EP 29
「え、和田くん、知り合いなの?」
「嘘でしょ。まさか彼女?」
「やだあ! ジェインCEOという推しがいなくなっちゃったばかりなのにぃ」
翻って男性陣からはこんな声が。
「うわ、めっちゃ美人!」
「スタイルよ!」
「あの口元のホクロちょっとエロくね?」
弥一はバツが悪そうに視線を外した。が、まだまだ逃げられそうにない。
「高杉さんは英語がペラペラだそうだから、和田くんのサポートにつけようと思う。営業部イチのホープと高杉さんの英語力を合わせて、外資系の物件を取ってきてもらいたい」
やだー! との声が上がる中、弥一が挙手し、言い放った。
「すみませんが、英語ぐらい俺も喋れるんで、必要ありません。困ってないんで」
女子のバディをつければ不満が噴出して営業部全体の雰囲気も悪くなる。だからからか、弥一はいつも一匹狼的な扱いを受けていたし、自分もそのように行動していた。
(会社で修羅場なんてたまったもんじゃない)
そう思い強気で言った。
「高杉さんは、天堂さんにお任せしますよ」
「おい! 言い方!」
「生意気だぞ」
弥一のひと回りも先輩である天堂の周りが、弥一の言動を諌めた。
「いや、和田くんに譲ってもらわなくても、俺も英語困ってないんで。和田くん、どうぞどうぞ」
だが、そこで空気を読んだチーフの鶴の一声が。
「じゃあ和田くん、彼女の面倒を見てあげてくれ。期待しているよ、高杉さん」
ねっとりとした嫌な雰囲気。弥一は諦めて「わかりました」と告げる。
その日早速、弥一が営業に出るのに、杏が同行した。
「なんだよ? まさか俺のストーカーじゃないだろうな?」
皮肉半分、本気半分で問うた。
「ふふ。違いますよ。でも2週間前に一度、会社見学に来た時に、弥一さんお見かけはしています。女性の注目の的だし、目立っていらっしゃったので。だから居酒屋でお会いしたときに声を掛けさせていただいたんです」
「ふーん。そうだったのか」
「で? 心は決まりました?」
「は? なんの?」
「略奪ですよ」
並んで歩いていた足が止まった。少し離されてから、杏も立ち止まった。振り返る。
「あんた俺になにをさせたいんだ?」
杏は、弥一を一瞥し、そのまま冷めた視線を寄越してきた。
少し間があった。刹那の沈黙。
「別に何も。ただ私は、自由恋愛主義の布教活動をしているだけですから。だから私たちの関係も進展させましょうよ。弥一さん、良かったらまた会いません?」
弥一はそんな杏の態度を訝しみながらも、「布教活動は会社の外でやってくれる?」と突き放した。




