning』へとやってきたのだ。
が、勢い勇んでやってきたは良いけれど、ビルに入るにはなかなか敷居が高い。そこで、少し離れた場所でうだうだしていたら、ビルのエントランスに壱花が入っていくのが見えた。
(あれ? 壱花? 忘れ物かなんかかな?)
思い直す。
(あーきっとアレだ。どうせ壱花が迎えに来て、一緒にお手手つないで仲良く帰んだな)
ラブラブじゃねえか。ごちそーさん。帰ろうとして踵を返した。
けれど、少し歩いて立ち止まる。
思い直して、やはりとビルへと入っていった。すぐさまエレベーターに乗り込むと、『J-Planning』の階で降りた。廊下をずんずんと先へ進む。今の時間、残業している企業もなく、灯りの消えたオフィスばかりだ。
躊躇なく、『J-Planning』のドアを開け、そしてさらに廊下を進むと。
オフィス入り口のドアの前に壱花の姿を認める。
(問いただすのには良い機会じゃねえか)
そして、静かに近づいていき、小さな声で壱花と声を掛けた。
背中がびくっと小さく揺れ、振り返る。壱花が、どうしてここに?……という表情で、弥一を迎えた。
「いち、」
さらに声を掛けようとすると、中から。
「なんなんだよ、和田 弥一!」
ジェインの雄叫びが聞こえてきて二人、ビクついてしまった。
顔を見合わせる。
「やっちゃ、」
壱花が声を上げる寸前で、しぃっと静かにというポーズと同時に壱花の口元に手を当てた。
壱花が、弥一を見上げてくる。その潤んだ黒い瞳に、ぐらと弥一の理性が飛んだ。
ぐいっと引き寄せて、背中に腕を回す。
「壱花、少し静かにしてて」
耳元で囁いた。頭の中では、抱き寄せてしまった言い訳をぐるぐると考えている。けれど、大した言い訳なんか思いつくはずもない。あれだけ愛し、結婚で諦めようとした壱花が今、腕の中にいる。
ぶわあっと全身に火がついたような感覚に陥った。その熱が足先から頭の上まで覆い尽くしていき、熱く熱く燃えたぎる。
少し身体を離してみると、壱花はバツが悪そうな顔をして、腕で弥一を押しのけようとしている。そこで、俯いた壱花の顔を覗き込んだ瞬間。
「はああ、まだこの時間じゃ帰れないな。他に仕事あったっけ……いつまでこんな生活が続くのかなあ……もう地獄だよ。今度の土日の夜はどうやって乗り切ろうかなあ」
ジェインの声がオフィスに響いた。
覗き込んでいた壱花の表情が、みるみる大きく動揺に揺れた。




