EP 15
「愛してるだと? そんなものは幻想だと言っている。いったい、そのちんちくりんのどこがいいんだ?」
もう少しで掴みかかるところだった。
その時。ジェインの袖がくいっと引っ張られた。先ほどから二人のやりとりを心配そうに見ておろおろしていた壱花だったが、「お話の途中ですみません。バスルームに行きたいので、失礼しても良いですか?」とこっそり伝えてきた。
ジェインは次に言おうとしていた言葉を飲み込むと、「大丈夫だよ、案内するよ」と壱花の腕を取った。けれど、フレディはそれを制すべく、声を荒げて言った。
「ジェイン、まだ話は終わってない!」
「もう話すことはありません」
「おまえはここに残れ。あなたはひとりで行きなさい」
壱花に話しかけて、しっしと手を振る。
「壱花ちゃん、気にしないで。一緒に行こう」
だが、さすがに英語ができなくとも雰囲気でわかるのか、壱花はひとりで行ってきますと言って、引かない。
「レストランを出て、右奥に確かバスルームがあったはずだ。本当にひとりで大丈夫かい?」
「ジェインさん、私は大丈夫です。それでは、失礼します」
そう言って、離れていった。
「あんなチビでなんの取り柄もない日本人の女のどこがいいんだ? もっとおまえに相応しい女はごまんといるではないか」
「取り柄がないだって? あなたに何がわかるというんです! 壱花は素晴らしい人だ。とても一途で、とてもお人好しで善良なんです」
俺の母と同じようにね。
だが、その言葉はさすがに飲み込んだ。
伯父フレディがジェインをじっと見つめながら先を続ける。
「日本人の美徳とかいうやつか。そんなものなんの役に立つと言うのだ。実にくだらんよ、日本人は引っ込み思案が過ぎて、外に出ようともしない。謙虚だと? そんなものは犬にでも食わせてやればいい」
「俺の壱花を侮辱するな」
ジェインが凄みをきかせる。もうとっくにキレていた。
「家族といえど、言っていいことと悪いことがありますよ」
「私はおまえのことを心配して言っているのだぞ。ハリーだって舞と結婚なぞしなければ、今ごろ他の女性と幸せに」
今度はジェインが話を折った。
「これ以上、壱花や母のことを悪く言うのは許しません。あなたとは話にならない」
「ハリーが心から気の毒だ。二人も跡継ぎがいると言うのに、一人は女になりたいだのレイラと呼べだのと気持ち悪いことをほざき、もう一人は粗末で役立たずな女と結婚してしまうとは。結婚というのはだな、自分の会社や事業を大きくしていくために、それ相応の相手と結婚せねば意味がないんだぞ。おまえの父、ハリーも舞との結婚で大損し失敗した。だが、おまえもそんな無能な父親と同じ道を辿ってしまうとは、ほとほと失望したぞ。このままではグランヴィル家は破滅してしまう!」




