EP 27
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ホテルを出たところで、弥一は空を見上げてみた。
夜空には星がいくつも瞬いているが、都会では圧倒的にその数は少ない。
「その結婚、ちょっとおかしくないですか?」
ベッドの中でくるりと体勢を変える。白い肌を惜しげもなく見せびらかした後、女は気だるそうに言った。弥一はその言葉に呼応し、やはりその体勢を崩しながら仰向けになり、ホテルの一室の天井を見つめる。
「おかしいって? なんで?」
「だってお付き合いもそこそこに結婚だなんて。その彼女さん、奥手で慎重な人なんでしょ?」
「そうだよ。すごく真面目な子で……」
「だったら尚更ですよ。私だったら1年は付き合って様子を見てから結婚しますけど」
居酒屋で出会った女性が『高杉 杏』という名前だということを知った。弥一は隣で横になっている女性を名前で呼んだ。
「杏ちゃんは、その結婚になにか理由があるって思った?」
「『杏』で良いですよ……もちろんです。相手がお金持ちなら、お金で買われたとか」
「そんなまさか! 2人が相思相愛なのは間違いないんだよ」
「なら違いますね。じゃあ弱みを握られてるとか?」
「だから、相思相愛なんだって言ってるだろ!」
見上げている天井に、弥一の声が響く。壱花とジェインの相思相愛を浮き彫りにさせられ、少しだけカッとなったが、やれやれと思い直して腕を頭の枕の中に差し込み、引き続きぼうっと天井を見る。
「あらあら、変なこと言っちゃいましたね。ごめんなさい」
杏は、ぎしっとベッドを軋ませながら、起き上がった。するりとベッドから出ると立ち上がり、スタスタと冷蔵庫の方へ。中から水のペットボトルを取り出してフタを開けると、ぐいぐいと飲み始めた。
弥一は横目でその姿を見る。恥ずかしそうに隠すこともなく、大胆にも全裸のまま、だ。
スタイルは良い。腰にもくびれがあり、触った胸も柔らかかった。
(久しぶりに女と……)
浮気をした以来の行為だった。だが、次に思い出したのは壱花のこと。浮気がバレて、涙をほろほろとこぼしている壱花の泣き顔が鮮明に思い出されて、少しだけ自分の行為に吐き気をもよおした。
そんな後ろ暗い気持ちを払拭するため、弥一もばっと勢いよく立ち上がると、散らばっている洋服を拾い上げ、そして着始める。
そんな弥一の様子を見ても、杏は微動だにしない。腰に手を当て、そのまま会話を続けている。
「まだ好きなんですね」
「だからってもう結婚しちゃ、望みなしだ」
「なに言ってるんですか! まだまだこれからですよ!」
「え?」
ベルトのバックルを留めていた手の動きが止まった。
杏は半分ほどに減ったペットボトルのキャップを戻し、ベッドに近づいてきて、その上に放り投げる。
「好きなら諦めちゃいけません」
知らぬ間に怪訝な顔になっていた弥一は、ごくりと唾を飲んだ。




