EP 40
そしてその弥一が連れてきたのは、幼馴染で長年付き合いのある、高杉 杏。
杏とは大学が違ってからはあまり会う機会はなかったが、大学院へ行って研究室に入ったと聞いていた。
「それがなんで今ごろSOTに……」
暗いオフィスにジェインの疑問を含んだ声が響く。時計を見ると、9時を回っている。仕事はほぼほぼ終わっているが、まだ帰るわけにはいかない。
(はあぁ。壱花ちゃん、まだ寝てないだろうな)
帰宅をわざと遅くしていた。
家に帰るのは、12時近く。その時間に帰り、風呂に入ってからベッドに潜り込むのは、午前1時頃。寝付きの良い壱花は、ジェインがベッドに潜り込む時にはぐうぐうで、一向に目を覚ます気配はない。壱花の髪にそっとキスをして、眠りにつくのが日常だった。
髪にキスすると、ふわりとシャンプーの香りが。その白いうなじや、もぐもぐと動いている唇を見ると、欲情して身体が火照ってくる。その小さな唇をこじ開け、舌を入れたい衝動に駆られるが、そこは壱花に背を向けてなんとか堪えていた。
抱きたかった。
あの小動物のように小さな身体を、優しく撫でて舌で愛撫し、そして。
(もうそろそろ、抱いてもいいのだろうか)
思い返せば、壱花が元カレ弥一と別れたとき、それは弥一の浮気に起因するものだった。その最悪な浮気現場を、壱花は目撃してしまっている。きっと、いや絶対にトラウマになっているはずだ。
だからこそ、お互いが愛し合い、決して間違いじゃないセックスがしたい。壱花がこの上なく大切だから。
両手で顔を覆った。
「はああ、まだこの時間じゃ帰れないな。他に仕事はあったっけ……」
デスクに山積みになっている書類の中を、がさごそと探す。
「いつまでこんな生活が続くのかなあ……もう地獄だよ。今度の土日の夜はどうやって乗り切ろうかなあ」
もう一度時計を見る。
ため息を吐いてから、山から引っ張り出した書類にサインをしていった。
✳︎
「なあ壱花、そんなに落ち込むなよ」
「…………」
「聞き間違いかもしれないだろ?」
「…………」




