EP 28
「そんな結婚すぐに破談しますよ?」
くすくすと笑う。
「今や結婚した夫婦の3組に1組が離婚する時代ですよ。まず日本の結婚というシステム自体が破綻してますよね。もうそろそろパートナーは1人とかそういうのは無しにして、事実婚とか自由恋愛を楽しむべきじゃないですか?」
「あんたはそれで良いんだ?」
壱花を傷つけるまで、弥一は相手の立場になってモノを考えたことがなかった。が、今は違う。そんなことをしたら、パートナーが悲しむぞと思ったが、どの口が、と複雑な思いがした。渋々、杏の次の返事を待った。
杏は笑いながらも、またベッドに潜り込んで、布団を首元まで引き上げた。
「お互いさまであれば、どんだけ浮気したって、全然良いんじゃないですか?」
その考え方にわだかまりが浮いてきたが、ここで議論する相手じゃないことはわかっている。
「俺、もう出るけど」
弥一はサイフからホテル代を出すと、ベッド脇に置いてあるサイドテーブルへと置いた。
「私はもう少し休んでから出ます」
「じゃあ」
通りすがりのナンパだからと、連絡先は交換していない。
「弥一さん」
振り返った。
「和田 弥一さん、またお会いしましょうね」
口元のホクロが笑った。その言葉と言い方を訝しげに思ったが、社交辞令かと考え直し、弥一はそのままホテルを後にした。
夜空のもと、家へと帰る。明日は休みだから、いくら夜中とはいえ足取りはそう悪くはない。
「はあ、結婚か……」
呟くと、見上げていた夜空に浮かぶ星が、ちかっと光った気がした。
(もし壱花の結婚がうまくいかなくて……離婚することになったら……)
慰めてあげられるかもしれない。彼女が言う通り、チャンスが回ってくる可能性はある。
(だめだ、そんなのはクズの思考だぞ。しっかりしろ弥一。壱花の幸せをあれだけ願っていたじゃねえか!)
それでも声にはできない邪な気持ちが噴出してしまった。一気に不穏な空気に包まれて、さっきまで綺麗に見えていた星が、その輝きを急速に失っていった。
✳︎
『和田 弥一さん、またお会いしましょうね』
宣言通り、その女は弥一の元へとやってきた。
「今日からSOTの営業部に勤務していただくことになった『高杉 杏』さんだ。うちがどんな仕事をしているのか、なにを目指しているのか、みんな教えてやってくれ」
営業部のチーフから紹介があると、女性は頭を下げて挨拶をした。
「『高杉 杏』です。よろしくお願いします」
驚いてしまった。弥一がぽかんと口を開けていると、手を上げてアイコンタクトしてくる。そのアイコンタクトの先に弥一がいると知って、営業部の女性陣からどよめきが起きた。




