EP 20
そう呟いたと思うと、
「壱花ちゃん、ちょっと協力して!」
そして、男性はその場でかがみ、あっという間に壱花をぐいっとお姫様抱っこしてしまった。
「え、ええ、ええっ!」
慌てふためくが、暴れると落ちてしまう。全身に力は入ったが、身を縮めて小さくなり大人しくした。
「ご協力ありがとう」
くすっと口元が笑ったように見えた。
さすがにそんな場面を見て、ざわっと周囲が騒がしくなった。ちらと横目で見ると、あんぐりと口を開け、驚き顔のジェイン。そして、さらに伯父フレディの険しい顔。さあっと青くなってしまった。こんなにも注目を浴びている。
けれど、男性は次の手を打った。
「ええ! なんだって! 気持ちが悪い? 吐きそうだって? 大丈夫かい? こうしちゃいられない、看護室に行かなくちゃ!」
男性が大声で叫んだ。もちろん英語だから、周りには十分に伝わっている。いや、伝わり過ぎている。ぴりっとしていた空気が一気に緊張感に変わった。
具合が悪い人が出てホテルの看護室に連れていくシナリオ。どうやら、自分が倒れたというていになっているらしい。
壱花は、慌てて手で口元を覆うと、「おええええぇぇ」と発して、目を伏せた。
「うまいうまい」
楽しそうに、けれど見つからないように、控えめに声だけで笑う。
そのまま、男性に抱きかかえられて、レストランを出る。到着していたエレベーターに乗り込むと、「はい完了」と言って、すっと降ろしてくれた。そして、ぶはっと吹き出し大笑い、だ。
「やばい! めちゃめちゃ面白いな、キミ!」
戸惑っていると、エレベーターのドアが閉まっていく。
その時。
「壱花っ!」
ドンっという音と、ぐらっと足元が揺れた。見ると、ジェインの手がドアが閉まるのを阻止すると、ジェイン自身が慌ててエレベーターの室内に半身からねじり込んできた。救出劇のようなその凛々しい表情に、壱花はきゅんとなってしまった。
「父さん! なにやってんの!」
やはり、そうだった。その日、ジェインの父、ハリー グランヴィルを知った。
✳︎
「父さん、ここでいったいなにやってるんだよ」
憤懣やるかたなし、明らかに憤慨のジェイン。
ホテルのバーに3人陣取って、ジェインとジェインの父ハリー グランヴィルはワインを注文し、そして壱花もあまりお酒は強くないが、カクテルを注文していた。お酒には詳しくないので注文はジェインに任せたが、ちょびりと飲んでみると、柑橘系のさっぱりしたカクテルだ。これなら飲めると、ぐいーと半分ほど一気に喉に流し込んだ。緊張で死にそうになり、お酒の力を借りようと思ったのだ。
(ジェインさんのお父さん、突然の登場過ぎるよー……やばい。緊張する)




