EP 19
「うん。頼むよ。それとなしにレストランから出てきてくれないか?」
「それとなしに?」
人差し指を口元に立てて、ウィンクする。
「見つからないようにね」
誰に? とは思ったが、さっきまでの心情的に、ジェインの伯父フレディの気がしてならない。
「しかし、それにしてもキミ、絵が上手だね。もしかして、ジェインの奥さんかな?」
「⁉︎ は、はい! 柊 壱花と申します!」
頭をさっと下げた。やはり結婚についてはおおよそ伝わっている。ジェインの知り合いだと思えば、粗相のないようにしなければならない。すると男性がぐいと手を握ってくる。壱花な左手の薬指にはめられた結婚指輪をじっと見つめる。
「あ、あの……」
「いやいやごめんごめん。勝手に人の奥さんに触ってしまったよ。それにしても可愛らしい人だ」
日本語も流暢だし、面影もある。もしかしたらこの人は……と予感がしたが、「と、とりあえずジェインさんを呼んできますね」と言ってレストランへと滑り込んだ。
(えっと……ジェインさんは……)
見回す。けれど、すぐに見つかった。多くの女性に囲まれているからだ。名刺交換をしているようだから半分はビジネスだろうとわかるが、周りの女性たちの興奮度を見ると、それだけではないだろうから、何となく良い気はしない。
女性たちはみな、背は高くスレンダー、ジェインに釣り合っていてサマになる。どの女性を取ってみても、美男美女、モデルのようなカップルに見える。
ジェインはやんわりと断っているようだが、それ以上に猛攻撃されているようだ。両腕はがっちりと女性にホールド。豊満なバストを押しつけられている。
壱花には、ジェインが微笑みを浮かべていて、まんざらでもないような表情に見えた。
(ジェインさんも男の子だし、きっとそういう欲求もあるだろうな)
キスはされ、ハグもされる。けれど、結婚までしたのに、身体を求められたことはない。
(私に魅力がないのかも)
自分を見る。チビで身体も細い。豊満からはほど遠い体型。
(こんなんじゃ、抱きたいなんて思えないんじゃないかな……)
「あらあら、ジェインもあんなにモテて大変だねえ」
いつのまにか隣に立った男性が、耳元で囁いた。見上げると、先ほどの男性。
「あ! すすすみません! なんだか話しかけづらくて、遅くなってしまいました」
しょぼんとする壱花の頭に手を乗せて、男性は言った。
「いやぁ、あれではしょうがないよ。あの中に入っていけるのは、心臓に毛でも生えている人にしかできないよ」
心臓に毛、で笑ってしまった。日本人より日本語を知っているようだ。
「じゃあ、これは他の方法で呼び出すしかないな」




