EP 3
ジェインの言葉に、コーヒーを淹れていた手を止めた。振り返ると、ジェインがこたつにちょこんと座り、丸まっている。そのまま顔を突っ伏しそうになっているのを見て、やはりまだ仕事が忙しいのだと感じて、心配になった。
コーヒーがドリップし終わるのを待ち、カップへとなみなみに注ぐ。冷蔵庫から手作りのチーズケーキを出し、一切れを小皿に乗せた。
ジェインの前にことんと置く。その音で、はっと顔を上げたジェインの表情は、眠そうだった。
「ごめん今寝落ちそうだった! この俺を眠りに誘うとは。さすが壱花ちゃんちのこたつの魔術!」
「ふふ、どこのうちのこたつでもそうなりますよ」
「そんなことないよ。前住んでたところなんて、冷ややかで寂しいもんだったよ。帰って寝るだけだったし」
思い起こせば確かに、ジェインのマンションはショールームのような部屋だった。綺麗だがどことなく心からリラックスできないような、そんな感じ。
「こたつがあればまた違ったのかも」
「もう壱花はわかってないなあ……ちょっとこっちにおいで」
ジェインがおいでおいでをする。
「なんですか……?」
ぐるっと回って、ジェインの近くに足を入れる。とんっと足先が当たって、少しだけよけた。
そうしている間に、ジェインの腕が伸びてきて、ぐいっと壱花の肩を引き寄せる。
「もうちょっーーーっとこっち」
「わわわ」
ぐらっと身体が倒れそうになり、ころんと横たわってしまった。頭をカーペットに打つ寸前で、ジェインの手にキャッチされた。そっと降ろされる。そして、覆いかぶるようにして、ジェインが覗き込んできた。
どどどっと壱花の心臓が駆け上がっていく。
もう興奮するしかない。
「じぇじぇじぇいいんんさんん」
「これぐらい接近しなきゃね。こうやって誰かとくっついていられるから暖かいんだし、安らぐんだよ?」
はああっとため息をつきながら、ジェインは壱花の顔に自分の頬をくっつけた。もちろん、身体もそこかしこ、くっついている。
「あー癒されるう」
困ってしまった。こうして、甘えられることに慣れていない。
元彼弥一と付き合っている時には、こんな風に甘い雰囲気になったことがなかったし、自分から甘えることもなかった。けれど、抱き合うことはあった。だから、もしかしてそういう雰囲気になれば、ジェインとも……なんて考えが頭をよぎる。