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EP 23

(結婚……)

壱花とジェイン。

二人を応援していたつもりだった。和田 弥一(わだ やいち)は壱花と別れて独りになった。今まで想像していた壱花との将来像。それもあっという間に消え去って、盤石だと思っていた足元が、一気に崩れ落ちた。けれど、もちろん恨んだりはしていない。壱花を傷つけ失ったのは、すべて自分自身の浅はかさと足りなさからきたもので。

「素直に……祝うことができると思っていたんだけどな……」

二人が付き合い始めて、将来的にはそうなるとは思っていたが、こんなに早くに婚姻関係が成立するとは思っていなかった。

結婚という事実に、ガツンときてしまった。

仕事終わり、自宅に帰る気にもなれず、弥一はふらと会社近くの居酒屋へと入った。目についたカウンター席に座る。生ビールを注文すると、何かを欲するように、一気に飲み干した。

「……結婚……まじか」

確かにジェインCEOに壱花を託すつもりだったのは本心。過去に壱花と付き合っていた時に浮気をし、壱花を傷つけたのも事実で、壱花の側にいる権利もないことも十分にわかっていた。

だから、ジェインと壱花を応援していたのも嘘じゃない。

けれど。

思いの外ショックを受けている自分がいる。

「はあぁ、まじかぁ」

頭を抱え遠い目をしていると、だし巻き玉子が運ばれてきた。弥一は割り箸をぱきっと割って、すうっと箸を入れた。切れ目から湯気がほわっと漂い、出汁の良い匂いが鼻腔をつく。

(結婚、か……あの壱花の玉子焼きはもう、二度と食べられないんだな。壱花はもう……あの人のものなんだな)

そうだ。唯一愛する女は他の男のもので、離婚でもしない限り、一生自分のものにはならない。人妻。手の届かない所へいってしまったのだ。

だし巻き玉子の一口目がもう、喉を通らなかった。代わりに弥一はぐいっとジョッキをあおった。

「はあぁ、くそっ!」

失恋だーと声に出して言えば、諦めもつくだろうか。良い感じに酔いが回ってきたのを感じる。このまま忘れられるのだろうか。

「壱花、おまえ、遠いところに行ってしまったんだな」

呟くと声がかかった。

「振られたんですか?」

「は?」

カウンターの席、ひとつ開けて隣の女性だった。艶のある黒髪はうなじを隠すくらいの長さ。髪をかけた耳には、ダイヤモンドのピアスが輝いている。仕事帰りなのだろうか、少しゆるめのパンツスーツ。淡い薄紫色の女性らしい優しい色合いに包まれている。総じてセンスが良くて美人だ。

けれど、見たこともない、まったく知らない人だった。落ち込んで酒をあおっている時に、軽い調子で気軽に話しかけられて、弥一は少しだけムッとした。

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