EP 13
「ジェイン。さっそくだが、こちらはジョンズ商会のご令嬢リリーだ。彼女はおまえと同じ年齢で、すでに父親の会社を立派に切り盛りされているやり手のお方だ。おまえの結婚相手に一番相応しいと思うのだが」
前置きや挨拶はない。直ぐに本題に入る伯父のいつものスタイル。
そんな伯父の、第一声がもう受け付けなかった。ジェインは、ちらと隣に視線をやった。壱花は、にこにこと笑顔を浮かべている。壱花は英語が話せない。毒を持った伯父の言葉の意味がわからないだろうからと、ほっと胸を撫で下ろした。
「初めまして、わたくしリリーと申します。ジェインさん、お噂はおじ様から伺っておりますわ」
ブロンドの髪にゆるやかなウェーブ、ゴージャスな美人が握手を求めてくる。
こちらの一手をどう出すか、考えを巡らせていた。だが、婚姻届はすでに提出済みという強みがある。しかも本物の、だ。法律が味方してくれている。
「申し訳ないが、私にはもう妻がおりますので、結婚相手としてのご紹介ならば、握手はできません」
ジェインは意地悪小僧のように、腕を後ろ手にした。
リリーはあら、と呟くと、手を早々に引っ込め、そして改めてもう一度手を差し伸べた。
「ビジネスなら?」
「それなら結構です」
握手を受け入れた。
「嬉しいですわ。これからもどうぞお付き合いの程、よろしくお願いします。それにしてもジェインさん、あなたのハートを射止めた方がいらっしゃるとの噂は、皆さまだけでなく、わたくしの耳にも届いていましてよ。そのラッキーなご令嬢はどちらにいらっしゃるの?」
あからさまな無視だった。視線は壱花の頭上を行き来している。ジェインはそれこそ気分を害したが、ここで怯んではいけない。壱花の為にも反撃は必要だ。
「私の妻、柊 壱花さんです」
ぐいと肩を抱き、こめかみにキスをした。そして壱花が向けてくる弱々しい視線に視線を合わせ慈愛の目で見つめると、
「私がずっと彼女にアタックし続けて、先日ようやく射止めることができました。褒めてくれませんか? よくやったと。私の粘り勝ちですが、いつも優位に立っているのは、壱花です。なぜなら、私が彼女にベタ惚れだから。毎日壱花のことで頭がいっぱいですし、私の視線は壱花しか捉えられません」
盛大な惚気にリリーの頬がひくっと引きつる。そこまで言われれば、押し黙るしかない。
「あらお幸せそう。羨ましい限りですわ。では失礼します」
一言言って、その場を離れていった。
(さあ、一人は撃退できたが……)
まだ、ラスボスが残っている。リリーに恥をかかせたのが気に入らないのだろう、憮然とした伯父を前にし、ジェインは戦闘態勢を崩さない。




