EP 16
実際、ジェインの伯父、フレディは結婚はしているが、子どもがいない。自分が精力込めて大きくしてきた事業の跡継ぎが不在の今、弟ハリーの息子二人にかける期待は大きく、そして深くなっていって当然だ。フレディは両手を上げて、大げさにそう主張した。
「こんなことになるんだったら、早く結婚相手を見繕っておけば良かったのだがな」
こういった背景があった。だからこそ、壱花を愛した以上、早く結婚しておきたかったのもある。
それゆえの契約結婚。
「伯父さんとはまったく話にならない!」
ジェインはもうさすがにこれ以上は無理と、踵を返した。壱花をバスルームに迎えにいく。けれど、気持ちがぐちゃぐちゃだった。
(伯父さんと話すといつもこういう気持ちになる……)
苦笑い、というより悔しい笑い。
(くそっ)
視線を周りへと這わす。壱花を探していると、ジェインが1人なのを良いことに、たくさんの女性が挨拶しに寄ってきた。
「Mr.ジェイン! やっと解放されたのね、次は私の番よ!」
「待ってちょうだい。私にもお話させて」
これからの自分のビジネスのことを考えると、そう無下にはできない。
一通りの挨拶に名刺交換。時間はかかった。壱花はどこへ行ったのだろう?
ジェインは取捨選択で挨拶をしつつ、広いこのレストランからの脱出をなんとか試みようと入り口に向かったが、あっという間にまた囲まれてしまい苦戦を強いられた。
✳︎
多少の覚悟はしていたが、凄まじいものがあった。
「はあぁ。こんなにもHPを削られるなんて……思ってもみなかったな」
お手洗いにて、手を洗う。鏡の中にはしょぼくれた顔。英語はできないが、さすがに交わされている会話は大体、理解できた。
「伯父さんに好かれようと思っても、あれじゃ無理かも……」
自分の顔をまじまじと見る。元彼弥一と付き合い、黒のワンピースに黒縁メガネ、重い前髪、ダサブサと呼ばれていたおにぎり時代よりは、マシになっているだろうと思っていた。そんな壱花にとって良い変化がIT会社CEO草壁ジェインによってもたらされ、そして現在はこんなにも幸せに満たされていて。
けれど本質はなんら変わっていないのかもしれない。
鏡に映る自分。美しいドレス、豪華なジュエリー、夢のようなメイクやヘアメイク。変身してシンデレラになったつもりだったのか。それが、魔法が解けて一気に灰かぶり姫へと戻ってしまったかのような感覚に陥って、正直へこんでしまった。




